製造業やIT企業のようなBtoB企業のデジタルを活用したBtoBマーケティングでは、マーケティング部門が「他部門(技術部や事業部、営業部など)と連携してデジタルマーケティングを進める」ことが重要となるが、この「他部門との連携」が非常に難しいケースがある。
実際に、弊社にも、下記のような相談やアンケート回答をいただくことが多い。
(製造業T社 K様)
(IT企業E社 M様)
(製造業F社 S様)
このようなことを「部門間の壁」や「組織の壁」(以下、部門・組織の壁と表記)といった言い方をするが、デジタルマーケティングにおいてもこういった部門・組織の壁は常に発生している。
そこで、今回のコラムでは、部門・組織の壁がなぜ発生するのか?その要因は何か?を紐解きながら、解決策を探ってみよう。
部門・組織の壁が発生する5つの要因
まず、部門・組織の壁が発生する要因から考察してみよう。日本最大級の人事ポータル「HRpro」のWEBサイトに下記のような参考コラムがあった。
なぜ部門間の協力が進まないのか ~周りを巻き込む3つの方法~
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1447&page=1
(2020年12月8日に確認)
この参考コラムでは、部門・組織の壁が発生する5つの要因とその解決策について解説されている。国内企業のミドルマネジャー1,023人への定量調査結果をもとにした解説であるため、非常に参考になる。
そのため、本コラムはこの参考コラムを参照しながら、デジタルマーケティングの部門・組織の壁を打破する方法を考察してみたい。
参考コラムによると、部門・組織の壁が発生する要因は下記の5つのようである。
●相互の方針のずれ
●相手部門の能力・人手不足
●自己の連携構築力不足
●部門重視の制度
●心理的なわだかまり
引用元:https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1447&page=2
それでは、この5つの要因について、デジタルマーケティングの推進業務(特に他部門と連携したコンテンツ作成)を交えながら、具体的にどのようなことなのか、考察してみよう。
要因1:相互の方針のずれ
参考コラムによると「相互の方針のずれ」とは、部門間で方針、関心ごと、戦略の目的や課題が共有されていないことを言うようである。
デジタルマーケティングに置き換えてみると、「何のためにコンテンツを作るのか?の目的(KGIやKPI)」や「こういう内容にしなければならない理由」などにズレがある状態のこととなるだろう。
このような状況であると、他部門にコンテンツ作成を依頼しても、意図と違うコンテンツが出てきたり、最悪の場合、「なんでこんなのを作らないといけないのか?」からの説明をしなければならなくなる。
先日、弊社のお客様でもこの要因だと思われる事態が発生した。そのお客様はWEBサイトのCVRが大きく改善したため、リードの件数をさらに増加させるため、SEOコンテンツの強化に力を入れていた。そこで、SEOキーワードの検索ニーズを分析し、SEOコンテンツのタイトル案、目次案を設計した上で、事業部の担当者と打ち合わせを行った。その際に、「こんな内容よりも、自社製品の強み・特長をまとめたコンテンツの方がいい」と言われたのである。
「今は自社製品の強み・特長をまとめたコンテンツを作る」よりも「アクセス数を伸ばすコンテンツ」の方がいいと「数値(KPI・KGI)」で説明しても、なかなか納得してもらえなかった。結果的に、再度コンテンツを設計しなおすこととなってしまったのである。
「自分が書きたい内容(書ける内容)」と「今書くべき内容」というのは、本来大きく違うはずだ。しかし、そのズレに気がつかないまま進めてしまうと、意味のないコンテンツ作りばかりを行うことになり、リソースを無駄にすることになる。
そのため、相互の方針のズレは事前に認識を合わせておくことは重要で、非常に危険な要因といえるだろう。
要因2:相手部門の能力・人手不足
参考コラムによると「相手部門の能力・人手不足」とは、その名の通り、スキルがない、時間がないといった状態のことを言うようである。
デジタルマーケティングのコンテンツづくりでは、(1)コンテンツをライティングするライティングスキル(SEOライティングやセールスライティングのスキル)、(2)リードの目線に合わせたコンテンツの編集スキル、(3)ライティングできるだけの業界専門知識や経験値、(4)ライティングに必要な時間の確保の4つが必要になる。
よくあるケースでは、文章を書いたことがなくスキルがない場合、文章は書けるが専門知識がない場合、専門知識は豊富にあるけど時間がない場合である。
例えば、弊社のお客様でよく発生しているのは、「優秀な担当者ほど時間がない」である。優秀な他部門の担当者は、優秀であるがゆえに、「お客様からもひっぱりだこ」でなかなか時間が取れない。しかし、優秀であるがゆえに、かなり豊富な知識と経験を持っている。ライティングしていただくには十分な知識と経験があるのであるが、時間がないのである。
この結果、デジタルマーケティングの業務が後回しになってしまい、なかなか進まないということにつながっていく。
要因3:自己の連携構築力不足
参考コラムによると「自己の連携構築力不足」とは、自部門と他部門の双方のメリットを把握しまとめていく能力が少ないことをいうようだ。
デジタルマーケティングの場合だと、デジタルマーケティングを担当する部門(マーケティング部門など)の担当者の能力不足ということになる。
例えば、要因1の「相互の方針のずれ」が発生する要因は、この「自己の連携構築力不足」といえるだろう。なぜなら、他部門の担当者に、デジタルマーケティングのコンテンツ作りの意義、目的、メリットなどをしっかり伝えられていないからこそ、「相互の方針のずれ」が発生するからだ。
