製造業のBtoBマーケティング戦略の立て方|難しいと言われる理由・成功事例から学ぶ課題解決のプロセスとは

技術の強みを 顧客価値へ変える 製造業マーケティング
Last Updated on 2026年8月1日 by 荻野永策

製造業では、展示会やWeb施策に取り組んでも、商談や受注につながらないことは少なくない。原因は施策不足ではなく、技術の強みを顧客価値へ変換できていない、営業との連携が曖昧といった戦略上の問題にある場合も多い。

本記事では、製造業のBtoBマーケティングが難しい理由を整理し、何から見直せば成果につながるのかを5つのステップで解説する。なお、本記事における製造業とは、企業向けに機械・部品・素材・装置などを開発・製造・販売する企業のことを指す。自動車部品メーカー、FA機器メーカ、半導体・電子部品メーカー、産業機械メーカーなどが代表例である。

製造業のBtoBマーケティングは「技術の強みを顧客価値に変える仕組み」

BtoBマーケティングに関する無料個別セミナー

以下のようなセミナーを常時受付中!無料の個別セミナーですのでお好きな日時・人数で受講できます。

BtoBマーケティングとは、顧客の課題やニーズを捉え、自社の製品・サービスが持つ価値を伝えながら、商談や受注につなげていく活動だ。

製造業では、この「価値を伝える」という部分がとりわけ難しい。Webサイトやカタログを開けば、製品の機能、材質、寸法、精度などが詳しく掲載されている。競合より優れた技術を持ち、顧客から高く評価されてきた企業も少なくないだろう。しかし、技術的に優れていることと、顧客が導入する理由を理解できることは同じではない。

例えば、「耐熱性が高い」という特徴があったとする。技術者にとっては、それ自体が製品の重要な強みである。一方、顧客が知りたいのは、耐熱性の高さによって自社の現場がどう変わるのかという点ではないだろうか。

高温環境での故障を減らせるのか。部品交換の頻度を抑えられるのか。設備停止による生産ロスや保守コストをどの程度減らせるのか。そこまで伝わって初めて、技術は顧客にとって意味のある価値になる。

「高精度」「高耐久」「独自技術」「柔軟な対応」といった表現だけでは、自社の課題に適した製品なのかを顧客が判断できない場合も多い。競合他社も同じような言葉を使っているなら、違いはなおさら見えにくくなる。

さらに、製造業の購買には複数の部門が関わる。現場担当者が「使ってみたい」と考えても、技術部門が適合性を確認できなければ話は進まない。技術面で問題がなくても、購買部門や経営層が価格や設備投資効果に納得できず、検討が止まるケースもあるだろう。

こうした背景を踏まえて、製造業のBtoBマーケティングに求められるのは、その技術がどのような課題に有効で、導入後にどのような変化をもたらすのかを、顧客の言葉で説明することである。技術と顧客課題を結びつけ、その価値をマーケティングと営業が一貫して伝える。そして、複数の関係者が導入の妥当性を判断できる状態を作る。これが、製造業におけるBtoBマーケティングの役割だ。

製造業のBtoBマーケティングが難しいと言われる理由

「製造業のBtoBマーケティングが難しい」と言われる理由は、次の5つが主だ。

  • 購買関与者が多く、技術的な合意形成に時間がかかる
  • 技術・製品の強みを顧客価値へ変換できていない
  • STP戦略が定まらず、誰に売るかが曖昧になっている
  • マーケティングの重要性が理解されておらず社内に浸透しない
  • マーケティングと営業の役割分担が明確になっていない
  • 個々の施策が連動せず、全体の成果につながっていない

製造業のBtoBマーケティングが難しい理由を、「どの施策を選べばよいかわからない」という問題だけで捉えるべきではない。展示会やSEO、Web広告、ウェビナーなどの手法を知っていても、その前提となる戦略や部門連携が整っていなければ、施策は十分に機能しないだろう。

