製造業でWebサイトやMA、広告を活用しても、「問い合わせは増えたが商談にならない」「営業からリードの質が低いと言われる」「技術部門の協力を得られず施策が止まる」といった問題は起こりやすい。
その原因は、施策の不足ではなく、デジタルと営業・技術部門の役割や受注までの流れが設計されていないことにある。
本記事では、製造業のマーケティング担当者に向けて、自社に適したデジタル活用の範囲を見極め、戦略立案から営業連携・受注プロセス・施策改善までを一体で設計する方法を解説する。
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製造業のデジタルマーケティングは4つの受注タイプに分けられる
製造業と一口にいっても、デジタルマーケティングが有効に機能する範囲は、商材や受注プロセスによって大きく異なる。
Webサイトや広告を通じて顧客を集め、そのまま見積もりや契約まで進められる商材もあれば、営業担当者や技術者が顧客の要件を詳しく確認し、個別に提案しなければ受注できない商材もあるためだ。
したがって、「製造業にはデジタルマーケティングが向いていない」「WebサイトやMAを導入すれば成果が出る」と一括りに考えるべきではない。まず、自社がどのような売り方をしているのかを整理する必要がある。
具体的には、製造業の受注タイプは大きく次の4つに分けられる。
| 受注タイプ | 特徴 |
|---|---|
| デジタル・リアル融合型 | Webで情報収集や比較検討は進むが、受注には営業・技術担当者との商談が必要な商材。購買プロセスの前半はデジタル化しやすく、後半はデジタル化しにくい。 |
| デジタル・リアル分離型 | 同一事業・製品群の中に、デジタルで進めやすい商材とリアル営業中心の商材が混在。 |
| リアル完結型 | 顧客ごとに要件が異なり、要件整理、技術検討、個別提案が必要な商材。人中心になるためデジタル化できる部分は限られる。 |
| デジタル完結型 | 標準的な提案で受注まで完結できる商材。デジタル化しやすい。 |
これら4タイプの主な違いは、顧客の検討をデジタルだけでどこまで前に進められるか、そして営業・技術担当者による個別のすり合わせが、どの段階から必要になるかにある。
製造業では、Webで情報を集め、候補となる製品や企業を絞り込んだ後、営業や技術担当者と仕様、導入条件、費用、運用方法などを確認して受注へ進むケースが多い。また、一つの事業の中に、デジタルで購入しやすい汎用品と、個別提案が欠かせないカスタマイズ品が混在していることも珍しくない。
自社の売り方を分類できれば、デジタルマーケティングに何を期待すべきか、どこから営業や技術担当者が関与すべきかを考えやすくなるだろう。
【デジタル・リアル融合型】Webで検討が進み、営業・技術者との商談で受注するタイプ
デジタル・リアル融合型は、顧客がWebサイト、検索エンジン、ホワイトペーパー、ウェビナーなどを利用して情報収集や比較検討を行い、その後、営業や技術担当者との商談を経て受注に至るタイプである。技術系BtoB企業や製造業で、比較的多く見られる形態だ。
このタイプにおけるデジタルマーケティングの役割は、単にリードを集めることではない。顧客が抱える課題への理解を深め、検討に必要な情報を提供し、関心や検討状況を可視化したうえで、適切なタイミングで営業へつなぐところまでが役割となる。一方、営業や技術担当者は、顧客ごとに異なる要件を整理し、技術的な適合性を確認しながら、個別提案や導入判断を支援する。
つまり、マーケティングと営業は別々の活動ではなく、顧客の検討を前へ進める一つの受注プロセスとして設計しなければならないということだ。本記事では、主にこのような受注タイプの製造業を想定して中盤以降を解説する。
【デジタル・リアル分離型】製品群ごとに売り方が分かれるタイプ
デジタル・リアル分離型は、一つの企業や事業の中に、デジタルで販売しやすい製品と、リアル営業を中心に販売する製品・サービスが混在しているタイプだ。
