本記事は、展示会、セミナー、WEB、MAなどさまざまな施策を進めているのに、商談や受注に結びつかない——そんなモヤモヤを抱えている技術系商材を扱うBtoB企業(製造業やIT企業)のマーケティング担当者に向けたコラムである。本記事では、その原因を「価値定義のズレ」という観点から4つのタイプに整理している。自社がどの状態にあるのかを診断しながら、「だから成果につながらないのか」と腹落ちし、次に何を見直すべきかの判断軸をこの記事で得ていただけたら幸いだ。
価値定義が重要な理由と価値がズレる理由
BtoBマーケティングにおいて重要なのは、施策のスキルやテクニックではなく「価値をどう定義しているか」である。どれだけ優れた技術・製品や豊富な施策があっても、その価値が顧客の意思決定につながる形で整理されていなければ、成果には結びつかない。価値定義が明確であれば、マーケや営業の施策や各種コンテンツがすべて同じ方向を向き、自然と商談や受注につながる。つまり成果の差は、情報量や施策数ではなく、「価値の捉え方と伝え方」によって生まれていると言える。
しかし、この価値の定義は非常に難しい。なぜなら、営業や技術、マーケ部それぞれで「価値の捉え方」が異なるためである。顧客は業務改善や成果を重視する一方、社内では技術や製品の強みが優先されやすい(特に技術部門が強いBtoB企業はその傾向が色濃くなる)。その結果、それぞれが正しいことを言っているにもかかわらず、価値が統一されずズレが生じる。さらに、顧客の意思決定プロセスまで踏み込んで考える機会が少ないため、「良い説明」で止まり、「導入判断の意思決定を進める価値提案」まで整理しきれないのである。
BtoBマーケティングの戦略設計がズレていないか?を判断する4象限
ALUHAは2008年以降、技術系商材を扱う多くのBtoB企業においてマーケティングの価値定義を支援してきた。その中で見えてきたのは、成果が出ない原因は施策不足ではなく、「価値の捉え方のズレ」という共通構造である。顧客を見ているつもりでも社内事情に引っ張られていたり、正しい説明をしているのに伝わっていなかったりする。このようなズレは大きく4つのタイプに分類できる。それが以下の4象限だ。

BtoBマーケティングの戦略設計がズレていないか?を判断する4象限
では、この4象限のそれぞれのタイプの詳細をご紹介する。御社はどのタイプか、読みながら検討してほしい。

BtoBマーケティングを【戦略】・【仕組み】・【実行】・【体制】・【優先順位】の5つのカテゴリに分解して、御社の優先度の高い課題を明確化するシートです。
タイプ1:技術最適型
技術最適型とは、顧客の課題はある程度捉えているにもかかわらず、最終的な価値定義が「自社技術の優位性」や「機能の高さ」に戻ってしまう状態である。
例えば、顧客が本当に困っているのは、設計変更のたびに現場確認が増えて意思決定が遅れることなのに、提案資料では「高精度」「高速処理」「独自アルゴリズム」といった説明が前面に出る。展示会でも、来場者は「それで何が楽になるのか」を知りたいのに、技術解説パネルばかりが並ぶ。
マーケ担当としては「たぶん論点はそこではない」と感じていても、開発部門や事業部から「せっかくの強みなのだからもっと技術を押してほしい」と言われ、結局いつもの構成に戻る。結果、内容は正しそうに見えるが、顧客の会議では使われず、「すごい技術ですね」で終わる。問い合わせが来ても商談が前に進みにくく、努力して資料や記事を増やしているのに、価値が判断材料として成立していない状態である。
タイプ2:顧客起点型
顧客起点型とは、価値の定義が「自社が何を持っているか」ではなく、「顧客の業務・判断・成果がどう変わるか」から設計されている状態である。
例えば、IT商材であれば「AI機能を搭載している」ではなく、「問い合わせ一次対応の属人化を減らし、担当者ごとの差を縮められる」と言える状態である。製造業向けなら「高性能センサー」ではなく、「異常検知の見逃しを減らし、品質部門の確認工数を減らせる」と表現できる。
資料の順番も、自社紹介や機能説明から始まらず、顧客の現場で起きているムダ、意思決定が止まる理由、導入後に変わる指標の順で構成される。営業もマーケも同じ価値定義を使えるため、コンテンツ・商談・提案のトーンがそろいやすい。社内では「もう少し製品の強みを出したい」という声が出るかもしれないが、それでも顧客側は「このまま社内説明・検討に使える」と受け取られる。価値が説明だけでなく、顧客の意思決定プロセスでも使える状態である。
タイプ3:内向き組織型
内向き組織型とは、顧客課題の理解が浅いうえに、価値定義の起点が顧客ではなく社内事情になっている状態である。マーケティングにおいては最もダメな状態だ。
例えば「今期はこの製品を伸ばしたい」「新機能を出したから必ず前面に出したい」「展示会で目立つ打ち出しにしたい」といった理由で、訴求内容が決まる。顧客が実際に悩んでいる課題より、自社の売りたい商品や部門KPIが優先されるため、コンテンツは増えても刺さりにくい。
マーケ担当者は記事、導入事例、ホワイトペーパー、広告などを頑張って回しているが、営業からは「結局このリードは薄い」と返され、開発からは「技術の価値がちゃんと伝わっていない」と言われる。誰も間違ったことをしているつもりはないのに、全部が少しずつズレている。会議では「まずは社内方針を優先しよう」が通りやすく、顧客の判断に必要な論点は後回しになる。その結果、努力量は多いのに、成果が線でつながらない。
タイプ4:営業迎合型
営業迎合型とは、価値定義の起点が顧客そのものではなく、「営業が今売りやすいか」「現場が使いやすいか」に強く寄っている状態である。
例えば営業から「とにかく比較表が欲しい」「価格優位を強く出してほしい」「導入事例を量産してほしい」と言われ、その要望に合わせてコンテンツを作り続ける状態である。
一見すると現場連携ができているように見えるが、実際には顧客の本質課題や中長期の価値定義が置き去りになりやすい。短期的には営業が使いやすく、反応も取りやすいため社内評価は得やすい。しかし、案件ごとに言っている価値が変わり、価格訴求・事例訴求・機能訴求がバラバラになりやすい。
結果として「結局うちの価値は何なのか」が社内でも揃わず、施策の再現性も落ちる。マーケ担当としては「営業の要望に応えているのに、なぜ積み上がらないのか」と感じやすいタイプである。営業連携そのものが悪いのではなく、営業都合が顧客価値の定義を上書きしてしまっていることが問題だ。