施策を増やす前に、まずは自社がどの課題に該当しているかを見極めたい。それぞれ詳しく見ていこう。

購買関与者が多く技術的合意形成に時間がかかる

製造業のBtoBマーケティングを考えるうえで、最初に押さえておきたいのが購買関与者の多さである。設備、部品、素材、システムなどを導入すると、生産工程や品質、安全性、既存設備、コストにまで影響が及ぶ。担当者一人の判断だけで購入を決められないのは、ある意味当然といえるだろう。

そして製品を実際に使用する現場担当者だけでなく、生産技術、設計、品質保証、情報システム、購買、経営層などが関わる場合もある。しかも、それぞれが確認したい内容は同じではない。

関与者主な役割購買判断で重視する観点
現場担当者製品を実際の工程や業務で使用する操作性、作業負担、使いやすさ、現場への適合性
技術部門仕様や技術的な導入可否を評価する性能、精度、安全性、既存設備との互換性、検証結果
購買・調達部門価格や取引条件を確認し、調達を進める価格、納期、供給の安定性、契約条件、保守体制
経営層投資の妥当性や事業への影響を判断する投資対効果、経営課題への貢献、導入リスク、将来性

例えば、現場担当者が製品の使いやすさを評価していても、技術部門が要求仕様を満たせないと判断すれば、導入には至らない。性能に問題がなくても、購買部門から価格や供給体制を懸念されることもある。一方で、経営層から「それだけの費用を投じる意味は何か」と問われ、担当者がうまく説明できずに稟議が止まるケースも珍しくない。

このように、製造業の購買では、異なる判断軸を持つ関係者が順番に、あるいは並行して製品を評価していく。サンプルテスト、PoC、既存設備との接続確認などが必要になれば、意思決定にはさらに時間がかかるだろう。

そのため、マーケティングが最初に接点を持った担当者だけを想定して情報を提供しても、その先の合意形成までは支援できない。関与者が多いほど、マーケティング施策の反応が商談や受注へ結びつくまでの経路も複雑になる。資料請求が発生したからといって、検討が順調に進んでいるとは限らない。

技術・製品の強みを顧客価値に変換できない

製造業のWebサイトや営業資料では、スペックが丁寧にまとめられていることが多い。それにもかかわらず、製品の良さが顧客へ伝わっていないという相談は少なくない。

「耐熱温度300℃」「測定精度±0.01mm」といった数値は、製品を評価するうえで必要な情報である。ただし、その数値だけを見て、すべての顧客が導入価値まで理解できるとは限らない。

顧客が知りたいのは、スペックの高さそのものではなく、その性能によって自社の課題を解決できるかどうかだ。スペックは価値そのものというより、価値を実現できることを裏付ける根拠と考えたほうがよい。

顧客の課題スペックを表現した例顧客価値を表現した例
高温環境で部品の故障や交換が頻発している耐熱温度300℃高温環境でも安定して稼働し、部品交換や設備停止を減らせる
検査結果にばらつきがあり、不良品が流出している測定精度±0.01mm微細な差異を安定して検出し、検査品質の均一化につなげられる
製品切り替え時の段取りに時間がかかる工具を使わずに交換可能切り替え時間を短縮し、設備の稼働時間を確保できる
既存設備を残したままデータを取得したい後付け設置に対応設備を入れ替えずに導入でき、初期投資と現場負担を抑えられる

品質を安定させたい企業もあれば、人手不足を補いたい企業もある。設備停止のリスクを抑えることが最優先の現場もあるだろう。同じスペックでも、顧客の課題によって価値の意味は変わる。

この変換ができないまま記事やホワイトペーパーを増やしても、顧客の心には届きにくい。リードを獲得できたとしても、「なぜこの製品を検討すべきなのか」が伝わらず、商談へ進まない場合も多いのではないだろうか。

STP戦略が定まらず誰に売るかが曖昧

STPとは、市場を分けるセグメンテーション、狙う市場を選ぶターゲティング、競合との違いを定めるポジショニングの頭文字を取った言葉だ。技術系商材には、対象となる業種や用途が限られた専門性の高い製品も多い。それでも、ターゲットが自然に決まるわけではない。