例えば、仕様が決まっている汎用品や消耗品はWebやECで販売できる一方、カスタマイズ品や大型設備は、営業や技術担当者が個別に提案しなければ受注できないといったケースが該当する。
このような企業が、すべての製品を同じマーケティングプロセスで管理すると成果が見えにくくなってしまう。顧客の情報収集方法も必要なコンテンツも、営業へ引き渡す条件も異なるからだ。
そのため、製品群や事業ごとに、リード獲得方法、育成方法、営業連携、KPIを分けて設計する必要がある。まずは「どの製品はデジタルでどこまで検討を進められるのか」「どの製品は営業や技術担当者の個別対応が中心になるのか」を整理しよう。
【リアル完結型】営業・技術者による個別提案が受注の中心になるタイプ
リアル完結型は、顧客ごとの要件整理、技術検討、個別提案、関係構築が受注活動の中心となるタイプである。
特殊仕様の設備や部品、導入前の検証が必要な技術商材などは、Webサイトに情報を掲載するだけでは顧客が導入の可否を判断できない。そのため、営業や技術担当者が顧客の環境や条件を確認し、解決策を組み立てる必要がある。
もっとも、このタイプでもデジタル施策が不要になるわけではない。Webサイトによる認知獲得、技術情報の提供、導入事例の提示、営業へ相談する前の予備知識づくりには大いに活用できるだろう。また、過去に提案したが失注したリード、商談が消滅したリードなどをリスト化し、メルマガで継続的な商談の再創出を狙うといったデジタル活用も可能だ。
【デジタル完結型】情報収集から見積・契約までをデジタル中心で進められるタイプ
デジタル完結型は、顧客がWeb上で情報収集や比較検討を行い、見積依頼、発注、契約までをデジタル中心で進められるタイプだ。製品仕様や価格、納期、購入条件が明確であり、顧客ごとの複雑な技術検討が少ない商材ほど、この形態に近いだろう。
営業担当者が深く介在しなくても購買判断を進められるため、SEO、オンライン広告、Webサイト改善、MA、インサイドセールス、見積もりの自動化といった施策の効果が出やすい。この場合、デジタルマーケティングの目的は、集客の増加、CVRの改善、リード育成の効率化、受注までの工数削減など多岐に渡る。
ただし、製造業全体で見ると、情報収集から契約までを完全にデジタルで進められる商材は一部である。多くの企業では、どこかの段階で営業や技術担当者による確認が必要になる場合がほとんどだ。
製造業のデジタルマーケティングとは「デジタルとリアルの役割を設計すること」
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製造業では、デジタルだけで受注まで完結させることが難しいケースが多い。製品の仕様が複雑であったり、顧客ごとに導入環境が異なったりするため、最終的には営業や技術担当者による要件確認、技術検討、個別提案が必要になるからだ。
そのため、製造業におけるデジタルマーケティングは、Webサイトを作ることやMAツールを導入することだけを意味しない。顧客の情報収集を支援し、課題への理解を深めてもらい、検討状況を把握したうえで、営業や技術部門による提案活動へつなげる仕組み全体を指す。言い換えるなら、製造業のデジタルマーケティングとは、「デジタルで対応する範囲」と「人が対応する範囲」を設計する取り組みということだ。
例えば、検討初期の顧客には、課題解決に役立つ記事やホワイトペーパーを提供する。具体的な製品比較を始めた顧客には、導入事例、技術資料、比較表などを用意する。そして、個別の仕様確認や導入相談が必要になった段階で、営業や技術担当者が対応する。
こうした流れが設計されていれば、デジタル施策は営業活動と競合するものではなく、営業や技術担当者が有望な案件へ集中するための支援策になる。
製造業のデジタルマーケティングが難しい構造的な理由
製造業のデジタルマーケティングが難しい理由は、担当者のスキルや努力が不足しているからとは限らない。製造業特有の受注構造によって、一般的なデジタルマーケティングの仕組みをそのまま適用しにくいことが大きく影響している。
