BtoBマーケティング戦略の立て方|ターゲティング・価値定義・ポジショニングの決め方

誰に売るかを決める、何を価値として伝えるか、どう勝つかを整理する
Last Updated on 2026年8月11日 by 荻野永策

このコラムは、技術系商材を扱うBtoB製造業、IT企業で、中堅規模以上の企業に所属し、展示会、ウェビナー、Web施策、メール施策などを試行錯誤しながら実行しているマーケティング担当者向けに作成している。

BtoBマーケティング戦略が曖昧なまま施策を増やすと、ターゲット、価値訴求、競合との差別化が分断され、努力量のわりに成果が伸びにくくなる。本コラムでは、ターゲティング4象限価値定義4象限ポジショニング4象限を使い、「誰に売るか」「何を価値として伝えるか」「どう選ばれるか」を整理する方法を解説する。

最後まで読むことで、BtoBマーケティング戦略を施策単位ではなく、ターゲット、価値、勝ち筋のつながりとして見直すヒントが得られる。個別施策の改善に追われる状態から抜け出し、営業や技術部門とも共有しやすい戦略の考え方を整理できるはずである。

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BtoBマーケティング戦略が曖昧になる理由

技術系商材を扱うBtoB製造業やIT企業では、展示会、ウェビナー、SEO、広告、メール、MA、SNSなど、実行できる施策が増えている。施策が増えること自体は悪いことではない。しかし、BtoBマーケティング戦略が曖昧なまま施策だけを増やすと、努力量のわりに成果が伸びにくくなる。リードは増えているのに営業が追わない、資料請求はあるのに商談化しない、コンテンツを作っても受注につながらない、といった問題が起きやすいのである。

この問題は、担当者の努力不足ではない。むしろ、試行錯誤している努力家ほど、目の前でできる改善を積み重ねようとする。広告文を直し、LPを改善し、ウェビナーのテーマを変え、メールの配信条件を見直す。しかし、誰を狙うのか、何を価値として伝えるのか、競合に対してどう勝つのかがつながっていなければ、施策は部分最適になりやすい。結果として、マーケティング担当者だけが改善を抱え込み、営業や技術部門との認識差は残ったままになる。

BtoBマーケティング戦略で重要なのは、施策を増やす前に判断基準をそろえることである。どの企業を優先すべきか、どの人物像に届けるべきか、顧客にとっての価値は何か、自社は何で選ばれるのかを整理しなければ、施策の成果を正しく評価できない。そこで有効になるのが、ターゲティング4象限価値定義4象限ポジショニング4象限である。

判断軸決めること対応する4象限
誰に狙う企業像・人物像を決めるターゲティング4象限
何を顧客に伝える価値を決める価値定義4象限
どう勝つか選ばれる理由と競争優位を決めるポジショニング4象限

BtoBマーケティング戦略は「誰に・何を・どう勝つか」で考える

BtoBマーケティング戦略は、複雑に見えるが、基本は「誰に」「何を」「どう勝つか」を決めることである。誰に売るかが曖昧であれば、広告もコンテンツも広く浅い訴求になる。何を価値として伝えるかが曖昧であれば、機能説明や製品紹介に終始し、顧客が自分ごと化できない。どう勝つかが曖昧であれば、競合比較になった瞬間に価格や知名度で判断されやすくなる。

3つの4象限は、この流れを段階的に整理するための道具である。ターゲティング4象限は、企業像と人物像を整理し、狙う相手を決める。価値定義4象限は、性能価値、効率価値、リスク価値、成長価値のどれを中心に伝えるかを決める。ポジショニング4象限は、顧客からどう見られたいか、自社は何で選ばれるか、競合にとって真似しにくい強みをどう作るかを決める。

この3つを別々に考えるのではなく、順番につなげて考えることが重要である。ターゲットが変われば、伝えるべき価値も変わる。価値が変われば、選ばれる理由も変わる。つまり、BtoBマーケティング戦略とは、施策の一覧表を作ることではなく、ターゲット、価値、勝ち筋を一貫させることである。