同じ業界の企業であっても、利用する工程、生産方式、既存設備、要求仕様、企業規模によって課題は異なる。自社製品との相性や、顧客が重視する選定基準にも差が出るだろう。

例えば、同じ検査装置を検討する企業でも、大量生産を行う工場では処理速度が重視される。一方、多品種少量生産の現場では、段取り替えのしやすさや設定変更の柔軟性が重要になる。この違いを整理せず、「製造業向け」「検査工程向け」と大きく括って訴求すれば、メッセージはどうしても抽象的になってしまう。

STP戦略が曖昧な企業では、次のような問題が起こりやすい。

  • 施策への影響: どの展示会や媒体へ投資すべきか判断できず、施策が広く浅くなる
  • コンテンツへの影響: 「高品質」「幅広く対応」といった、他社にも使える表現が増える
  • 営業連携への影響: マーケティングと営業で、優先して狙う企業の認識がそろわない

ターゲティングとは、販売できる企業を機械的に切り捨てることではない。自社の技術が特に力を発揮しやすい顧客を見極め、限られたリソースをどこへ優先的に配分するかを決める取り組みであることを覚えておこう。

マーケティングの重要性が理解されておらず社内に浸透しない

製造業では、マーケティングの役割や重要性が社内で十分に理解されていないことも多い。技術開発、製造、営業は売上との関係が見えやすい。一方で、マーケティングは「広告を出す部門」「Webサイトを更新する担当」「展示会の準備をする人」と狭く捉えられがちなためだ。

しかし、本来のマーケティングは、顧客ニーズの把握、狙う市場の選定、価値定義、見込み客の獲得・育成、営業支援までを含む。こうした役割が理解されていなければ、全社的な協力を得るのは難しい。

そして社内でマーケティングの重要性が理解されていない場合、次のような問題が起きる。

社内の状態起きる問題マーケティング活動への影響
経営陣がマーケティングの役割を理解していない投資の必要性を判断してもらえない予算がつかず、単発施策しか実行できない
他部門のマーケティングリテラシーが低い顧客情報や技術情報の共有に協力してもらえない顧客課題や製品価値を反映した施策を作れない
専任の担当者や責任者がいない既存業務との兼務になり、優先順位が下がる分析や改善まで手が回らず、施策がやりっぱなしになる
社内にマーケティング経験者がいない何から始めるべきか、成果をどう評価するか判断できない手法の導入が目的化し、全体設計が進まない
成果がリード数やアクセス数だけで評価される受注への貢献が見えず、重要性を理解されにくい予算や人員の追加を説明できない

マーケティング担当者が顧客課題を整理しようとしても、営業から商談情報を共有してもらえなければ、実態に合ったコンテンツは作れない。技術部門に協力を依頼しても、「本業ではない」と判断されれば、技術情報の確認が進まないこともあるだろう。

もし経営陣がマーケティングを単なる広告費と捉えていれば、中長期の施策に予算をつけてもらうのも難しい。短期間で売上が出なければ、「効果がない」と判断され、取り組み自体が止まる可能性もある。

社内に詳しい人材がいない場合は、担当者自身がマーケティングの必要性や進め方を説明しながら、同時に実務も進めなければならない。こうした状態では、担当者の負担が大きくなり、改善まで手が回らなくなるだろう。

この問題は、担当者個人の知識や努力だけでは解決しにくい。マーケティングの役割、受注までのプロセス、各部門に求める協力、共通KPIを整理し、経営陣や営業・技術部門と認識をそろえる必要がある。

マーケティングと営業の役割分担が曖昧で施策が機能しない

技術系商材では、Webサイトから問い合わせが入った後に、顧客ごとの用途や要求仕様を確認しなければならないことが多い。そのため、マーケティングが情報提供できる範囲と、営業が個別対応すべき範囲の線引きが難しくなりやすい。さらに専門的な確認が必要になれば、技術部門の協力も欠かせない。

