顧客を絞り込んでアプローチする「アカウント営業(アカウントセールス)」。営業戦略やBtoBマーケティングにおいて重要リード・顧客との関係性を深め売上(LTV)を高めていく重要な営業手法の1つだ。そこで、本記事ではアカウント営業とはどういったものかわかりやすく解説する。後半では、実施手順や必要となるスキルも紹介する。
アカウント営業(アカウントセールス)とは
アカウント営業とは、アプローチする顧客を絞り込み、特定の顧客との関係性を深めて商談を作っていく営業手法のこと、もしくは、そういった営業を行なっている営業担当者のことだ。アカウントセールスとも言われる。アカウント営業は、特定の顧客の課題や悩みを調査しそのソリューションを提案することで自社製品・サービスの商機を作っていく。このような営業手法であるため、ある特定顧客の「専任営業担当者」とも言えるだろう。
アカウント営業の特徴は、担当する顧客が少ない。このため、顧客の情報を深く収集して、顧客ごとに最適な提案ができるようになる。製品・サービスの商品力による差別化が難しい現在、顧客との関係構築による「関係性の深さ」で差別化を図るアカウント営業は、重要な営業戦術の1つと言える。
ソリューション営業との違い
ソリューション営業とは、顧客が抱える課題をヒアリングして、その課題を解決する方法として自社サービスを提案する営業手法のことを言う。アカウント営業とソリューション営業の違いは下記表の通りだ。
アカウント営業 | ソリューション営業 | |
差別化の違い | 顧客との関係性がメイン | 課題解決力がメイン |
ターゲティングの違い | 売りたい相手を具体的に絞り込む | 自社製品やサービスで解決できる課題を「解決したい」と考えている顧客に絞り込む |
課題の違い | 売りたい相手の課題に焦点を当てる | 自社製品で解決できる課題に焦点を当てる |
ルート営業との違い
ルート営業とは、過去に自社サービスを購入している顧客に対して再度アプローチする営業手法のことを言う。アカウント営業とルート営業の違いは下記表の通りだ。
アカウント営業 | ルート営業 | |
担当顧客数の違い | 比較的少ない | 比較的多い |
提案手法の違い | 特定の顧客の課題や悩みに合わせてソリューションを提案することが多い | 御用聞き営業の傾向が強い |
リードタイム | 長い | 短い |
売上 | 件数は少ないが取引単価が高くなる傾向あり | 件数は多いが取引単価は低いくなる傾向あり |
プロダクト営業との違い
プロダクト営業とは、自社サービスの魅力をアピールして売り込む営業手法のことを言う。アカウント営業とプロダクト営業の違いは下記表の通りだ。
アカウント営業 | プロダクト営業 | |
差別化の違い | 顧客との関係性がメイン | 商品力 |
ターゲティングの違い | 売りたい相手を具体的に絞り込む | ざっくりとしたターゲティングになる傾向が強い |
リードタイム | 長い | 短い |
アカウント営業のメリット
アカウント営業のメリットは、大きく分けると下記の3つである。
- 成果につながりやすい
- 顧客ロイヤルティが向上する
- LTVが向上する(顧客流出の防止)
成果につながりやすい
アカウント営業では、限られた顧客と長期的に関係を構築するため、事業状況や組織体制といった顧客情報を深く収集できる。どのような課題を抱えているのか正確に判断して、適切な解決策を提案できる上に、信頼関係も継続しているため、成果につながりやすい。
顧客ロイヤルティが向上する
顧客ロイヤルティとは、顧客が特定の企業やサービスに対して、愛着や信頼などを感じることを言う。顧客ロイヤルティが向上すれば、他社のサービスに乗り換えられる可能性が低くなる。
アカウント営業では、顧客の課題を正確に把握したうえで提案するため、顧客から厚い信頼を寄せてもらいやすくなる。アカウント営業は、顧客から見れば「自社の一番の理解者」なのだ。そのため、新しい課題や悩みが発生した際には、他社よりも優先して相談してもらいやすい。
LTVが向上する(顧客流出の防止)
LTVとは、Life Time Value(顧客生涯価値)の略語であり、顧客が生涯で自社にもたらす利益の総額を意味する。
マーケティング用語の中には、「1:5の法則」というものがある。新規顧客の獲得には、既存顧客の維持の5倍もの費用がかかるという考え方だ。「1:5の法則」から見れば、アカウント営業が継続的に自社サービスを販売するほうが、自社に大きな利益をもたらす可能性が高い。そのためLTVが向上する。
加えて、アカウント営業では、顧客と良好な関係を構築できるため、顧客は他社に流れにくい。それにより、自社サービスの購入が継続し、LTVが向上する。
アカウント営業のデメリット
魅力の多いアカウント営業だが、デメリットもあるので併せて理解しておく必要がある。アカウント営業のデメリットは、下記の3つが挙げられる。
- 営業業務が属人化しやすい
- リードタイムが長い
