BANTは、BtoBマーケティングや営業戦略において顧客にヒアリングをする際に活用される基本的なヒヤリング項目のフレームワーク、および、受注の確度を判断するための指標・条件だ。BANTを導入することで受注の確度を測れるようになり、案件の管理がしやすくなる。そのため、SFAやCRMを導入している企業にはおすすめできるフレームワークだ。今回のコラムでは、BANTの基礎、効果、コツ、注意点、聞き出し方などについてご紹介する。
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商談・営業のフレームワーク「BANT」とは?定義と意味、読み方
『BANT(読み方:バント)』とは、『Budget(予算)』『Authority(決済権)』『Needs(ニーズ・需要)』『Time frame(導入時期)』の頭文字を取った略語で、法人営業の担当者が顧客に質問するときの営業ヒヤリングフレームワークとして活用され、受注の確度を判断する指標になるものだ。
見込み客の受注確度の判断材料となるため、営業部門において、SFA(営業支援ツール)やCRM(顧客管理システム)を活用している場合は、積極的に活用すべき指標である。訪問型のフィールドセールスだけでなく、内勤型営業であるインサイドセールスでも十分活用できるだろう。
しかし、そのまま活用するのは非常に難しいという側面がある。日本国内においては、その商習慣から、非常に聞き出しにくい項目であるからだ。そのため、自社の商材特性や顧客特性に合わせて、BANTをアレンジしていくことが重要である。
BANTのBudget(予算)
『Budget(予算)』は、顧客が製品やサービスを導入するための予算のことだ。予算をどのくらい確保しているのか?を商談時に把握できれば、その予算に合わせて見積もりを調整するなど、有利に商談を進めることが可能となる。
さらに、予算があうか合わないかの判断も早々にできる。例えば、自社製品・サービスの平均単価が「100万円」とした場合、顧客の予算が40万円であれば、商談を進めても「受注にならない」可能性や価格競争になる可能性が出てくる。逆に150万円の予算があれば、受注獲得できる可能性や価格を強みにできる可能性がある。
予算の把握が遅れると、仮に商談を進めていたとしても途中で予算が合わずに話が振り出しに戻ることが多々ある。だからこそ、営業の早い段階で予算を聞き出すことが重要だ。「そんなに高額だと購入できない」と後から言われると、顧客も営業担当者も時間を無駄にすることになり、お互いにメリットはない。
BANTのAuthority(決裁権)
『Authority(決裁権)』は、製品やサービスの導入の決裁権のことだ。製品やサービスの導入の決裁権がある担当者であれば、商談をスムーズに進めることができる。うまくいけば、その場で、「購入する」と決めていただくこともできるだろう。このため、『決裁権を持つ相手に営業すること』がBtoB営業では重要となる。決裁権を持つ相手に直接営業できるか、できないかで、受注までのリードタイムは大きく左右される。
BANTのNeeds(ニーズ)
『Needs(ニーズ・需要)』は、一般的な定義では、「顧客の欲しているもの・こと」であるが、BANTでは、組織的なニーズに成長しているかどうか?を意味する。
「組織的なニーズ」とは、ニーズが個人レベルか、組織レベルか、のことだ。例えば、顧客企業のある担当者が「独断」で「この製品を購入したい」と検討しているレベルなのか、ある部門で検討しているレベルなのか、さらには、会社全体で検討しているレベルなのかである。個人的なレベルであれば、仮に商談が進んだとしても、組織的に導入を反対される可能性があるため、なかなか受注に至らない。逆に全社的に検討されている場合は、関係者全員で前向きに検討されるため、受注となる可能性が高いのである。
だからこそ、個人レベルなのか、全社レベルなのかをヒヤリングにて確認する必要があるのだ。ただし、自社が扱っている商材が、個人レベルの検討で十分な商材であれば、組織的に検討する必要性はないため、話は別である。
BANTのTime frame(導入時期)
『Time frame(導入時期)』は、その名の通り、商品・サービスの導入希望・予定日のことだ。顧客が希望する具体的な導入時期を知っておけば、その顧客に対する営業の優先度が調整できる。
例えば、早い段階での導入を希望している顧客ならば、集中的なクロージングと営業フォローが必要となり、営業の優先度も高くなる。そうでない場合は、継続的なフォローをしつつも、時期を見ながらクロージングへと落とし込んでいく必要があり、営業の優先度は少し低くなる。このように、導入時期が早いか、遅いかで営業のリソースを振り分けることができる。
さらに、受注生産といった場合は、導入時期、イコール、希望納期となるため、自社の生産リソースをみながら、納期が間に合わない場合は、商談すらできないといった判断にも使える。
以上がBANTの各項目の概要である。これらを組み合わせて総合的に受注確度を判断することになる。
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BANT条件とは
BANT条件とは、見込み客の確度を判断するBANTフレームワークの社内条件のことだ。例えば、下記の条件をクリアした見込み客は確度が高いと判断する場合は、下記の条件がBANT条件となる。
- Budget(予算):500万円以上の予算を確保済みであること
- Time frame(導入時期):半年以内に導入することを決定していること
このようなBANT条件は各企業によって異なる。条件が厳しくなればなるほど、数が減る分、確度が高くなる傾向がある。
BANT情報とは?