役割を明確にしないまま運用すると、施策が機能しないだけでなく、部門間の不信感につながる場合もある。

何が決まっていないかマーケティング側への影響営業側への影響
リードの質の定義がない獲得件数を増やしても、成果として評価されにくい自社製品と適合しないリードへの対応が増える
商談化の判断基準がないどの時点で営業へ渡すべきか迷う対応が早すぎる、または有望なリードへの連絡が遅れる
すり合わせの担当が不明技術的な質問に回答できず、顧客対応が止まる初期段階から個別対応を求められ、営業工数が増える

例えば、資料をダウンロードしたリードをすべて営業へ渡したとする。その中には、情報収集を始めたばかりの担当者や、用途が自社製品と合わない企業も含まれるだろう。営業からすれば、商談にならない相手への対応が増え、「マーケティングが獲得するリードは質が低い」と感じるかもしれない。

一方、マーケティングが営業へ渡すことをためらい、リードを長く抱え込むのも問題だ。すでに具体的な技術相談が必要な段階へ進んでいるのに、営業の連絡が遅れれば機会を逃してしまう。

どの条件を満たしたら営業へ引き渡すのか。技術部門へ相談するのはどの段階か。対応結果をどのようにマーケティングへ戻すのか。こうしたルールを先に決めておく必要がある。

各施策が連動しておらず、全体の成果につながっていない

展示会、SEO、Web広告、ウェビナー、メルマガなど、さまざまな施策へ取り組んでいるにもかかわらず、商談や受注が伸びない企業も少なくない。

個々の施策を見れば、決して失敗しているわけではない。展示会では名刺が集まり、SEOではアクセスが増え、ウェビナーにも参加者がいる。それでも全体の成果が変わらないのは、施策同士がつながっていないためだ。

展示会の目標は名刺獲得数、SEOの目標はPV、ウェビナーの目標は参加者数。それぞれが別の数字を追い、その後の行動が設計されていなければ、成果は施策の中で止まってしまう。展示会で獲得したリードへ、一律の御礼メールを送って終わってはいないだろうか。Webサイトへアクセスを集めても、技術資料や相談へ進む導線がなければ、訪問者が誰なのかさえ把握できない。

次のような状態が見られるなら、全体設計を見直す必要があるだろう。

  • 施策ごとのKPIはあるが、商談や受注までのつながりを説明できない
  • 展示会、Web、メールを担当する部門が、それぞれ別の方針で動いている
  • リードが何に関心を持ったのか、営業へ十分に共有されていない
  • 成果が伸びないたびに、新しい施策やコンテンツを追加している

施策の数が足りないのではなく、受注までの流れのどこかで成果が途切れている可能性もある。まずは顧客との接点から受注までを一つの流れとして捉え、どの段階がボトルネックになっているのかを確かめるべきだ。

製造業のBtoBマーケティング戦略の立て方

BtoBマーケティングに関する無料個別セミナー

以下のようなセミナーを常時受付中!無料の個別セミナーですのでお好きな日時・人数で受講できます。

ここまで見てきたように、製造業のBtoBマーケティングでは、施策の前提となる戦略や部門連携に課題が生じやすい。

だからこそ、「何を実行するか」と手法から考えるのではなく、誰にどのような価値を届け、どのように受注へつなげるのかを順番に組み立てる必要がある。

製造業のBtoBマーケティング戦略設計は、次の5つのステップで進めよう。

  1. 市場・顧客・競合を分析する
  2. 技術的強みを顧客にとっての価値に変換する
  3. マーケティングと営業の役割分担を定義する
  4. 製造業に効果的な手法を選定する
  5. KPIを設計し、経営層・営業部門に成果を共有する

この順番で進めれば、「誰に何を伝えるか」と「どの施策を実施するか」がつながってくる。個々の施策を頑張る状態から、各施策が受注へ向けて連動する状態へ変えていける。

①市場・顧客・競合を分析する

最初に行うのは、顧客ニーズ、市場動向、競合、自社の受注実績を整理することだ。戦略を考えるとき、将来の市場規模や業界動向ばかりに目が向く場合もある。しかし、自社がすでに持っている受注・失注情報の中にも、重要なヒントが隠れている。

