IT企業のBtoBマーケティングのデジタル活用(デジタルマーケティングの活用)は非常に盛んだ。
その大きな理由の1つとして考えられるのが、IT企業のビジネス領域の拡大である。IT企業のメインの顧客は「企業の情報システム部門」であるが、IT製品によっては、業務部門(ユーザー部門)にまで広がる。
そのため、今までアプローチができていなかった業務部門への営業・提案活動が必須となり、デジタルマーケティングの活用が重要視されている。
しかし、業務部門をターゲットとしたデジタルマーケティングには、「SE目線のコンテンツでソリューション提案になっていない」や「業務部門のニーズ・課題がわからない」といった課題がある。
そこで今回のコラムではこの課題を解決したIT企業の成功事例(弊社クライアント事例)をご紹介する。
IT企業のデジタルマーケティング成功事例「A社のご紹介」
ご紹介する企業は、従業員数約900名のIT企業A社である。自社開発のパッケージ製品だけでなく、SI事業やソフトウェア開発なども行なっている。
A社のWEBサイトは、製品ごとに製品紹介のWEBページが準備されており、製品概要、動作環境、事例、特徴的な機能などの詳細な内容が確認できる状況であった。しかし、リード獲得(リードジェネレーション)の件数が思うように伸びず、毎月WEB改善のPDCA会議していたが、CV件数は増えなかった。
そこで、A社のマーケティング部門から弊社にご相談をいただいた。
A社のデジタルマーケティングの取り組みを阻む2つの壁
ご相談を受けた弊社は、A社の担当者Bさんと打ち合わせをし、その結果、A社のデジタルマーケティングの取り組みを阻む2つの壁があることがわかった。
デジタルマーケティングの取り組みを阻む壁「SEOキーワード選定とコンテンツ作り」
A社のWEBサイトは自社製品名でのSEO対策はできていたが、それ以外のキーワード(例えば課題に関連するキーワード、製品カテゴリのキーワードなど)のSEO対策が全くできていなかった。
つまり、製品名でのSEO対策のみであるため、製品名を知っているユーザーの訪問がメインだったのである。この状況では、アクセス数の増加は見込めず、リード獲得の件数も増えない。
そこで、弊社は、Bさんに「マーケティング部門でこういうキーワードでSEO対策してみようといったキーワード選定はしなかったのですか?」と質問すると、「キーワードリストはあるのですが、そこからどうコンテンツを作ればいいのかがわからない」と回答があった。
以上のことから、デジタルマーケティングの取り組みを阻む壁として、「製品名以外のキーワードを選定しているものの、キーワードからどういうコンテンツを作れば良いかわからない」という壁があることがわかった。
デジタルマーケティングの取り組みを阻む壁「ソリューション提案ができない」
A社のWEBサイトには、「課題から製品を探せる」ページがいくつか用意されている。複数製品を扱うIT企業にはよくあるページだ。
そのページを拝見すると、2つの問題が見つかった。
1つ目は、「課題定義」であるが、情報システム部門向けの課題定義となっていた。業務部門向けの課題定義がなく、課題の解決策もすべてSE目線で書かれているコンテンツであった。
2つ目は、「ソリューション提案になっていない」である。「課題から製品を探す」ページは、無数に作成され、公開されていたが、中にはただの製品紹介・製品提案で終わっているページがあった。
わかりやすく言えば、いきなり、製品Aの特徴から説明しているというイメージだ。なぜこのような状況になったのか?を確認すると、「製品Aと製品Bを組み合わせて提案するWEBページなので」という回答だった。
確かに製品Aと製品Bを組み合わせることで、単独では解決できないことが解決できるようになる。そのため、その気持ちはわかるが、「課題から製品を探す」というページカテゴリである以上、製品提案から始まるのは非常にまずい。
以上のことから、デジタルマーケティングの取り組みを阻む壁として、「コンテンツがSE目線、自社目線になっており、ソリューション提案になっていない」という壁があることがわかった。
このように2つの壁があるからこそ、デジタルマーケティングの取り組みがうまくいかないという状況が続いていた。
デジタルマーケティングの2つの壁をどう乗り越えて進めるか?