BANT情報とは、見込み客や顧客がもつBANTに対する回答のことだ。BANT情報は見込み客や顧客にヒヤリングして聞き出さないとわからないため、どのようなタイミングでどういう聞き方をするのかが重要となる。BANT情報は商談・案件ごとに異なるため、毎回聞き出す必要がある。
BANT条件を法人営業に導入する効果
BANTを営業のフレームワークとして導入すれば、営業における以下のような点でも効果的である。
- 商談管理やリソース管理がしやすい
- 営業のボトルネックを分析できる
BANTにより、顧客の受注確度の判断材料が手に入り、顧客への営業の優先度決定や営業のボトルネックの分析が行いやすくなる。
商談管理や営業リソース管理がしやすい
BANTを営業活動に導入することで顧客の受注確度の情報が明確化するため、営業の優先度を決めることが可能になり商談管理がしやすくなる。さらに『どこの企業を優先するべきか?』が分かるため、営業リソースをどう使うか?の判断も行いやすくなる。
営業のボトルネックを分析できる
BANT情報を分析することで、営業のボトルネックを明確にすることができる。
例えば、すぐに決まった商談のBANT情報、なかなか決まらない商談のBANT情報、失注してしまった商談のBANT情報を相互比較することで、受注するためのポイントはどこにあるのか?ボトルネックは何か?を分析可能だ。そのため、SFAなどにBANT情報を蓄積していくことで、過去の商談から詳細な営業分析ができるようになり、営業戦略の改善、営業力強化につなげていくことができる。
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BANT情報が欠けてしまった場合の問題点
BANTの情報が欠けてしまった場合、以下のような問題点が発生する可能性がある。だからこそ、可能な範囲で情報収集できることが理想的である。
Budget(予算)の情報が欠けた場合 | 予算を超えていた場合、値引き交渉になる可能性があり、受注までの時間が長期化する。最悪、値段が合わず受注にならない。 |
Authority(決裁権)の情報が欠けた場合 | 決裁権のある担当者に自社製品の強みや特長が’正確に伝わらず、なかなか決まらない、もしくは失注するといったことにつながる。 |
Needs(ニーズ)の情報が欠けた場合 | 社内検討の段階で反対派から導入反対をくらい商談が進まない。反対意見を1つ1つクリアしていかなければならず、受注時期が遅れることになる。 |
Time frame(導入時期)の情報が欠けた場合 | 営業の優先度の判断材料を1つ失い、優先度付の判断を誤り失注につながる可能性がある |
BANT情報の確認の仕方と具体例
では、BANT情報をヒヤリングするコツや収集するコツとその具体例をご紹介する。ただし、製品特性・業界特性などがあるため、あくまで一般的なコツや具体例であることはご注意いただきたい。また、冒頭でも紹介したが、BANTは自社商材の特性(顧客特性など)に合わせてアレンジしていくことも重要であるため、誰に、どういった聞き方で、いつ聞くのか?などは熟考しなければならない。ここでご紹介する例のように聞けば良いというわけではないが、熟考の際の参考にしていただければ幸いである。
Budget(予算)の聞き方例
予算の確認は、相手との関係性による。すでに何度も取引しており、関係性も構築できている顧客であれば、「今回の予算はいつもくらいですか?」のように聞き出せば良い。しかし、初めての顧客だとこれが難しい。相手から積極的に予算を開示してくれるケースもあれば、なかなか教えてくれないケースもある。なかなか教えてくれないケースでは、聞き出すのは非常に難しい。相手のルールで開示不可といった場合は、何をしても無理であるため、可能性がありそうであれば、下記の例を参考に可能性を探ってみよう。