既存顧客がいるなら、次の点を確認したい。

  • なぜ自社製品が選ばれたのか
  • 導入後も使い続けてもらえている理由は何か
  • 営業側が強みだと考えていた点と顧客が実際に評価した点は一致しているか

さらに失注案件も見逃せない。競合製品に負けたのか、既存設備を使い続ける判断になったのか、予算化できずに延期されたのかによって、次に取るべき対応は変わるだろう。

もし既存顧客が少ない場合は、営業へのヒアリング、見込み客へのインタビュー、業界資料、競合サイトなどを使って仮説を立てるとよい。最初から正解を当てようとせず、商談や施策を通じて確かめていく姿勢が現実的だろう。

観点製造業での考え方
セグメンテーション(市場をどう分けるか)業種だけでなく、用途、工程、生産方式、設備環境、技術課題、要求仕様などで分類する
ターゲティング(どの市場を狙うか)顧客課題の強さ、自社技術との適合性、競合状況、市場性、社内の対応力を踏まえて決める
ポジショニング(何で選ばれるか)性能だけでなく、既存設備への適合、導入支援、供給体制、保守、カスタマイズも含めて違いを定める

例えば、「多品種少量生産を行う部品メーカーの検査工程」のように、用途や課題が見える粒度まで具体化すれば、必要な情報や訴求内容を考えやすくなる。一方、対象が限られたニッチな商材では、これ以上ターゲットを狭める必要がないように思えるかもしれない。

それでも、すべての対象企業で同じ勝ち方ができるとは限らない。既存設備や導入時期、競合状況などを比べれば、受注しやすい顧客とそうでない顧客の違いが見えてくる。

重点市場を決めることは、それ以外の顧客を断ることではない。限られた人員や予算を、どこへ優先的に使うかを決める取り組みだ。

②技術的強みを顧客にとっての価値に変換する

重点市場が決まったら、自社の技術的な強みを顧客価値へ変換していく。

まずは製品の仕様や特徴を、できるだけ具体的に書き出してみよう。性能だけでなく、導入実績、カスタマイズ力、供給体制、保守対応なども強みになり得るだろう。

ステップやること具体例
技術・強みを書き出す製品の仕様、性能、実績、支援体制を列挙する耐熱温度300℃、高精度測定、既存設備への後付けに対応
顧客の課題と紐づけるどの工程の、どの問題に有効かを整理する高温環境で故障が多く、交換作業や設備停止が発生している
顧客価値として言語化する技術によって生じる業務上・経営上の変化を示す高温環境でも安定稼働し、交換回数と設備停止時間を減らせる

「どのような条件でも使える」「いくつもの課題を解決できる」と広げるほど、顧客には伝わりにくくなる。むしろ、「この条件では特に強い」と言い切れるほうが、選ばれる理由は明確になる。

続いて、顧客価値を整理したら、営業やマーケティングで共通して使う訴求メッセージへまとめる。

Webサイトでは「高耐久」、展示会では「長寿命」、営業資料では「高品質」と、接点ごとに説明が変われば、強みはぼやけてしまう。そのため、中心となる価値はそろえたうえで、相手に応じて見せ方を変えるとよい。

技術担当者には性能や適合性を、現場責任者には作業や運用への影響を、経営層には投資効果やリスク低減を伝える。技術を一つの言葉に置き換えるのではなく、同じ価値を相手の判断軸に合わせて翻訳することが重要だ。

③マーケティングと営業の役割分担を定義する

次に、マーケティングと営業がどこまでを担当するのかを決める。

技術系商材では、マーケティングだけで専門的な質問へ回答するのは難しい。一方、すべてのリードへ営業が個別対応していては、本当に優先すべき商談へ時間を使えなくなる。技術部門への依頼が増えすぎれば、本来の設計や開発業務を圧迫しかねない。

技術資料やFAQの監修、顧客環境への適合確認、サンプルテストなどには、技術・開発部門の協力が必要になるだろう。その場合は、「どの条件を満たした案件であれば技術部門へ依頼するか」まで決めておきたい。例えば、用途と要求仕様が確認できていること、導入時期が見えていることなど、技術対応を始める条件を設けるのもよいだろう。