A社の課題を共有できたので、弊社から集客強化とCVR改善について下記のようなご提案をした。
集客強化のご提案
まずは集客強化は下記の方法をご提案した。
- サジェスト分析を行い製品名を知らないリードがどのようなコンテンツを欲しているのかを明確にする
- サジェスト分析の結果から製品名を知らないリードを集客するコンテンツをマーケティング部主導で設計する
- 設計したコンテンツを技術部門(SE)に協力してもらい作成する
製品名以外のキーワードの候補はマーケティング部門がリストアップしていたため、そのキーワードをベースに、他にもキーワードがないかを検討し、候補となるキーワードリストを作成した。
その後、「サジェスト分析」という方法でキーワード毎の検索ニーズを分析した。サジェスト分析とは、Googleサジェストのキーワード一覧から、検索者の検索ニーズを定量的に判断する手法である。
これにより、対象キーワードで検索している検索者がどのような情報を欲しているのか?の判断材料を作ることができる。そして、その判断材料から、集客に効果的なコンテンツのタイトル案やアウトラインを設計するのだ。
こうすることで、SE目線から脱却したコンテンツ設計が可能となる。
コンテンツの設計が終了したら、SE部門にコンテンツ設計書を展開し、原稿作成に協力的なSEをアテンドしてもらった。その後、SE協力のもと、月2本程度のペースでコンテンツを作成し続けた。
当初、SEからは、「なんでこんなコンテンツが必要なのか?」と反対意見もあったが、サジェスト分析という、客観的なエビデンスを紹介することで、説得力が高まり、一度やってみようかという話になった。
CVR改善のご提案
次にCVR改善については、下記の方法をご提案した。
- リードの課題をサジェスト分析から仮説で定義
- 定義した仮説課題を解決する「課題解決ページ(ソリューションページ)」を作成
- ソリューションページを公開しリスティングで集客
- リスティングの広告設計で検索者がどの仮説課題に興味があるかを検証し、ソリューションページを改善(PDCA)
- ソリューションページの効果を毎月レビュー(CV件数やCVRの確認)
「課題から製品を探す」というページがA社には複数あったが、上述したように、ソリューション提案になっていないページが多かったため、既存ページは活用しないこととした。
そこで、集客強化で実施したサジェスト分析から、リードの課題を仮説で定義した。サジェストワードの中に課題に関連するキーワードがいくつか見つかったからだ。そのキーワードから、「●●業務に関する3つの課題」という形で、ターゲットとなり得るリードの課題を3つに定義した。
課題を定義したら、その課題を解決する方法をSEと相談し具体化した。製品Aのこの機能をこういう風に使えばこの課題はこんな風に解決できるといった具合に、1つ1つ解決策を紐解いていった。
その後、定義した3つの課題と、その課題を解決する方法をコンテンツ化し、「課題解決ページ(ソリューションページ)」としてWEB化した。作成したソリューションページは、「課題から製品を探す」に新規ページとして追加公開した。
「課題解決ページ(ソリューションページ)」を公開したら、そのページへの導線を強化した。まずは、上述の月2本公開している集客強化のためのコンテンツからの導線を作った。さらに、リスティングも活用した。
リスティングを活用した理由は2つある。1つは、月2本のコンテンツ公開をしても、すぐにSEO効果が出てくるわけではないからだ。そのため、コストはかかるが、目先のCV獲得も必要であったため、リスティングで集客強化を解決することにした。
もう1つは、「課題解決ページ(ソリューションページ)」の課題定義が、サジェスト分析を根拠にした仮説だったため、リスティングでその仮説検証を行いたかったからだ。
リスティングは一般的には集客強化に活用する手法だ。しかし、リスティングの広告設計を工夫すれば、検索者が抱えている課題を定量的に計測できる手法となる。そのため、弊社にて課題調査ができるようなリスティング広告設計を行い、A社にその仕組みをご説明した後、リスティング予算の一部を弊社の設計に割り当てていただいた。
これでリスティング広告による仮説検証が開始できるようになった。その後、リスティングの結果を分析し、「課題解決ページ(ソリューションページ)」を改善しながら、SE目線のコンテンツを徐々に、リード目線のコンテンツへと変えていった。