「今回のご相談内容に近い弊社の過去のお客様では、だいたい**円くらいの単価なのですが、御社のご予算と合うか確認したいので、ざっくりとしたご予算をお伺いできますか?」
相手から情報を聞き出すには、まずは自分の情報をある程度出すことが重要だ。そのため、可能であれば、過去の自社の単価(だいたいこのくらいという金額感)を伝えてみよう。すると開示してくれる可能性がある。仮に開示してもらえない場合は、下記のように聞き直すのもOKだろう。
「ご予算の開示が難しいのでしたら、お聞きしませんが、弊社の金額感と合わない場合は事前にお知らせください。弊社で調整できないか検討します。」
こう伝えておき、金額感と合わないと連絡があれば、あとは御社側の問題だ。価格競争に入ってでも取引したいかどうか、採算も含めて検討しなければならない。どうしても金額が合わない場合は、辞退するしかない。
Authority(決裁権)の聞き方例
Authority(決裁権) のヒアリングは、主に、決裁権があるのかないのか?ないなら誰に決裁権があるのか?決裁権がある人の決裁権限金額はいくらかを聞き出すことが重要だ。例えば、企業によっては『部長:20万円まで』『本部長:100万円まで』と分けられていることが多い。そのため、現在の担当者が、提案している商材に対して決裁権を持っているのかを把握する必要がある。また名刺交換をしたら必ず役職が記載されているため、名刺の情報も見ながら、質問内容を微調整すると良いだろう。
例えば、下記の具体例のように直接的に聞き出すことができそうならその方が早いだろう。
「もし、ご契約いただけるとしたら最終決定権は○○様(ご担当者)でよろしいでしょうか」
「今回のご提案、最終的な決定は、○○様(ご担当者)ですか?それとも上司の方でしょうか?」
直接的に聞き出しにくいなら、さりげなく下記のように質問し、徐々に深掘りするのも良い。
「今回ご提案している商材に関して、導入までの今後のスケジュールやステップを確認したいため、ご契約いただける場合の流れを教えていただけますか」
このようにすると、今後の流れの話になるため、決裁者がいつ登場するのか?などが把握できる可能性がある。そのタイミングがわかれば、直接会って提案できる可能性が出てくる。
Needs(ニーズ)の聞き方例
Needs (ニーズ) のヒアリングは、顧客の課題や要望を聞き出すだけでなく、いかに組織的な検討をしてもらうか?が重要となる。そのため、下記のような質問で組織的な検討に段階アップするといいだろう。
「現状、○○様(話している相手)のみでご検討中でしょうか?であれば、今回のご提案の意図や背景、重要な理由を関係者皆様の前で私がご説明しましょうか??」
こうすることで、ご本人だけの検討から、組織的な検討へと引き上げることができる可能性が出てくる。
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Time frame(導入時期)の聞き方例
Time frame(導入時期) のヒアリングは、単刀直入に聞くか、自社製品・サービスの導入までの流れ・期間を説明し、聞き出すかの2つの方法が考えられる。
「もしご契約いただけるとしたら、導入時期はいつ頃でしょうか?」
「いつくらいからこの製品を使いたいってお考えですか?」
「弊社の製品はご提案から導入開始まで、だいたいですが、平均●ヶ月くらいかかります。早くても*ヶ月ですが、間に合いそうでしょうか?」
BANTの導入やヒヤリングの注意点
自社製品の特性を見極める
BANTは商品特性・顧客特性に影響を受ける項目である。例えば、低価格ですぐに導入できるような商材であれば、BANTを聞き出す必要性も低くなる。なぜなら個人レベルの検討で十分であり、かつ、すぐに導入できるからだ。しかし、高額で導入までに時間がかかり、複数の関係者が関わるような商材であればあるほど、BANTは営業に大きな影響を与える。そのため、自社の商材の特性を見極めて、BANTをどういう聞き方で、だれに、どんなタイミングで聞くか?を明確にしておくことが重要だ。場合によってはどんな聞き方をしても絶対に教えてくれないといったケースもあるため、BANTを導入すれば良いというわけではなく、事前の見極めが重要となる。