ただし、この線引きはあくまで目安にすぎない。実際には、商材の複雑さ、顧客数、組織体制によって適切な分担は変わる。

また、最初から全社的なルールを完成させようとすると、調整だけで時間がかかることもある。そのため、まずは一つの商材や市場に絞り、協力的な営業担当者、技術担当者と小さく試すのがおすすめだ。成果や課題を共有しながら、徐々に対象を広げていけばよい。

④製造業に効果的な手法を選定する

戦略と役割を整理したら、次は実行する手法を検討しよう。製造業では、デジタルとリアルのどちらが優れているかという議論になりがちだ。しかし、実際にはどちらか一方だけで購買プロセスを完結させるのは難しい。

SEO、Web広告、メールなどのデジタル施策は、多くの企業との接点作りや長期的な情報提供に向いている。一方、展示会、訪問、製品デモなどのリアル施策は、製品の実物確認、技術的なすり合わせ、信頼関係の構築に強い。

現在の課題優先して検討する手法
重点市場での認知が低いSEO、業界メディア、Web広告、展示会、ウェビナー
リードが少ないホワイトペーパー、展示会、セミナー、広告、紹介
リードはあるが商談化しないメール、導入事例、技術資料、インサイドセールス、個別相談
技術評価で止まりやすい製品デモ、サンプルテスト、技術FAQ、仕様比較、検証データ
社内稟議で止まりやすいROI資料、導入事例、比較資料、導入計画
受注後の追加提案が少ない定期訪問、顧客アンケート、活用セミナー

デジタル施策は、多くの顧客へ情報を届け、反応を把握するのに適している。ただし、顧客固有の技術条件を確認するには限界がある。

そこで、デジタルで情報提供と初期の見極めを行い、具体的な検討段階へ入った顧客には営業や技術部門が対応する。このように役割を分ければ、人が対応すべき案件へリソースを集中できる。自社の課題、ターゲット企業数、営業体制を踏まえて優先順位を決めていこう。

なお、BtoBマーケティングで活用できる具体的な手法については、以下の記事でも詳しく解説しているのでこちらも参考にしてほしい。

BtoBマーケティングの施策別手法一覧とその概要

BtoBマーケティングの43手法一覧|技術系商材で受注につなげる戦略設計・施策選定の進め方

2026年8月1日

⑤KPIを設計し経営層・営業部門に成果を共有する

手法を選定した後は、成果を判断するためのKPIを設計する。ここでありがちな失敗は、リード件数だけを追ってしまうことだ。それでは、数は増えているものの、自社製品に適合する企業がほとんどいないといった問題を見落としかねない。

製造業のBtoBマーケティングでは、少なくとも「リードの量」「リードの質」「商談・受注への貢献」の3つを組み合わせて評価すべきだ。展示会で名刺を500件獲得しても、重点市場に属する企業がわずかなら、営業にとっての価値は高くないといった可能性もあるだろう。反対に、ダウンロード数が少ない技術資料でも、閲覧した企業の多くが相談やサンプルテストへ進んでいるなら、重要な施策といえる。

製造業の一般的な平均値を、そのまま目標にするのはおすすめしない。製品単価、検討期間、市場規模、営業体制によって、適切な数値は大きく変わるためだ。業界平均と比べるより、自社の過去実績や施策実施前の数値から、どれだけ改善したかを確認したほうが現実的だ。

対象重視する指標
営業部門商談数、案件化率、重点企業からのリード数、リードの業種・用途・課題
経営層受注額、案件創出額、ROI、顧客獲得コスト、重点市場への貢献

「今月は50件のリードを獲得した」という報告だけでなく、「どの企業が、どの課題に関心を示し、何を閲覧したのか」まで共有できれば、営業も次のアクションを考えやすい。経営層には、PVやメール開封率だけを見せても、マーケティング投資の妥当性は伝わりにくい。売上や案件創出へどう貢献したのか、今後どの市場を伸ばせるのかを説明する必要がある。

