製造業のBtoBマーケティング課題「サプライチェーン硬直化状態でのマーケティング戦略の考え方」

サプライチェーン硬直化状態での営業・マーケティング施策の具体策
Last Updated on 2024年9月7日 by 荻野永策

産業機器部品メーカーなどのBtoB製造業においては、BtoBマーケティング戦略営業戦略を立案する際に、「サプライチェーンの硬直化」という課題にぶち当たる。「サプライチェーンの硬直化」とは、「購入側(顧客)の部品調達先が硬直化しており、新規案件獲得を狙う隙間がない(少ない)状態」のことをいう。実際に弊社にも下記のようなご相談をいただいている。

硬直化しているサプライチェーンの中で、展示会プロモーションとデジタルマーケティングで新規案件創出を狙うのか、それとも、既存顧客との関係性強化がメインになるのか、方向性についてアドバイスがほしい(P社様)

そこで、今回のコラムでは、サプライチェーンの硬直化状態でのBtoBマーケティング戦略の考え方についてご紹介する。どのような考え方でどんなマーケティング施策を展開すべきか、弊社の考え方をご紹介する。

BtoBマーケティングの戦略立案や推進に役立つ資料・エクセルテンプレート
BtoBマーケティングの戦略と計画の立案方法やPDCAの回し方、KPIの可視化の仕方に関する資料がダウンロードできます。戦略や計画の立案、PDCAに必要なエクセルやパワーポイントのテンプレートもついています。

資料名:BtoBマーケティング戦略の立て方
BtoBマーケティングの戦略立案のエクセルテンプレート

この資料で学べること

  1. BtoBマーケティング戦略の立案手順(戦略俯瞰図のパワポテンプレート付き)
  2. マーケティング計画の立て方(計画立案エクセルのサンプル付き)
  3. KPI可視化のやり方(KPI可視化エクセルのサンプル付き)
  4. PDCAの回し方(PDCAレポートのエクセルサンプル付き)

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BtoB製造業のマーケティング2つの課題

サプライチェーンの硬直化

「サプライチェーンの硬直化」とは、「購入側(顧客)の部品調達先が硬直化しており、新規案件獲得を狙う隙間がない(少ない)状態」のことをいう。すでに顧客側は仕入れ先(調達先)を確定しており、それを切り替えることが非常に難しい状態だ。

調達業務の観点から見れば、硬直化すると仕入れのロット数を多くすることができコストダウンにつながる反面、災害などの発生時には調達の不安定さを招く可能性がある。極端な話、調達先を1社に固定している顧客の場合、その1社が災害などで生産がストップしてしまうと、部品の調達ができないため顧客の生産もストップすることになる。

営業やマーケティングの観点から見れば、硬直化している状態は、入り込む隙間がなく、商談化・案件化や受注が非常に難しくなる。顧客側が調達先の見直しなどを検討しない限り、チャンスがない。非常に長い戦いを強いられることになる。

さらに、例えば、競合他社が「自社の生産工場を各所に分散化」している場合、どこかの工場で災害などが発生したとしても生産が止まる可能性は低くなる。そのため、「サプライチェーンの硬直化による生産停止リスク」を回避できることになる。こういった競合がいれば、ますます入り込む隙間は狭くなるだろう。

市場の狭さ

次に、BtoB製造業のマーケティング課題としては、市場の狭さ(顧客の少なさ)がある。マニアックな部品などを製造する場合、ターゲットとなる顧客の数が非常に少ないことが多い。さらに、サプライチェーンの硬直化問題も絡んでくると、ますます新規顧客開拓は難しいと言わざるを得ない。

ただ、メリットとしては、「売り込む顧客を明確化しやすい」というメリットがある。売り込む相手企業の社名リストを作成しやすく、そのリストにさえ売り込みをすれば良いという考え方ができる。

2つの課題の中での戦略の方向性・考え方

サプライチェーンが硬直化し市場も狭い場合、新規顧客開拓は非常に難しいため、戦略の方向性としては、既存顧客優先の考え方がよい。つまり「既存の優良顧客の死守と優良顧客からの新規案件の創出」、そして「一般顧客の優良顧客化」を最優先にする。その上で、「新規顧客の獲得」を常時狙っていくという戦略の方向性となる。

戦略の方向性と考え方(優先度順)
  1. 「既存の優良顧客の死守と優良顧客からの新規案件の創出」
  2. 「一般顧客の優良顧客化」
  3. 「新規顧客の獲得」

ただでさえ市場が狭い上に、万が一、顧客流出してしまうと再度獲得するのが困難なため、優良顧客の死守は大前提である。

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  4. PDCAの回し方(PDCAレポートのエクセルサンプル付き)

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戦略を実行するためのリソースの使い方方針

では、このような状況の中で、リソースはどのように活用すべきだろうか?