聞き方を工夫する
BANTを活用することができても、その聞き出し方には、下記の2つのような工夫が必要だ。
- 聞きにくいならメールで聞く
- こちらの情報も開示して聞く
聞きにくいならメールで聞く
BANTの情報は、聞きにくい項目もある。『Budget(予算)』や『Authority(決裁権)』は特に聞きにくい項目である。そこで、メールで聞き出すという方法がある。例えば、下記のようなメールだ。下記のメールは次回の打ち合わせの確認メールを想定している。
次回、*月*日、10時からよろしくお願いいたします。
当日は、下記のような内容をお打ち合わせさせてください。
1:弊社製品のご提案内容のレビューとお見積りについて
2:御社の検討状況の確認について(ご予算の確認や導入時期など)
3:今後の導入検討の進め方について
このようにメールで事前に「こういうことを議題にする」と宣言しておけば、当日、ヒヤリングしても自然にヒヤリングできるし、相手も回答を準備してくれるはずだ。もし答えられないという場合は、相手からメールで返事が来る可能性もあるので、聞けないことは聞けないと事前に把握することも可能になる。
こちらの情報も開示して聞く
次に、BANTは早めに聞く方がよいが、かといって自分達の情報は何も出さずに聞き出すことは難しい。そのため、本コラムでも上述しているが、自社の情報も開示しながら聞き出すという流れを意識しよう。
例えば、下記のイメージだ。
「弊社の製品は過去の平均金額では●万円ですが、ご予算と近い金額でしょうか?」
これは自己紹介と同じで、自分が名乗るから相手も名乗るという理屈と同じである。無理に聞き出そうとせず、自分も開示しながら、聞き出すことを意識しよう。ただし、自社の情報を開示すると、競合に金額などが漏れる可能性があるため、相手を見ながら開示すべきかどうかを検討しなければならない。
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BANTの応用、BANTC・BANTCH
BANTの応用・進化版として『BANTC』と『BANTCH』というものがある。BANTC・BANTCHにおける『C』と『H』はそれぞれ以下のような意味を持つ。
Competitor(競合)
自社以外にどんな会社から提案を受けているのか?を聞き出す。競合先の企業名、主な提案内容、金額などである。BtoB営業の場合、ほとんどが複数企業での比較検討をするため必ず競合企業が存在する。しかし、顧客側も機密保持があるため、聞き出すことは非常に難しく、困難を極める。逆に、これを伝えてくる顧客は逆に言えば、自社の提案も他社に伝えている可能性があるだろう。その点の注意も必要である。
Human resource(人材)
決裁者以外の関係者やその人間関係を聞き出す。特に今回の提案に関わる人の関係性を全体的に把握すると、その関係者に合わせたより良い提案ができるようになり、受注率向上につながる。
まとめ
BANTとは『予算・決裁権・ニーズ・導入時期』の4つをヒアリングすることで、受注確度を測り営業効率を高められるフレームワークである。BANTを導入することで営業管理がしやすくなり、効率を高められるメリットがあるが、その聞き出し方には細心の注意が必要だ。
さらに、BANTをそのまま導入するのではなく、自社の商材や顧客特性に合わせて、「アレンジ」することも重要だ。BANT
をベースにして、自社独自の「ヒヤリング項目」を設計できれば、非常に大きな武器になることは間違い無いだろう。
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