ステップ1:ターゲティング4象限で「誰に売るか」を決める

ターゲティング(企業像・人物像)で迷った時の「ターゲティング4象限」

ターゲティング(企業像・人物像)で迷った時の「ターゲティング4象限」

最初に決めるべきことは、誰に売るかである。ターゲティング4象限では、企業像を会社重視型、課題重視型、購買意欲重視型、状況重視型に分けて考える。会社重視型は、業界、企業規模、地域、部署、業務内容などの属性からターゲットを決める方法である。大手製造業、自動車業界、情報システム部門、品質保証部門など、リスト化しやすい点が特徴である。

一方、課題重視型は、企業属性ではなく「何に困っているか」を起点にする。人手不足、品質改善、コスト削減、部品EOL、レガシーシステムの保守負荷など、顧客の課題からターゲットを考える。購買意欲重視型は、情報収集、比較検討、稟議など購買プロセスの段階を重視する。状況重視型は、手作業、Excel管理、他社システム利用中、自動化済みなど、現在の業務状態からターゲットを決める。

技術系BtoB企業では、「製造業を狙う」「IT部門を狙う」という属性だけのターゲティングになりやすい。しかし、それだけでは営業が動きやすいリードかどうかは判断できない。ターゲティング4象限を使えば、会社属性、課題、購買段階、業務状況を分けて整理できる。これにより、リード件数ではなく、営業が追う理由のあるターゲットを定義しやすくなる。

ステップ2:人物像まで整理し、リードへの伝え方を決める

リードの人物像をターゲティングする

リードの人物像をターゲティングする

ターゲティングでは、企業像だけでなく人物像も重要である。同じ企業を狙っていても、相手が技術担当者なのか、現場責任者なのか、管理職なのか、経営層なのかによって、響く情報は異なる。ターゲティング4象限では、人物像を変革リーダー型、改革実践型、慎重検討型、安全確認型に分けて整理する。

変革リーダー型は、現状を変えたい意欲が強く、新しい取り組みに前向きである。ただし、なぜ変えるべきか、本当に成果につながるかを自分なりに納得したい。改革実践型は、変革に前向きでありながら、導入事例、実績データ、ROI試算、比較情報などの確証を求める。慎重検討型は、新規性よりも自社課題との適合性を重視する。安全確認型は、失敗やリスクの回避を重視し、導入実績、品質保証、サポート体制などの安心材料を求める。

人物像を整理する目的は、相手を分類することそのものではない。相手が意思決定時に何を重視するかを理解し、伝える情報を変えることである。変革リーダー型には課題構造や将来像を示す必要があり、安全確認型には不安を解消する根拠が必要である。BtoBマーケティング戦略では、企業リストを作るだけでなく、リードが判断しやすい情報設計まで含めて考える必要がある。

ステップ3:価値定義4象限で「何を価値として伝えるか」を決める

価値定義で迷った時の「価値定義4象限」

価値定義で迷った時の「価値定義4象限」

次に決めるべきことは、何を価値として伝えるかである。技術系商材では、どうしても機能、仕様、性能、技術的特徴を説明したくなる。しかし、顧客が知りたいのは機能そのものではなく、その機能によって自社にどのような成果がもたらされるかである。価値定義4象限は、この価値の言語化を支援するフレームである。

価値定義4象限では、価値を現場価値と事業価値、攻めの価値と守りの価値に分ける。現場価値と攻めの価値が交わるところには性能価値がある。これは、より速く、より正確に、より高品質にする価値であり、技術担当者や開発担当者に響きやすい。現場価値と守りの価値が交わるところには効率価値がある。これは、作業時間の短縮、省人化、自動化、工数削減など、日々の業務負荷を軽くする価値である。

事業価値と守りの価値が交わるところにはリスク価値がある。これは、生産停止、品質不良、部品供給停止、情報漏洩などの損失を防ぐ価値である。事業価値と攻めの価値が交わるところには成長価値がある。これは、売上拡大、新市場参入、新製品開発、競争力向上など、将来の成果を生み出す価値である。

重要なのは、自社の商材をひとつの価値だけで説明しないことである。例えば、同じERPツールでも、現場担当者には入力工数削減という効率価値を伝え、経営層には経営判断の高度化という成長価値を伝えることができる。同じ部品でも、技術担当者には性能価値を伝え、調達や品質保証にはリスク価値を伝えることができる。価値定義4象限を使うことで、機能説明から顧客価値への変換がしやすくなる。