代表的な理由として、次の4つが挙げられる。
- SaaS型のマーケティング理論がそのまま通用しない
- 購買関与者が多く、デジタル上の行動データが分断されやすい
- 技術スペック偏重で、デジタル上では顧客価値が伝わりにくい
- デジタル施策と営業活動が分断されやすい
個別の施策やツールを導入しても、当然だがそれだけでは受注プロセス全体の改善にはつながらない。むしろ、MAの運用やWebサイトの更新そのものが目的になり、顧客の購買プロセスや営業活動との間に新たな分断を生むことも少なくない。
SaaS型のマーケティング理論がそのまま通用しない
SaaSをはじめとするデジタル完結型のビジネスでは、リード獲得、育成、商談化、契約までを比較的標準化しやすい。製品や料金体系が明確で、顧客自身がWeb上で比較検討を進められるためだ。
しかし、製造業では顧客ごとの要件や導入条件が異なる。同じ製品であっても、使用環境、既存設備、求める精度、生産量、安全基準などによって適切な提案は変わる。商談の途中で技術部門が参加したり、追加検証が必要になったりすることもあるだろう。こうした案件を、一律のシナリオやスコアリングだけで管理するのは難しい。
そこに一般的なマーケティング理論をそのまま持ち込むと、マーケティング部門は「スコアが高いから有望」と判断する一方で、営業部門は「技術的に適合しない」と評価するといったずれが生じる。
その結果、マーケティングはリードを渡しているのに営業が対応しない、営業は質の低いリードばかり届くと感じる、といった対立が起きやすくなるというわけだ。
必要なのは、マーケティングの一般論をそのまま適用することではない。自社の商材や営業プロセスに合わせて、リードの定義、引き渡し条件、育成方法を作り直すことである。
購買関与者が多くデジタル上の行動データが分断されやすい
技術系商材の購買には、複数の部門や担当者が関与する。現場担当者は使いやすさや課題解決力を重視し、技術部門は性能や安全性・既存設備との適合性を確認する。一方で購買部門は価格や取引条件を見て、経営層は投資対効果や事業上のリスクを判断するだろう。それぞれが異なる観点で情報を集めるため、一人の行動だけを追っても、企業全体の検討状況は見えてこない。
例えば、現場担当者がホワイトペーパーをダウンロードしていても、社内ではまだ情報収集段階かもしれない。反対に、Web上ではほとんど行動が見えなくても、営業や技術担当者との間で具体的な検討が進んでいる場合もある。MAやアクセス解析で取得できるのは、基本的に個人単位の行動データだ。しかし、実際の購買判断は組織で行われる。
したがって、デジタル上の行動だけで有望度を判断するのではなく、企業属性、過去の商談履歴、営業が把握している情報、関係部門の動きなどを組み合わせて見る必要がある。
技術スペック偏重でデジタル上で顧客価値が伝わっていない
製造業のWebサイトや営業資料では、技術力、製品機能、仕様、スペックが前面に出やすい。もちろん、技術的な情報は製品選定に欠かせない。ただし、スペックを詳しく掲載するだけでは、顧客が「自社のどの課題に役立つのか」「導入すると何が変わるのか」を理解できないだろう。
例えば、「処理速度が従来比2倍」という説明があっても、それによって生産量が増えるのか、納期遅延を減らせるのか、人員不足を補えるのかまでは伝わらない。Webサイトやメールでは、その場で説明を加えることができない。これが対面であれば、顧客の反応を見ながら営業が補足できる。だからこそ、デジタル上では、技術的な特徴を顧客価値へ翻訳する必要がある。
「どのような企業の、どのような工程で、どの課題を解決し、導入後にどのような変化を生み出すのか」まで具体化して初めて、顧客は自社との関係性を判断できることを覚えておこう。
デジタル施策と営業活動が分断されやすい
マーケティング部門と営業部門では、追っている成果指標が異なることが多い。マーケティング部門はアクセス数、CV数、リード数などを重視する。一方、営業部門が見るのは商談数、案件化率、受注額だ。この状態で共通の判断基準を持たなければ、マーケティングは「リードを増やした」と評価しているのに、営業からは「受注につながるリードがない」と言われる。
