マーケティングオートメーションがBtoBマーケティングでも盛んに活用されているが、その導入や運用においてどうすべきか悩んでいる企業は多い。特に導入を検討する段階においては、どのマーケティングオートメーションツールを選ぶべきか、どのように運用すべきか、どのくらいのリソース(予算、時間、スキルなど)が必要なのかなど、不安に思うことも多い。
実際に、弊社が実施しているアンケート調査でも、マーケティングオートメーションの導入や運用に悩む下記のような回答があった。
そこで今回のコラムでは、「本当に効果があるのか」、「効果を最大化するにはどうすればいいのか」に焦点を当て、マーケティングオートメーションの導入効果について考察する。
そもそもマーケティングオートメーションの「導入効果」とは何か?
最初に、マーケティングオートメーションの導入効果にはどのようなものがあるのか、よくある3つのKPIをご紹介しよう。
マーケティングオートメーションのKPI「MQLの創出数」
MQL(Marketing Qualified Lead)とは、マーケティング活動・施策によって、ある程度の購入確度を満たしていると判断されたリードリストのことだ。ホットリードとも呼ばれる。
マーケティングオートメーションでは、スコアリングやリード別のWebアクセス分析(行動分析)が可能であるため、こういった判断材料を活用して、MQLリストを作成することができる。
MQLリストは、リストの抽出条件を何にするか?の設計が非常に重要だ。MQLの抽出条件を厳しくすると、数が少なくなる分、確度が高くなり質が上がる。逆に、抽出条件をやさしくすると数は多くなるが、確度が低くなる。このバランスが非常に難しいが、確度の高いリードを抽出できれば、営業のムダがなくなり工数が削減でき、営業戦略の効率化も実現できる。
そのため、マーケティングオートメーションのKPIとして、この「MQLの数」が設定されることが多い。
マーケティングオートメーションのKPI「売上貢献度」
売上貢献度とは、マーケティングオートメーション経由でどれだけ製品・サービスが売れたか?を示すKPIだ。売上貢献度の計算式はいくつかあり、代表的なものは下記の2つである。
1つ目は、年間100の取引があった場合、マーケティングオートメーションがきっかけとなった取引は何件あるか?で売上貢献度を算出する方法だ。
2つ目は、ある売上を達成するためにマーケティングオートメーションがどれだけ関与したか?で売上貢献度を算出する方法だ。これは売上ごとに分析しなければならないのでかなり大変である。
売上貢献度が算出できれば、マーケティングオートメーションの導入に対しての費用対効果を経営陣に提示することができ、導入効果を社内でアピールすることができる。
マーケティングオートメーションのKPI「売上」
最後のKPIは「売上」だ。これはオンラインショップやオンライン申し込みなどができる商材(Web完結する商材)に限られるが、売上そのものがKPIとして設定される。
3つのKPIとマーケティングオートメーションの導入効果
これら3つのKPIのうち、どれにするかは、企業規模、リアルチャネル(営業部門やパートナー・代理店など)との兼ね合い、業界・顧客特性によってまちまちである。しかし、規模が大きくなればなるほど、売上貢献度の計算や、MQLの条件設定は複雑化し、非常にややこしくなる。その分、分析工数がかかることになる。
しかし、最も重要なのは、どのKPIを選ぶか?よりも、マーケティングオートメーションを導入したことによって、選んだKPIの達成工数が削減できたかどうか?である。マーケティングオートメーションの導入前後で、どれだけ効率よくKPIを追求できるようになったか?が重要なのである。
効率よくKPIを追求できるようになった上で、各KPIの数値が向上すれば、マーケティングオートメーションの導入は成功と言えるだろう。
マーケティングオートメーションの導入は本当に効果があるのか?