ステップ4:ターゲットに合わせて価値の見せ方を変える

ターゲティングと価値定義は、別々に考えてはいけない。狙う相手が変われば、伝える価値も変わるからである。たとえば、手作業やExcel管理に困っている現場を狙うなら、効率価値が中心になる。作業時間がどれだけ減るのか、入力ミスがどれだけ減るのか、標準化によって誰でも同じ品質で作業できるのかを示す必要がある。

品質不良や供給停止リスクを抱える企業を狙うなら、リスク価値が重要になる。問題が起きた場合の損失、未然に防げるトラブル、長期供給や品質保証の体制を説明する必要がある。技術優位性を高めたい企業を狙うなら、性能価値を中心に据えるべきである。新市場参入や新製品開発を目指す企業を狙うなら、成長価値を中心に伝えるべきである。

この接続ができていないと、BtoBマーケティング戦略は崩れやすい。ターゲットは経営層なのに、現場機能ばかり説明する。購買段階は稟議前なのに、初歩的な啓発コンテンツばかり出す。安全確認型の人物像に対して、斬新さだけを訴求する。このようなズレが起きると、リードは増えても案件化しにくい。ターゲットと価値を接続することが、戦略を施策に落とし込む第一歩である。

ステップ5:ポジショニング4象限で「どう勝つか」を決める

誰に売るか、何を価値として伝えるかを決めたら、次はどう勝つかを決める。ポジショニング4象限は、自社が顧客からどう見られたいか、自社は何を武器に選ばれるか、競合にとってどのような脅威になるかを整理するフレームである。BtoBマーケティング戦略では、価値を伝えるだけでは不十分である。競合と比較された時に、なぜ自社を選ぶべきかを言語化する必要がある。

顧客から見たポジショニング

顧客から見たポジショニング(顧客に対してどんな役割を果たす企業になるか)を決める

顧客から見たポジショニング(顧客に対してどんな役割を果たす企業になるか)を決める

顧客から見たポジショニングでは、変革役、革新役、最適化役、改善役という4つの役割を考える。変革役は、顧客の経営課題や事業課題に踏み込み、未来を変えるパートナーとして選ばれる立場である。革新役は、現場に新しい方法や技術を導入し、これまで実現できなかったことを可能にする立場である。最適化役は、経営視点から全体最適を実現する立場である。改善役は、現場の日常業務にある非効率や手間を削減する立場である。

自社から見たポジショニング

自社から見たポジショニング(自社は何を武器に選ばれるか)を決める

自社から見たポジショニング(自社は何を武器に選ばれるか)を決める

自社から見たポジショニングでは、効率性、適合力、性能、安心感のどれで選ばれるかを考える。効率性は、安い、早い、便利で選ばれる方向性である。適合力は、カスタマイズ、提案、課題解決で選ばれる方向性である。性能は、高品質、高性能、最高技術、最先端で選ばれる方向性である。安心感は、導入実績、業界知識、ブランド力、長期供給、サポート体制で選ばれる方向性である。

ステップ6:競合に真似されにくい強みを作る

ポジショニング4象限の特徴は、顧客からの見え方や自社の選ばれる理由だけで終わらない点にある。競合から見た時に、自社がどのような脅威になるかまで考える。選ばれる理由があっても、競合が簡単に真似できるなら、競争優位は長続きしない。BtoBマーケティング戦略では、顧客評価を高めるだけでなく、模倣されにくい強みを育てる必要がある。

競合から見たポジショニング

競合から見たポジショニング(競合から見た自社の脅威をより強くする方法)を決める

競合から見たポジショニング(競合から見た自社の脅威をより強くする方法)を決める

競合から見たポジショニングでは、価値向上、技術蓄積、顧客基盤化、組織資産化の4つを考える。価値向上は、商品やサービスそのものの性能、品質、機能、利便性を高めることである。技術蓄積は、独自技術、知的財産、ノウハウ、データなどを蓄積し、真似しにくい状態を作ることである。顧客基盤化は、導入実績、ブランド、顧客コミュニティ、継続支援などによって選ばれる前例を積み上げることである。組織資産化は、人材、企業文化、業務プロセス、部門連携、パートナー網などを組織の資産として蓄積することである。