まず、「既存の優良顧客の死守と優良顧客からの新規案件の創出」は「担当営業」がメインに行う。「売りっぱなし」を防止し継続的なフォローと課題解決の支援が重要だ。クレーム発生の際にも最優先で対応すべきであろう。

「一般顧客の優良顧客化」も営業要員に余裕があれば人活用が中心となるだろう。もし最優良顧客の対応で時間が割けない場合は、デジタル活用とのハイブリッド作戦を検討する。メールやWEBサイト、動画などで有益なコンテンツを作成し、継続的にデジタル上でフォローすることで流出を防ぐ。その上で、デジタル起点で優良顧客化の機会を継続的に作り出し、人にバトンタッチする。

「新規顧客の獲得」は硬直化している以上、人が動いても難しい。そのため、デジタル活用を中心に考える。顧客側が新しい仕入れ先を探し始める「タイミング」をデジタルを使って掴む方法を事前に検討し準備しておくと良い。

このようにリソースを活用することで、人のリソースを重要な業務に集中投下させることができるようになる。営業のリソース負荷の削減にもつながるだろう。

マーケティング施策の精度を高めるために事前にやっておくべき2つのこと

では、実際にどのようなマーケティング施策を展開すべきだろうか?施策展開する前に、準備しておくべきことが2つあるのでご紹介する。

優良顧客との関係性の深さを可視化

1つ目は、最優先である優良顧客の死守のため、優良顧客との関係性の深さを可視化することだ。可視化するには下記のような表を御社の顧客に合わせて作成すると良い。

優良顧客との関係性の深さを可視化

優良顧客との関係性の深さを可視化

上記表は、縦軸に優良顧客名、横軸に部門名を記載した表だ。そして、部門ごとに何人の担当者と接点があるのか?を一覧表にしている。この時、上記例では、BBB社の設計部門は0人となっている。こういった箇所を事前に分析し、優良顧客との関係性を可視化しておくとよい。施策展開するときにどこをどのように狙うか?を具体的に検討しやすくなる。

優良顧客への提供価値を定義するための貢献度調査

営業やマーケティング施策を効果的に展開するには、「営業やマーケティングの武器」が必須だ。武器とは「顧客が興味を引くポイント」のことで「提供価値」といった言い方もする。この武器を事前に準備しておき、具体的な施策に落とし込んでいくと良い。

具体的には、優良顧客に対して「貢献度調査」を実施する。貢献度調査とは「自社の製品によって優良顧客はどんな課題を解決しどんなメリットを得られたか?」を調査することだ。対面でのヒヤリング調査が理想的で、関係性のある部門や拠点、そしてさまざまな役職の方にヒヤリングすると非常に良い情報が得られる。

「自社の製品によって優良顧客はどんな課題を解決しどんなメリットを得られたか?」を知ることで、自社製品はどんな価値を提供しているのか(言い方を変えればどんな課題解決に貢献しているのか)を明確にすることができる。

その提供価値をいくつか把握した上で、営業やマーケティングの施策に落とし込んでいくと精度の高い施策を打つことができるようになる。

貢献度調査の事例については、IT企業ではあるが、下記の弊社のお客様で一緒に実施した成功事例があるのでどのような効果が得られたのか、参考にしてほしい。

IT企業「株式会社アシスト様」の貢献度調査の事例(ABMコンサルティング事例)

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具体的な3つのマーケティング施策

では、具体的な営業やマーケティング施策を3つご紹介する。

優良顧客の未開拓部門や未開拓拠点を狙う施策

優良顧客との関係性の深さを可視化

優良顧客との関係性の深さを可視化

上記の表のように、優良顧客でも未開拓部門や未開拓拠点がある場合は、そこを狙う営業やマーケティング施策を検討する。方法としてはいくつかあるが、代表的なやり方を1つご紹介しよう。

まず、BBB社以外の優良顧客においては、設計部門と接点がある状態だ。そのためBBB社以外の設計部門に対して貢献度調査を行い、「解決できてよかった課題」を把握する。