そして、改善を数回行った後、CV件数とCVRがどうなったかを検証した。
2つの壁を乗り越えられたか?A社のデジタルマーケティングの取り組み結果
検証を行うレビューの当日、Bさんからデータを見せていただいた。
すると、アクセス数は、月2本のコンテンツを公開し始めてから、右肩上がり。とあるビックキーワードでも平均掲載順位で2.5位を獲得(サーチコンソールで確認)していた。A社でNo1のアクセスを稼ぐページにまで成長させることができた。さらに、CV件数も先月比で2倍にまで向上し、CVRも2倍にまで増えていた。
このレビューの結果を受けて、これは効果があると判断し、その後も同じ手法でコンテンツを作り続けている。本記事執筆時点でも、A社のコンテンツ作りは継続している。そして、最終的には下記のような成果が出ている。
- CV件数は毎年昨年比2倍から3倍を達成
- WEBを起点にした売上(WEBでリード獲得後、インサイドセールスなどを経由して成約した売上)も毎年過去最高を記録
今では、最初は少し懐疑的だった技術部門のSEも、非常に協力的にコンテンツ作りに参画してくれるようになり、SE目線のコンテンツからの脱却が徐々に広がりを見せている。
A社のデジタルマーケティング成功のポイント
以上がIT企業A社のデジタルマーケティング成功事例である。A社が成功できたポイントは3つある。
1つ目は、サジェスト分析を活用した検索者のニーズ分析である。情報システム部門が検索するような技術的な検索ワードだけでなく、業務部門が検索するような「業務課題に関するキーワード」でも、サジェスト分析を行い、コンテンツを設計し制作するのだ。SE目線のコンテンツではなく、検索者目線のコンテンツを作るための第一歩である。A社はこれにより、アクセス数を増加させることができた。
2つ目は、「課題解決ページ(ソリューションページ)をSE目線ではなくリード目線で作ること」だ。御社にも「課題から製品を探す」というページがないだろうか?そして、「課題から製品を探す」で定義されている課題は、「リード目線」だろうか?しっかり確認してみよう。A社では、サジェスト分析から仮説課題を定義し、リスティングをうまく使って、集客しながら課題定義の正確性を検証した。その結果、CVRを大きく改善できている。
3つ目は、「リードのニーズを根拠にして技術部門と連携する」である。技術部門にWEBコンテンツを作ってもらう場合、「こういうニーズがあるのでこういう風につくってほしい」と依頼しなければならない。そうしなければ、SE目線のコンテンツが出てくる。最初は懐疑的な可能性もあるが、アクセス数やCV件数が徐々に伸びてくると、協力的に行動してくれるようになるはずだ。
A社では、この3つのポイントをうまく抑えながらデジタルマーケティングに取り組んだ。その結果、素晴らしい成果を出している。
もしあなたも、SE目線のコンテンツから脱却できないでいるなら、まずはリードのニーズをサジェスト分析などでしっかり掴むようにしよう。
そして、そのニーズを根拠に技術部門にコンテンツ作りを依頼し、徐々に成果・成功を積み上げながら、技術部門との協力体制を強化していこう。そうすれば、最終的に、SE目線のコンテンツから脱却したデジタルマーケティングが実現でき、大きな成果を得ることができるのではないだろうか。
WEB戦略の立て方・デジタルマーケティングの成功事例
弊社には、A社以外にもたくさんのデジタルマーケティングの成功事例がある。その内容の一部をまとめたPDF資料があるので、ご興味ある方はぜひダウンロードしていただければと思う。
〜CVRを3倍、4倍に激増させたIT関連企業と製造業のWEB改善施策〜
https://btobmarketing.aluha.net/contact/white-paper/#r01
さらに、本コラムでも話題になっている「課題から製品を探す」ページの作り方について、詳しくご紹介しているPDF資料もある。どのようにページを設計し制作するのか、詳しくご紹介している資料である。
〜「課題から製品を探す」のページはこうやって作るべき!〜
https://btobmarketing.aluha.net/contact/white-paper/#r11
上記資料が少しでも御社のデジタルマーケティングの参考になれば幸いである。