- 顧客流出が売上に大きく影響する
営業業務が属人化しやすい
アカウント営業では、顧客ごとに専任の営業担当者がつくことになる。営業担当者に顧客情報ややり取りの内容・ノウハウが蓄積されるため、業務の属人化が起こりやすくなる点がアカウント営業のデメリットだ。
業務が属人化していると、担当者が退職で変更になった際に社内から顧客情報やノウハウが失われる可能性がある。顧客の信頼を失えば、契約が終わることもあるのだ。また、属人化の状態では社内でノウハウを共有しにくく、組織全体のスキル向上につながりにくい。
リードタイムが長い(営業工数がかかる)
アカウント営業は、顧客との関係を深める必要があるため、中長期的な施策として継続的なアプローチが必要だ。つまり、営業工数がかかるのだ。徐々に取引単価が高くなっていくため、初期段階では工数の割に成果が少ないといったことも十分考えられる。
顧客流出が売上に大きく影響する
アカウント営業は、顧客の数が少なく取引単価が高いことが多い。各顧客が自社の売上に与える影響は大きいため、顧客が他社に流れた際には売上が大きく下がってしまう。
アカウント営業では顧客と長い時間をかけて関係を構築するため、顧客が流出したときに、流出した顧客と同程度の関係性の顧客をすぐに増やすことはできない。
アカウント営業との実施手順5ステップ
アカウント営業をこれから始めるといった場合、どのように実施すれば良いか、その5つの手順を解説する。
- 戦略的にターゲットを選ぶ
- 顧客が抱える課題を仮定する
- 顧客との関係を強化する
- 営業シナリオを立案する
- 解決策を提案する
①戦略的にターゲットを選ぶ
アカウント営業をおこなう最初の手順は、ターゲットを選ぶことから始まる。自社で保有する顧客リストを洗い出して、自社に利益をもたらしやすい顧客を選定する。その際、多くの利益を生み出すかといった利益性だけではなく、自社のサービスとの親和性を考慮しよう。
この親和性は非常に重要だ。顧客は「自分の悩み・課題を解決してくれる価値ある相手」と継続的に付き合う。そのため、「自社サービスで解決できる課題」と「顧客が解決したい課題」の親和性が重要なのだ。そこを見極めなければ、ターゲットを選定しても、アカウント営業は成果を出すことが難しくなる。アカウント営業は工数のかかる営業であるため、戦略的なターゲット選定が必須なのである。
②顧客が抱える課題を仮定する
ターゲットを選んだら、次は顧客が抱える課題とはどういったものか仮定する。具体的には、インターネットのニュースやIR情報、顧客の中期経営計画などを調査して顧客が抱える課題を検討する。
実際にアプローチする前に課題を仮定しておくと、ヒアリングの際にどのような内容を聞き出せば良いのかが明確になる。加えて、「自社についてしっかり調べてくれている」という信頼感を与えられるというメリットもある。
③顧客との関係を強化する
仮定した顧客の課題をもとに、顧客に対してヒアリング調査をおこなう。ヒヤリング調査を実現するには、顧客満足度調査といった名目で調査協力をお願いすることで、より明確な課題を把握できる。
ヒヤリング調査が難しい場合は、仮説立てた課題に対して実際にソリューション提案を行い、顧客が解決したい課題を明確化していくといった方法がある。ソリューション提案を継続的に行うことで、仮説立てた課題に「ズレ」があれば、提案のたびに微調整することができ、正確な課題把握につながっていくのである。
ポイントは、ヒヤリング調査やソリューション提案をしながら、意思決定権を有するキーパーソンとの関係強化だ。これができれば、意思決定者という立場だからこそ把握している真の課題を聞き出すことも可能となる。さらに実際に売り込む際にもリードタイムを短縮できる。
④営業シナリオを立案する
ヒアリングで得た情報をもとに営業シナリオを立案する。営業シナリオを考える流れは下記の通りだ。
(1)顧客の課題を解決するプロセス(解決方法)を具体化する
(2)顧客の課題を解決するプロセスに独自性を入れる
(3)顧客の課題を解決するプロセスを提案書にまとめる
(4)その提案書をどう提案し成果につなげるかのシナリオを明確にする
顧客の課題が明確になっていればいるほど、「どのようなプロセスで解決できるのか?」を具体的に提案できるようになる。このため、顧客にはより興味深い内容になっているはずだ。さらに、課題解決のプロセスに「独自性」を入れることで、差別化戦略にもつながるだろう。そして課題解決のプロセスを提案書に落とし込み、その提案書を武器に営業シナリオを組み立てると良い。
注意が必要なのは、自社製品をすぐに売りたいからといって、プロダクト提案をしないことだ。明確にした顧客の課題をどう解決できるか?をしっかり説明できるような営業シナリオや営業提案書を作成しよう。
さらに意思決定権者(キーパーソン)に対して提案ができるようにアポイントをどうとるか?どのような提案の仕方をすべきか?も事前に固めておこう。キーパーソンに説明できなければ、リードタイムが長くなるだけでなく、最悪の場合、キーパーソンの耳に入る前に社内で非承認とされる可能性すら考えられる。