反対に、営業がリードへ十分に対応しなければ、マーケティング側は「せっかく獲得したのにフォローしてくれない」と感じるだろう。問題は、どちらか一方の努力不足ではない。リード獲得から商談、受注までのプロセスが分断されていることにある。
これを改善するには、どのような顧客を有望と判断するのか、どの段階で営業へ渡すのか、引き渡した後にどのような結果を共有するのかを決めなければならない。デジタル施策のKPIと営業のKPIを別々に考えるのではなく、受注へ至る一連の流れとして設計することが重要となる。
製造業のデジタルマーケティングを成功に導く戦略立案の手順
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製造業のデジタルマーケティングでは、Webサイトの改修や広告出稿、MAの導入から始めるのではなく、先に戦略の土台を整える必要がある。
具体的には次の5つだ。
- 受注プロセス上でデジタルが担う範囲を整理する
- デジタル上のデータも活用して顧客ニーズと競合を分析する
- 自社の強みを分析し、顧客価値を定義する
- ターゲティングとポジショニングを決める
- デジタル上で機能する訴求メッセージを設計する
この順番で整理することで、誰に何を伝え、どの段階までデジタルで検討を進め、どこから営業や技術担当者へつなぐべきかが明確になるだろう。
①受注プロセス上でデジタルが担う範囲を整理する
最初に、顧客が情報収集を始めてから受注へ至るまでの流れを整理する。そのうえで、どの段階までをデジタルで支援できるのか、どこから営業や技術担当者の対応が必要になるのかを明確にしたい。
例えば、検討初期の課題理解や情報収集は、記事やホワイトペーパーなどのWebコンテンツで支援できる。製品の比較検討には、導入事例、技術資料、FAQ、セミナーなどが役立つだろう。
一方、既存設備との適合性、個別仕様、費用、導入スケジュールなどの確認は、営業や技術担当者が対応したほうがよい。あわせて、営業対応を開始するきっかけも仮決めする。
この範囲を決めずに施策を始めると、リード数は増えても商談化しない、営業が対応すべき案件を見逃す、情報収集段階の顧客へ早すぎる営業を行うといった問題が起きやすい。
②デジタル上のデータも活用した顧客ニーズと競合の分析
続いて、顧客が抱えている課題と、競合の状況を分析する。製造業では、アクセス解析などのデータだけを見ていても、顧客ニーズの全体像をつかむことは難しい。そのため、リアルな顧客情報とデジタルデータを組み合わせたい。
まず、営業担当者へのヒアリングや商談記録から、顧客が相談に至った背景、よく聞かれる質問、選定時に重視された条件、受注・失注理由などを確認しよう。さらに検索キーワード、閲覧されたコンテンツ、ダウンロードされた資料などデジタル上に蓄積されたデータを調べると、顧客が自発的に探している情報が見えてくる。
競合についても、製品機能の比較だけでは不十分だ。どの市場や用途を狙っているのか、Webサイトや広告でどのような課題を訴求しているのか、どのような導入事例を掲載しているのかまで確認する。このように営業現場の声とデジタル上の行動を照らし合わせることで、顧客ニーズに関する仮説の精度を高められる。
③自社の強み分析と価値定義
顧客と競合を整理したら、自社が提供できる価値を明確にする。ここで注意したいのは、強みを技術力や製品特長だけで終わらせないことだ。「高精度」「高品質」「短納期」「柔軟なカスタマイズ」といった特徴を掲げても、競合企業が同じ表現を使っていれば、顧客には違いが伝わらない。
そのため、過去の導入実績や受注案件を振り返り、自社が顧客のどの課題を、どのように解決してきたのかを明らかにしよう。例えば、単に高精度な製品を提供したのではなく、「検査工程の見逃しを減らした」「既存設備を大きく変更せずに導入できた」「品種変更時の調整工数を削減した」といった成果まで掘り下げる。