そして、BBB社と接点のある製造部門などに対して、「設計業務でこういう課題はないですか?弊社では解決を支援できますよ?」といった提案をする。この時、「こういう課題はないですか?」と提案する課題は、「解決できてよかった課題」と連動した課題にする。

このような提案を行い、製造部門の担当者が「設計の担当者に聞いてみる」と回答があれば、未開拓部門への接点創出のきっかけとなりえる。こういった活動を継続的に繰り返し、未開拓部門が徐々に少なくなっていくと、より関係性が強固となり死守することができる。さらに未開拓部門や未開拓拠点から別の新規案件などを獲得できる可能性もある。

一般顧客を優良顧客化する

一般顧客を優良顧客化する施策としては、貢献度調査で判明した「優良顧客が解決できてよかった課題」を切り口にしたソリューション提案書(営業提案書)を作成し、それを一般顧客に提案する活動を行う。

ソリューション提案書(営業提案書)のパワポサンプルフォーマットもあるので、よければ下記からダウンロードして使ってほしい。ただし、下記のサンプルはBtoB企業(IT企業やコンサル業なども含むBtoB企業)向けに作成しているため、多少スライドの修正なども必要になるが、ソリューション提案書(営業提案書)作成のヒントにはなるだろう。

ソリューション提案書(営業提案書)のサンプル

「優良顧客が解決できてよかった課題」を切り口にしたソリューション提案書(営業提案書)を活用することで、一般顧客が同じ課題を抱えていた場合、その一般顧客は優良顧客化する可能性がある。このため、貢献度調査を継続的に行いながら、ソリューション提案書(営業提案書)の本数を増加させ、優良顧客化を狙い続けるとよいだろう。

デジタル活用する場合は、ソリューション提案書(営業提案書)をメルマガで配信するなどすればよい。メール経由での資料請求を獲得できる可能性がある。

新規リードや新規顧客獲得を狙う

新規リードや新規顧客獲得を狙う施策としては、WEBマーケティングを中心に考える。具体的には、「一般顧客を優良顧客化する」施策で制作したソリューション提案書(営業提案書)をホワイトペーパーとしてWEBで公開し、資料請求の獲得を狙う。

同時に、「優良顧客が解決できてよかった課題」からSEO対策のためのキーワードを抽出しSEO対策も行う。こうすることで、検索経由での新規リード獲得の可能性が高まる。

サプライチェーンの硬直化状態であるため、なかなか新規リードの獲得件数は伸び悩むと考えられるが、顧客側が新しい仕入れ先をインターネットで探し始めた「タイミング」を資料請求という形で検知することができる。量より質を狙ったWEBマーケティング施策になるだろう。

まとめ

以上、BtoB製造業のマーケティング課題について解決の方向性や具体的な施策の概要をご紹介した。特に重要なのは下記の2つだ。

製造業のBtoBマーケティング課題を解決する重要なポイント
  1. 優良顧客との関係性の深さを可視化
  2. 優良顧客への提供価値を定義するための貢献度調査

この2つが施策の精度と効果を高める肝となるだろう。加えて効果が出たのかどうかの確認も行えるため、ぜひ積極的に検討していただけたら幸いだ。

また本コラムの内容について、もっと具体的に内容を知りたい、どうやって貢献度調査をするのか教えてほしい、ソリューション提案書の作り方を相談したいなど、ご相談やお問合せがあればこちらからご連絡いただけたらと思う。どのように実施するのかなど具体的なやり方をオンライン会議などでお話しさせていただく。

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ABOUTこの記事をかいた人

株式会社ALUHA代表取締役。1979年兵庫生まれのBtoBマーケティングコンサルタント。金沢工業大学大学院にて情報工学を専攻し2003年4月にALUHAを創業。2008年からBtoBに特化したマーケティング支援、営業戦略支援を開始。BtoBマーケティングや営業戦略の戦略立案から、計画実行とPDCA、そして人材育成を伴走型で支援。デジタルとリアルを融合させた戦略設計が得意。毎月全国各地の様々な企業でBtoBマーケティングセミナーを実施中。100社以上でのセミナー講演実績を持つ。大手IT企業、製造業(日立Gr、富士フイルムGr、キヤノンGr、積水Grなど)を顧客に持つコンサルタント。→セミナー講演実績→コンサル実績