⑤解決策を提案する
自社サービスでどのように顧客の課題を解消するのかといった営業シナリオを立案できたら、いよいよ顧客に解決策を提案する。つまりは営業シナリオを実行に移す。営業提案書を武器にしてターゲットとして選定した顧客にグイグイ入り込んでいこう。
アカウント営業に求められるスキル
アカウント営業に求められるスキルは、下記の通りである。
- ヒアリングスキル・英語によるコミュニケーションスキル
- 業務理解スキルと課題整理スキル
- 課題発見スキル(ビッグデータ解析)
ヒアリングスキル・英語によるコミュニケーションスキル
顧客の課題を正確に把握しなければ、的確な提案はおこなえないため、アカウント営業ではヒアリングスキルは必須である。ヒヤリングする内容は、顧客の業務内容や現状の課題、今後実現したいこと、さらには、BANT情報なども重要だ。
Budget | 顧客がサービスを購入するための予算 |
Authority | サービスの購入を承認する決裁者 |
Needs | 顧客のニーズ |
Timeframe | 購入の予定時期 |
ヒヤリングして顧客のことを理解すればするほど、関係性も深まっていくため、顧客からヒヤリングする能力は絶対に必須のスキルである。
さらに、アカウント営業が対象とする企業は大企業であるケースが多いため、ヒヤリングの相手が海外事業の担当者である可能性もある。そういった場合は、英語によるコミュニケーションスキルも必要だ。英語によるコミュニケーションスキルがなければ、ヒヤリングができない可能性があるのだ。
業務理解スキルと課題整理スキル
ヒヤリングをすればするほど、顧客のさまざまな部門の関係者からさまざまな話を聞くことになる。そのため、各顧客の担当者の業務内容を詳しく理解する必要がある。専門的な業種であれば、その業務内容は非常に専門的であることも多く、専門知識を必要とすることもあるだろう。
さらに、顧客の部門をまたいで、部門の壁を越えたさまざまな課題を網羅的にヒヤリングするため、課題を整理するスキルも必要だ。バラバラな課題も整理すればいくつかの課題にまとめることができるため、全体課題を把握した上で整理していくスキルが必要となる。
課題発見スキル(ビッグデータの解析)
課題発見スキルとは、「顧客自身も気が付いていない課題を発見するスキル」や、「解決の優先度が低い課題に対して、重要性に気づかせる」といったスキルのことだ。顧客は顧客自身で課題や悩みを把握し、解決の優先度を決めている。そのため、それを覆すほどの重要な課題を発見できれば、顧客から感謝されより関係性が深まるのだ。だからこそ、アカウント営業が身につけておくべきスキルと言える。
しかしながら、課題発見スキルはそう簡単に実現できるものではない。顧客自身も気が付いていない課題をアカウント営業が発見することは非常に困難を極める。顧客自身も気が付いていないためヒヤリングだけでは難しいことが多いためだ。
やり方としては、ビッグデータ解析で実現できる可能性がある。業種や業界にもよるが、インターネット上にあるさまざまなデータ(例えばSNSの口コミなど)を解析することで顧客すら気がついていない課題を見つけることができるかもしれない。
アカウント営業を成功させるポイント
アカウント営業を成功させるポイントは、下記の通りである。
- 顧客の課題を重要度・緊急度で分ける
- 継続性
顧客の課題を重要度・緊急度で分ける
顧客にヒアリングをおこなっていると、複数の課題が見つかるということは少なくない。優先順位を考えずに提案してしまうと、「今は対応する予定はない」と断られる可能性があるため、どの課題に対しての提案をおこなうか検討する必要がある。
顧客の課題に優先順位をつける方法に、重要度や緊急度で分類する方法がある。重要度や緊急度が低い課題は提案を断られる可能性が高いため、重要度や緊急度が高い課題を解消できる提案でなければならない。
継続性
アカウント営業は「継続性」が成功を左右すると言ってもよいだろう。ヒヤリング活動をどのように継続的に行うか?課題解決の方法の提案をどのように継続的に行うか?の継続性が非常に重要だ。
継続性を実現する最も理想的な方法は、「こまめに訪問する・対面する」ことである。これに勝るものはないだろう。しかし、コロナの影響、デジタル化の影響により、実現が難しくなっている。そのため、デジタルを活用して継続的な接点を作り、「ここぞ」というタイミングで商談創出をするといったデジタルマーケティングの活用も重要であると考えている。
まとめ
以上、アカウント営業について解説した。アカウント営業を効率よく実現するには、継続的に課題を調査しながら、その解決策を継続的に提案し、商機を作っていくことである。その上で、「顧客にとっての一番の理解者」となれば、ヒヤリングしなくても顧客から相談がくるようになるだろう。ぜひ御社でもチャレンジしていただけたらと思う。