もし実績が少ない場合は、保有する技術、対応できる条件、支援体制などをリストアップして価値の仮説を立てる。その仮説を顧客ヒアリングや営業活動の中で検証していけばよい。
自社の強みとは、社内で優れていると考えている要素ではなく、顧客の課題解決に役立ち、選定理由になり得る要素であることを覚えておこう。
④ターゲティングとポジショニングの決定
次にターゲティングとポジショニング、つまり、どの市場や用途を優先して狙い、その市場でどのような理由によって選ばれるのかを決める。
製造業の技術や製品は、対応できる業種、用途、工程、設備環境、品質基準などが限定されることが多い。そのため同じ製品カテゴリーであっても、使用条件や求められる性能が異なれば導入できないケースもあるだろう。
それにもかかわらず、ターゲットとなる条件が十分に整理されていないと、Webサイトでは「さまざまな業界に対応」「幅広い用途で活用可能」といった曖昧な訴求になりやすい。その結果、顧客は自社の用途や設備に適合する製品なのかを判断できず、マーケティング側も、どの市場へ施策を集中すべきか決めにくくなる。
そこで、業界や企業規模だけでなく、用途、工程、抱えている課題、設備環境、必要な性能などの軸で市場を分類する。そのうえで、自社の技術や対応力が最も活き、受注につながる可能性が高い領域を選びたい。さらに、競合製品や代替手段と比較された際に、どのような条件で自社が選ばれるのかを明確にする。
例えば、「製造業向けの検査システム」ではなく、「多品種少量生産を行い、目視検査の判定ばらつきに悩む電子部品メーカー向け」と定めれば、訴求すべき課題、必要な技術情報、用意するコンテンツが具体的になる。
⑤デジタル上で機能する訴求メッセージの設計
最後に、定義した顧客価値を、ターゲットに伝わるメッセージへ落とし込む。対面営業では、顧客の反応を見ながら説明を補足できる。一方でWebサイトやメールでは、相手がどこで疑問を持ったのかをその場で確認できない。
そのため、デジタル上の訴求メッセージは、顧客が自分の課題と関連づけて理解できるように設計する必要がある。基本となる要素は、「誰の」「どの課題を」「どのような方法で解決し」「導入後に何が変わるのか」だ。
例えば、「独自技術による高精度な検査」だけでは、顧客にとっての意味が伝わりにくい。「多品種少量の製造現場で、目視検査の判定ばらつきを抑え、検査品質を安定させる」と表現すれば、対象と価値が明確になるだろう。
大切なのは、このメッセージをWebサイト、広告、ホワイトペーパー、営業資料などで一貫して使用することだ。接点ごとに伝える内容がばらばらでは、顧客の理解は深まらない。
デジタルとリアルを繋ぐ「受注プロセス」の設計方法
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戦略を立てた後は、デジタル施策によるリード獲得から商談、受注までを一つのプロセスとして設計する。顧客の検討状況に応じて、デジタルによる情報提供と、営業・技術担当者による個別対応を切り替えることが重要だ。
WebサイトやMAだけで検討を完結させようとするのではなく、デジタルで把握した関心や課題を、営業や技術担当者の提案活動へどのようにつなぐかを考えていこう。
購買関与者を可視化するジャーニーマップを作成する
製造業の受注プロセスを設計する際は、顧客企業の購買関与者と、それぞれが判断に必要とする情報を整理する必要がある。技術系商材では、最初に課題を感じる人、製品の仕様を確認する人、予算を承認する人、契約条件を調整する人が異なることが多いためだ。この時に作成するのがジャーニーマップである。
例えば、生産設備の導入を想定すると、次のようなジャーニーマップが作成できる。なお、以下はサンプルであるためざっくりと作っているが、技術系商材の場合、横軸の段階は10段階前後になるケースが多い。
| 整理項目 | 情報収集 | 比較検討 | 社内評価(製品・技術評価) | 導入 |
|---|---|---|---|---|