デジタルマーケティングのコンテンツを何のために作るのか?を突き詰めて考えていくことが重要である。ただ言われたから作っているでは、「相互の方針のずれ」は当然発生するだろう。そうではなく、「この数値を改善すればこんないいことがある!だからこのコンテンツを作りたいんです」と説明できる能力が必要なのである。
要因4:部門重視の制度
参考コラムによると「部門重視の制度」とは、部門間の連携を阻害するような風土・制度のことをいうようだ。
デジタルマーケティングの場合で考えると、例えば下記のような状況であろう。
- 営業部門にデジタルコンテンツの作成を依頼した時、営業部の部長が「うちはお客様に訪問することを重要視しているから、コンテンツ作る時間なんてないよ」と言われ後回しにされた
- MA導入について各事業部に説明したら「メールなんてだれも読まないよ。私自身、メールなんて見ないし」と言われ議論が進まなかった
- WEB活用を他部門に説明したら「うちの商品、WEBでリード獲得なんでできるわけがない。営業訪問しないと製品説明できないよ」と言われた
(1)については他部門の上長の方針、(2)、(3)については他部門の方針というよりは、担当者の「意見・考え方」であり、ある種の「思い込み」とも言える。
(1)から(3)どれにしても、こういった制度・風土を変えていかなければ、なかなかデジタルマーケティングが進まないだろう。
要因5:心理的なわだかまり
参考コラムによると「心理的なわだかまり」とは、過去の失敗などによる抵抗感のことをいうようだ。わだかまりなので、場合によっては担当者同士の信頼関係のなさも含まれるだろう(ひどい場合は人間関係が悪いと言ったケースもあるだろう)。
デジタルマーケティングの場合で考えると、下記のような状況であると言える。
- 過去にデジタル活用を行い、大失敗した経験がある
- 他部門の担当者と仲が良くない、以前トラブったことがある
(1)については、過去の失敗があるため、懐疑的になるのも仕方ない。(2)については、個人的な人間関係であるため如何ともしがたい状況であると言える。
5つの要因を解決するには?
では、この5つの要因、どのように解決すべきだろうか?こうすればいいというような解決方法はなかなかないと思われるが、参考コラムでは3つの方法を紹介している。その方法をデジタルマーケティングに置き換えて考察してみよう。
臆せずに一歩踏み出す
解決の1つ目の方法として、参考コラムでは「臆せずに一歩踏み出す」ことが重要であると紹介されている。
デジタルマーケティングで言い換えれば、「コンテンツ作成を他部門の担当者に丸投げせず一緒にライティングを進める」というようなやり方になるだろう。場合によっては分からないなりにも勉強して代わりに全部ライティングし、他部門の担当者には確認だけしてもらうというようなやり方もいいだろう。
つまり、歩み寄りということだ。
作成したいデジタルコンテンツを担当者に何もせずに相談するのではなく、(1)タイトル案、目次案まで設計してみる、(2)分からないなりにもかける部分は自分でライティングする、(3)書きやすいように参考になるサイトのURLをリストアップしておく、(4)BtoBでも対応可能なライターを手配しておくなど、様々な歩み寄りが可能だ。多少面倒でも、一歩踏み出して歩み寄ってみよう。
コンテンツを作ることのメリットを伝える
解決の2つ目の方法として、参考コラムでは「相手のメリットを訴える」ことが重要であると紹介されている。
参考コラムによると、特に「すべての関係者がWin-Winになる方法」を考えることが重要のようである。
デジタルマーケティングで言い換えれば、コンテンツを作ることのメリットをしっかり、わかりやすく伝えることだ。この時、会社にとってのメリット、他部門にとってのメリット、そして、その担当者にとってのメリットの3つが重要となるだろう。
そのメリットもできるだけ客観的で根拠のあるメリットを訴求できたら非常にいい。そういった交渉をすることで、お互いにWin-Winになるのである。
信頼残高を増やす
解決の3つ目の方法として、参考コラムでは「信頼残高を増やす」ことが重要であると紹介されている。いくら多くのメリットを相手に訴えても、信頼がなければ響かない。そこで重要なのが「信頼残高」だ。
「信頼残高」をデジタルマーケティングで言い換えれば、「小さな成功体験」であると私は考えている。アクセス数が増えた、問い合わせ件数が増えた、メールを配信したらセミナー申し込み件数が増加したなど、売上や利益といった大きな成功ではなく、小さな成功を積み上げていくのである。それが信頼残高の増加につながるのではないか?と考えている。
他部門と連携してデジタルマーケティングを進めるには?
以上、他部門と連携してデジタルマーケティングを進める時の課題とその解決策について簡単にご紹介した。
最後にまとめると、2つのことが重要であると考えられる。
1つ目は、何よりも信頼残高を増やす(小さな成功体験を増やす)ことだ。そのためには、低工数(短期間・低予算)で結果を出し、成功体験を積み上げていくデジタルマーケティングの推進計画が必要となるだろう。スモールスタートでできるだけ低予算・工数で小さな成功が得られる計画を立案し、徐々に広げていくのである。
2つ目は、コンテンツ作成を一緒に作るという姿勢である。完全に任せるのではなく、歩み寄って業務を進めるのだ。
こういった成功体験作りと歩み寄りが重要ではないだろうか。どこまで歩み寄れるか?どんな成功体験を作れるか?ここが大きなポイントとなるだろう。「思った以上に楽に進められて、思った以上に成果が出た」となれば、デジタルマーケティングはますます推進し、他部門の協力も得られ、社内啓蒙へとつながっていくだろう。
(製造業F社 N様)