BtoBマーケティングを【戦略】・【仕組み】・【実行】・【体制】・【優先順位】の5つのカテゴリに分解して、御社の優先度の高い課題を明確化するシートです。
ズレていないかのタイプ別チェック項目
4つのタイプをご紹介したが、御社はどのタイプだろうか?以下にタイプ毎のチェック項目を記載するので、御社の社内の関係者全員でチェックしてみて欲しい。営業、技術、マーケの目線を合わせるためにも、ぜひ社内関係者全員でチェックして欲しい。
チェックが多く入れば、よりそのタイプに近いというチェック項目となっている。
技術最適型のチェック項目
□技術や機能の説明がコンテンツの中心になっている
□「すごい」と言われるが商談に進みにくい
□提案で「で、何が変わるのか?」と聞かれる
□最初に見せる資料の冒頭が製品・機能紹介になっている
□顧客ごとに提案内容が大きく変わらない
顧客起点型のチェック項目
□顧客の業務プロセスを説明できる
□なぜその課題が起きているか言語化できる
□導入後の変化を具体的に説明できる
□提案が「業務→課題→解決」の順になっている
□顧客から「その通り」と言われることが多い
内向き組織型のチェック項目
□「今期この製品を売る」が最優先になっている
□訴求内容が社内方針で決まる
□部門ごとに言っていることが違う
□施策は増えているが成果につながらない
□「本当は違う気がする」と思いながら進めている
営業迎合型のチェック項目
□「営業から言われたから」が施策の起点になる
□比較表や価格訴求を優先している
□案件ごとに訴求内容が変わる
□営業は使いやすいが成果が積み上がらない
□自社の強みが毎回違って見える
ALUHAが感じたのは「マーケ部は顧客起点型だけど・・・」
ALUHAがこれまで多くのBtoB企業の価値定義を支援する中で感じているのは、多くの企業が「顧客起点型」になりきれていないという現実である。その理由は大きく2つある。1つ目は、そもそも顧客を十分に理解できていないことだ。パートナー経由の販売により最終顧客が見えない、導入後の活用実態を追えていない、さらに人事異動によって知見が引き継がれないといった構造的な要因が重なり、顧客理解が蓄積されにくい。
2つ目は、マーケ部門としては顧客起点で価値を定義しようとしても、組織内の力学によって別の方向に引き戻されてしまうことである。特に技術商材を扱うBtoB企業は、技術や営業の発言力が強く、最終的に「売りたいもの」「アピールしたい技術」や「説明しやすいこと」が優先されやすい。その結果、顧客を見ているつもりでも価値定義は社内都合に寄り、気づかないうちにズレが生まれていく。
あなたの会社はどのタイプだったか?
最後に、あなたの会社がどのタイプに当てはまるのか、一度4象限で整理してみてほしい。
「顧客起点型」に見えていても、実は技術最適型や営業迎合型に寄っているケースは少なくない。また、自分では正しくやれているつもりでも、社内の力学によって知らないうちに価値定義がズレていることも多い。
重要なのは、どの施策をやるかではなく、「どう価値を定義しているか」である。仮に施策の量や質を高めたとしても、その前提となる価値定義がズレていれば、成果は積み上がらない。むしろ、やればやるほどズレが拡大していくことすらある。
だからこそ一度立ち止まり、自社がどのタイプにいるのかを見極めてほしい。その現在地を正しく捉えることが、BtoBマーケティング戦略を機能させる最初の一歩である。