営業部門とは月次、経営層とは四半期ごとなど、自社の検討期間や会議体に合わせて報告頻度を決めるとよいだろう。KPI報告の目的は、マーケティングの正当性を主張することではない。営業や経営層と現状を共有し、次にどこを改善すべきかについて共通認識を作ることである。

製造業におけるBtoBマーケティングの成功事例

BtoBマーケティングに関する無料個別セミナー

以下のようなセミナーを常時受付中!無料の個別セミナーですのでお好きな日時・人数で受講できます。

ここからは、製造業を中心に、技術系商材を扱う企業がBtoBマーケティングを仕組み化した事例を紹介する。

各社が実施した施策は異なるものの、単にコンテンツやツールを増やしたわけではない。自社の課題を見極め、Web、メール、営業活動などの役割をつなぎ直した点は共通している。

山洋電気株式会社|Web改善のPDCAを定着させ、CV件数が8~10倍に増加

山洋電気株式会社様は、冷却ファン、サーボシステム、無停電電源装置などを展開する電気機器メーカーである。

同社では以前からWebマーケティングに取り組んでいたものの、改善施策がパターン化し、Webサイトをどのような根拠で変えるべきか判断しにくい状況にあった。

そこで、KPIの考え方やWeb改善の進め方を整理し、データをもとにPDCAを回す体制を構築した。改善案を出して終わるのではなく、実行後の成果を確認し、次の施策へつなげる流れを定着させている。

施策前の状態Web改善がパターン化し、変更の根拠や優先順位が曖昧だった
実施した施策KPI設計、勉強会、Webサイトの継続的な改善
施策後の成果コンサルティング開始から約1年後にCV件数が8~10倍へ増加

成果につながったのは、特定の施策を一度実行したからではない。成果を測り、改善を重ねられる仕組みを社内に作ったことが大きいといえる。

BtoBマーケティング大賞2024を受賞された山洋電気株式会社様のコンサル支援事例

フジモリ産業株式会社|アクセス数を追わず、問い合わせ導線の改善で成果を拡大

フジモリ産業株式会社様は、プラスチックや建材などを扱うメーカーだ。対象となった製品はニッチで専門性が高く、検索されるキーワードも限られていた。そのため、SEOによって大量のアクセスを集める方法とは相性がよくなかったという。

そこで同社は、流入数を無理に増やすのではなく、すでにWebサイトを訪れている人が問い合わせしやすい状態を作ることへ方針を切り替えた。

製品の見せ方や導線を見直し、顧客が製品を評価しやすいようサンプル請求を用意している。

施策前の状態Web経由の問い合わせは月1~2件程度
実施した施策Webサイトの導線改善、訴求の見直し、サンプル請求の設置
施策後の成果改善翌月に月5件、その翌月には月8件となり、年間約60件のCVを獲得

問い合わせの多くが商談につながった点も注目したい。

市場が狭い商材では、PVを増やすことが最優先とは限らない。顧客が検討を進めるうえで必要な行動を見極め、そこへ導くほうが成果につながる場合もある。

BtoBデジタルマーケティング成功事例「SEO対策をせずにCVRを5倍に」

積水樹脂株式会社|セミナー、メール、Webをつなぎ、問い合わせを12倍へ

積水樹脂株式会社様は、樹脂とほかの素材を組み合わせた製品を展開する化学メーカーだ。

同社の製品は商流が複雑で、Webサイトだけで案件を生み出すことが難しいという課題があった。加えて、対面営業が制限された時期には、新しい商談のきっかけをどのように作るかが大きな問題になったという。

そこで、オンラインセミナーによる接点作りから始め、メルマガの定期配信、Webサイトの改善へと取り組みを広げていった。

施策前の状態Webが案件創出に十分活用されず、対面営業以外の接点も不足していた
実施した施策オンラインセミナー、定期的なメルマガ、Webサイト改善
施策後の成果メール経由の問い合わせが12倍、重点分野の製品への問い合わせが5倍に増加