ご紹介したように、3つのKPIのどれか1つでも、数値を高めることができれば、かつ、高めるための工数を最小化できれば、費用対効果を最大化できたと言えるだろう。しかし、現実はそう甘くはない。
実際に、マーケティングオートメーションを導入している企業では、特にBtoBにおいて、下記のような5つの課題が発生している。
- コンテンツ作成の課題
- 部門間の壁の課題
- メールライティング力の課題
- PDCAの回し方の課題
- アンケート設計の課題
1つ1つ詳しくご紹介しよう。
課題1「コンテンツ作成の課題」
マーケティングオートメーションを導入すると、定期的にメールをリードに配信する必要がある。配信自体はマーケティングオートメーションが自動的に配信してくれるが、メールのコンテンツを作るのは担当者の仕事だ。つまり、定期的にメールコンテンツを作り続けなければならない。
極端な例でいえば、半年に1本、メールコンテンツを作り配信する場合、メールの作成は半年に1回でよいが、リードへのアプローチも半年に1回になり、スコアも上がらない。逆に週に1回メール配信する場合は、毎週メールをライティングしなければならない。メールのネタ作り、ライティング、原稿チェック、配信設定など、かなりの工数が必要になる。しかし、毎週配信するとスコアが上がる可能性も高くなる。
この工数を割くことができず、結果的にメール配信がなおざりになるケースも多々ある。
課題2「部門間の壁の課題」
前述したように、マーケティングオートメーションはメールコンテンツを定期的に作り続けなければならないが、そのメールコンテンツを他部門が作成する場合、部門間の壁を突破する必要がある。
他部門がメール配信に協力的であればよいが、そうでない場合は、業務が後回しにされてしまい、なかなかメールコンテンツが出てこない。そうなると、定期的な配信も遅れてしまい、結果的にKPIがなかなか向上しないという結果になってしまう。
課題3「メールライティング力の課題」
メール配信では、メールのライティング力が非常に問われる。メールのライティングを工夫することで、開封率、クリック率、コンバージョン率に大きな影響を与える。
いつも、通り一辺倒の内容でメールライティングにも工夫がない場合は、クリック率・開封率はだんだんジリ貧になっていくだろう。そのため、メールライティング力のスキルアップを視野に入れたマーケティングオートメーションの運用を検討しなければならない。
課題2でも記載したが、他部門が作成したメールコンテンツの場合、ライティング力は他部門だのみだ。しかし、メールのライティングがプロダクトアウト(自社目線)であれば、ライティング力の改善もなかなか進まない。毎回、言われたメールを配信するだけの配信代行のような形になってしまう。
したがって、他部門にライティングを任せる場合は、「ライティングされた原稿を編集するスキル」の向上も必要になってくるだろう。
なお、メールライティングについては、下記の資料で詳しい内容を紹介しているので、是非参考にしていただければと思う。
〜MA活用の効果を高めるメールマーケティングテクニック〜
https://btobmarketing.aluha.net/contact/white-paper/#r18
課題4「PDCAの回し方の課題」
マーケティングオートメーションはメールをライティングし、配信すれば終了ではない。実際に前述した3つのKPIの数値が上がっているかを定期的に確認しなければならない。
しかし、この確認工数が非常に大変だ。KPIを何に設定しているかにもよるが、場合によっては社内のあらゆるシステムや担当者から情報を収集し、集約してレポーティングしなければならない。情報が点在していたり、データをエクセルなどで加工するといった業務は、件数が多くなればなるほど大変である。
課題5「アンケート設計の課題」
前述したように、マーケティングオートメーションはメールを配信し続けなければならない。そのためには「ネタ」が必要だ。そのネタ作りの1つにリードの課題調査がある。リードの課題をアンケートで調査し、その調査結果を分析してメールのネタの参考にするのだ。
この場合、課題調査をするアンケートの設計力が問われることになる。しかも、アンケートは1回やって終了ではない。リードの課題やニーズは時間と共に変化するため、定期的に実施する必要がある。
そのため、アンケートを設計するスキルや定期的に実行する工数も必要となるだろう。
マーケティングオートメーションの効果を最大化するための5つの条件
以上、マーケティングオートメーションのよくある3つのKPIと現場の5つの課題をご紹介した。
- MQLの創出数
- 売上貢献度
- 売上
- コンテンツ作成の課題
- 部門間の壁の課題
- メールライティング力の課題
- PDCAの回し方の課題
- アンケート設計の課題
マーケティングオートメーションは確かに便利なツールである。リードを育成する仕組みや、確度の高いリードを抽出する判断材料を提供してくれる。
しかし、導入したからといって、すぐにだれでも、3つのKPIの数値が上がり、導入効果が得られるというわけではない。
やはり、5つの課題を解決する突破口を導入前にしっかり検討しておくことが重要だ。5つの課題を逆説的に言えば、下記のような条件を満たせるかどうか?がポイントになるだろう。
- 定期的にメールコンテンツを作る体制があるか?
- 他部門にコンテンツ制作を依頼できる連携体制はあるか?
- メールライティング力の高い担当者はいるか?スキルアップを実現する体制があるか?
- 設定したKPIの数値を効率的に収集・分析できるプロセスがあるか?
- ネタ切れを起こさないためのアンケート調査が定期的にできるか?
すべてYESなら、すぐにでも導入し、マーケティング業務の工数削減を狙うことができるが、NOがあるなら、1つ1つ体制を構築しながらマーケティングオートメーションの運用を進めていかなければならない。
いつまでにどのように体制構築するか?という計画を事前に具体化しておくことで、マーケティングオートメーションの導入効果は最大化すると言える。こういった検討をおこなってこそ、本当の効果を追求できるのではないだろうか。
(2019年5月28日 IT企業 Mさんからの回答)