| 主な購買関与者 | 現場担当者、部門責任者 | 現場担当者、技術部門 | 技術部門、現場担当者、情報システム部門 | 部門責任者、購買部門、経営層 |
| 顧客の主な関心・判断軸 | 現在の課題を解決できる方法があるか、他社はどのように対応しているか | 自社の用途に適合するか、必要な性能や機能を満たすか | 既存設備との適合性、安全性、仕様、カスタマイズの可否 | 導入費用、投資対効果、導入リスク、社内で説明できる根拠があるか |
| 必要な情報・コンテンツ | 記事コンテンツ、ホワイトペーパー、チェックリストなど | 用途別ページ、製品比較資料、導入事例、技術FAQなど | 詳細仕様書、検証データ、構成例、デモ、技術相談など | 費用対効果資料、導入スケジュール、比較表、実績資料など |
| 次の段階へ進むための条件 | 自社の課題と解決の方向性が認識される | 自社製品が候補に入り、詳しい確認を希望する | 技術的な導入可能性と必要条件が整理される | 社内の関係者が導入効果とリスクを理解し、承認できる |
このマップからわかるように、検討段階によって必要なコンテンツと対応部門は変わる。
検討初期の顧客に、詳細な仕様書や見積書を提示しても、まだ自社の課題や解決方法を整理できていなければ十分に活用されない。反対に、技術検討まで進んでいる顧客へ一般的な課題解説を送り続けても、導入判断は前へ進まないだろう。
また、各段階で必要な情報をすべてマーケティング部門だけで用意するのは得策ではない。顧客課題の整理や一般的な情報提供はマーケティングが担い、個別仕様や導入可否の確認は営業や技術担当者が引き継ぐ。稟議や予算承認に必要な資料は、営業が顧客の状況を確認しながら、マーケティングや技術部門と連携して整備するとよい。
重要なのは、コンテンツの一覧表を作ることではない。顧客が次の段階へ進めない理由を特定し、その判断に必要な情報と対応を用意することだ。
実際のジャーニーマップは、全製品で共通化するのではなく、重点的に狙う製品、用途、顧客層(ペルソナ)ごとに作成したい。同じ製品でも、用途や導入条件が異なれば、関与する部門や判断基準、必要なコンテンツは変わるためだ。
購買関与者と検討段階を可視化できれば、デジタル施策で提供すべき情報と、営業・技術担当者が対応すべきタイミングが明確になる。長期化しやすい製造業の検討を途切れさせず、顧客の社内合意形成を支援するためにも、ジャーニーマップは受注プロセス設計の土台となる。
デジタルで進める領域と営業・技術者が担う領域を定義する
次に、マーケティングが担当する範囲と、営業・技術担当者が引き受ける範囲を決める。
例えば、課題認識を促す記事、製品選定の基礎情報、導入事例、一般的な技術情報はデジタルで提供しやすい。一方、顧客固有の仕様、設備環境、導入可否、見積もりなどは営業や技術担当者による確認が必要になる。そのため、デジタルの範囲とリアルの範囲を具体的に決めておく必要がある。言い方を変えればデジタルとリアルの境目はどこか?を決めておくということだ。ここが曖昧なまま進むと、「それは営業の仕事だ」「これはマーケの仕事だ」となり、せっかく獲得したリードも商談化しないということになる。
デジタルとリアルの境目を決めたら、引き渡し時にマーケティングから営業へ何を共有するかも決めておく。顧客が閲覧したコンテンツ、ダウンロードした資料、関心を示した課題、過去の接点などがわかれば、営業は初回の連絡から具体的な会話を始めやすくなるはずだ。
この営業との連携ルールの設計は製造業のデジタルマーケティングでは非常に重要だ。成果を再有する重要な設計であるため営業部門との事前合意は必ず取っておくようにしよう。
製品群ごとに受注プロセスを分ける
同じ会社の製品であっても、すべて同じ受注プロセスで管理できるとは限らない。製品によってどこで営業と連携するのかの連携設計が異なるケースが多い。そのため、すべての製品を同じリード獲得方法、営業引き渡し条件、KPIで管理してしまうと、成果を正しく評価できないという問題が発生しがちだ。