一つの施策だけで成果を求めず、セミナーで接点を作り、メールで関係を保ち、Webで詳しい情報を伝える流れを整えた点がポイントである。

MAとWEB活用による商談創出と問い合わせ件数増加事例

富士フイルムホールディングス株式会社|個別施策を標準化し、サンプル請求が年間100件以上に

富士フイルムホールディングス株式会社様では、Webを活用した新規案件の獲得を目指し、複数の事業でデジタルマーケティングを進めていた。

当初はMAを導入すれば顧客の動きが見え、成果につながるのではないかと考えていたという。しかし、ツールだけではリード獲得や育成の全体像を作れないことが次第に明らかになった。

そこで、BtoBデジタルマーケティングの基礎を学び直し、KPIを確認しながらWeb改善やMA活用のPDCAを回す取り組みへ切り替えた。

施策前の状態MA中心で施策を進め、全体設計や共通の進め方が不足していた
実施した施策Web改善、MAによるシナリオメール、KPI管理、社内フレームワークの構築
施策後の成果年間アクセス数が4倍、年間数件だったサンプル請求が年間100件以上へ増加

さらに、取り組みで得たノウハウを「FAMメソッド」として整理し、社内で再現できる形へ標準化している。

担当者個人の経験に頼らず、考え方や進め方を組織の資産に変えた点は、複数事業を持つ製造業にとって参考になるだろう。

BtoBデジタルマーケティング成功事例「戦略フレームワークの構築事例」

キヤノンマーケティングジャパン株式会社|継続的なPDCAでCVを2.6倍へ

キヤノンマーケティングジャパン株式会社様は、キヤノン製品を中心に、法人向けの製品やソリューションを幅広く提供している。

取り扱う製品が多く、すべての顧客を営業だけで訪問することが難しいという課題を抱えていた。また、顧客が営業へ連絡する前にWebサイトで製品を調べるようになり、Web上で適切な情報を提供する必要性も高まっていたという。

そこで、SEOやホワイトペーパーを強化しながら、施策ごとの成果を確認して改善を続けた。

施策前の状態製品数が多く、営業だけでは顧客を十分にフォローできなかった
実施した施策SEO、ホワイトペーパー、Webサイト改善、継続的なPDCA
施策後の成果ある製品でPVが5~6倍、別の製品で月間CVが前年同期比2.6倍に増加

製品数の多さを、営業人数だけでカバーしようとすれば限界がある。Webが顧客の情報収集を支え、営業が具体的な商談へ集中できる状態を作ったことが成果につながったと考えられる。

BtoBデジタルマーケティング成功事例「PDCAを回して大きな成果を達成」

BtoBマーケティングに関する無料個別セミナー

以下のようなセミナーを常時受付中!無料の個別セミナーですのでお好きな日時・人数で受講できます。

まとめ

製造業のBtoBマーケティングでは、施策や手法を増やすだけで成果が伸びるとは限らない。そのため、まずは市場・顧客・競合を分析し、自社の技術がどのような課題や用途で力を発揮するのかを明確にする必要がある。

そのうえで、技術的な強みを品質向上、工数削減、コスト削減、リスク低減といった顧客価値へ変換し、営業と共通のメッセージで伝えていくことが重要だ。

受注までのどこで検討が止まっているのかを見極め、役割分担やKPIを整えながら、必要な施策から優先的に取り組む。そして個々の施策を点で終わらせず、商談や受注までつながる仕組みへ変えていこう。

ABOUTこの記事をかいた人

株式会社ALUHA代表取締役社長。1979年兵庫生まれのBtoBマーケティングコンサルタント。金沢工業大学大学院にて情報工学を専攻し2003年3月に修士課程を修了。同年4月にALUHAを創業。2008年からBtoBに特化したマーケティング支援、営業戦略支援を開始。2025年7月に顧客の質と量のバランスを重視するBBM(バランスベースドマーケティング)を考案。大手IT企業、製造業(日立Gr、富士フイルムGr、キヤノンGr、積水Grなど)を顧客に持つ。→セミナー講演実績→コンサル実績