たとえば、性能で選ばれる企業であれば、価値向上だけでなく技術蓄積が重要になる。安心感で選ばれる企業であれば、顧客基盤化や組織資産化が重要になる。適合力で選ばれる企業であれば、個別対応のノウハウを属人的な経験で終わらせず、提案プロセスや支援体制として組織に残す必要がある。ポジショニングとは、言葉の見せ方だけではなく、競争優位を育てる経営活動でもある。

3つの4象限を使ったBtoBマーケティング戦略の作り方

3つの4象限を使う場合、まずターゲティング4象限で狙う企業像を整理する。会社属性だけでなく、課題、購買段階、業務状況を確認し、どの対象を優先するかを決める。次に人物像を整理し、意思決定時に何を重視するリードなのかを考える。ここまでで「誰に」が明確になる。

次に、価値定義4象限で「何を」を決める。性能価値、効率価値、リスク価値、成長価値のどれを中心に伝えるべきかを整理する。この時、ひとつの商材にひとつの価値しかないと考える必要はない。相手の企業像と人物像に合わせて、どの価値を前面に出すかを決める。

最後に、ポジショニング4象限で「どう勝つか」を決める。顧客から見た役割を明確にし、自社が何で選ばれるかを言語化し、競合に真似されにくい強みを育てる方向性を決める。この一連の流れを使えば、広告、SEO記事、ウェビナー、展示会、営業資料、ホワイトペーパー、メール配信などの施策が、バラバラではなく同じ戦略に沿って動きやすくなる。

施策を増やす前に、部門間・関係者間の戦略のズレを見直すべき

成果が伸びない時、多くのBtoBマーケティング担当者は施策を増やそうとする。広告媒体を増やす、記事本数を増やす、ウェビナー回数を増やす、MAシナリオを増やす。しかし、ターゲット、価値、ポジショニングがずれたまま施策を増やしても、成果は分散しやすい。むしろ、担当者の負荷だけが増え、営業との連携も難しくなる。

BtoBマーケティングの施策を試行錯誤して進めている担当者に必要なのは、努力を止めることではない。努力の向け先を整理することである。個別施策の改善を続ける前に、そもそも誰に届けるべきか、その相手は何を価値と感じるか、自社は何で選ばれるべきかを見直す必要がある。3つの4象限は、その見直しを感覚論ではなく、構造的に進めるための道具である。

BtoBマーケティング戦略は、現場担当者だけで完結するものではない。営業、技術、経営、サポートなど複数部門の認識をそろえる必要がある。ターゲティング4象限価値定義4象限ポジショニング4象限を使えば、部門ごとに異なる主張を同じ土俵で整理しやすくなる。事前に議論の軸が明確になるため、論点を集中して議論しやすくなる。これは、営業とマーケティングの認識差を減らすことにもつながる考え方である。

まとめ

BtoBマーケティング戦略は、誰に、何を、どう勝つかを決めることである。ターゲティング4象限は、狙う企業像と人物像を整理する。価値定義4象限は、顧客に何を価値として伝えるかを整理する。ポジショニング4象限は、顧客からどう見られ、自社は何で選ばれ、競合に対してどのような強みを作るかを整理する。

この3つをつなぎ合わせると、BtoBマーケティング戦略は施策単位の改善ではなく、全体の勝ち筋として見直せるようになる。リードが増えない、商談化しない、営業が追わない、競合と差別化できないといった課題は、単一施策の問題ではなく、戦略の前提が曖昧なことから生まれている場合が多い。

試行錯誤を続けることは重要である。しかし、努力量を増やす前に、努力が向かう方向をそろえる必要がある。ターゲティング、価値定義、ポジショニングを整理し、誰に、何を、どう勝つかを明確にすることが、技術系BtoB企業におけるBtoBマーケティング戦略の出発点である。

ABOUTこの記事をかいた人

株式会社ALUHA代表取締役社長。1979年兵庫生まれのBtoBマーケティングコンサルタント。金沢工業大学大学院にて情報工学を専攻し2003年3月に修士課程を修了。同年4月にALUHAを創業。2008年からBtoBに特化したマーケティング支援、営業戦略支援を開始。2025年7月に顧客の質と量のバランスを重視するBBM(バランスベースドマーケティング)を考案。大手IT企業、製造業(日立Gr、富士フイルムGr、キヤノンGr、積水Grなど)を顧客に持つ。→セミナー講演実績→コンサル実績