だからこそ、製品ごとで異なる受注プロセスを設計し、製品ごとに連携ルールを設計しよう。ただし、製品数が多い場合は、事業単位や製品グループ単位などで設計すると良い。
部門間の共通言語とKPIを設定する
受注プロセスを機能させるには、マーケティング、営業、技術部門が、顧客の状態を同じ基準で判断できるようにしておく必要がある。
「有望な見込み客」「営業が対応すべき顧客」「案件化の可能性が高い顧客」といった言葉を使っていても、部門ごとに意味が異なれば連携はうまくいかない。マーケティング部門は資料をダウンロードした顧客を有望と考えていても、営業部門は導入時期や予算が見えていなければ対応を後回しにするかもしれない。技術部門から見れば、そもそも自社製品では要件を満たせない場合もある。
すべての条件を満たした顧客だけを営業へ渡す必要はない。ただし、何が確認できており、何がまだ不明なのかを共有できれば、営業は次に確認すべき内容を判断しやすくなる。
KPIについても、リード獲得数だけで評価を終わらせないことが重要だ。有効な見込み客の数、営業が対応した割合、商談へ進んだ割合、受注率、受注額までをつなげ、マーケティング施策が営業成果にどのように貢献したかを確認する。
さらに、営業が対応した結果をマーケティングへ戻す仕組みも必要だろう。「対象業種ではなかった」「技術要件が合わなかった」「導入時期が先だった」「必要な資料が不足していた」といった情報が共有されれば、ターゲット条件やコンテンツ、引き渡し基準を改善できる。
共通の判断基準とKPIを持つことで、部門間の認識のずれを減らし、リード獲得から受注までを一つのプロセスとして改善しやすくなる。
製造業のデジタルマーケティングを成功させるポイント
以下のようなセミナーを常時受付中!無料の個別セミナーですのでお好きな日時・人数で受講できます。
製造業のデジタルマーケティングを成功させるには、思いついた施策を次々と実行するのではなく、受注プロセス上の課題を特定し、改善効果が高い場所へリソースを集中させる必要がある。
押さえておきたいポイントは、次の5つだ。
- デジタルツールを用いて数値化し、優先課題を特定する
- 課題解決に向けたデジタル施策を選定する
- データに基づいて施策を実行し、定期的に振り返る
- 小さく始めてデジタルの成功体験を積む
- 関係部門を巻き込み、味方を増やす
限られた人員や予算ですべてを改善することは難しい。そのため、小規模な実行と検証を繰り返しながら成果を可視化し、徐々に対象範囲を広げていくことが現実的となる。
デジタルツールを用いて数値化し優先課題を特定する
まずは、現在のマーケティング活動を数値で把握する。アクセス解析やMA、SFA、CRMなどを活用し、受注プロセスの各段階で何件の顧客が存在し、どこで減少しているのかを確認しよう。
代表的な指標として、次のようなものがある。
- Webサイトへのアクセス数
- 問い合わせ数
- 資料ダウンロード数
- 獲得リード数
- 有効リード数
- 営業への引き渡し数
- 商談数
- 受注数
- 受注額
例えば、アクセス数が少ないのであれば認知や流入に課題がある。アクセスはあるのに問い合わせが少ないなら、コンテンツや導線、訴求内容を見直す必要がある。リードは多いが商談化しない場合は、ターゲットのずれ、リード育成、営業引き渡し条件などを確認すべきだ。
すべての課題を同時に解決しようとせず、事業への影響が大きく、改善可能性の高い箇所から着手していこう。
課題解決に向けたデジタル施策を選定する
ボトルネックが明確になったら、その課題に合った施策を選ぶ。
認知や流入が不足しているなら、SEO、オンライン広告、展示会などが候補になる。Webサイトへの流入はあるもののリードを獲得できていない場合は、ホワイトペーパー、事例資料、セミナー、問い合わせまでの導線改善などを検討したい。
リードは獲得できているが商談化しないのであれば、メルマガ、Webコンテンツ、ウェビナー、技術資料による育成や、営業への引き渡し条件の見直しが必要になるだろう。
手法を選ぶ際は、「競合が実施しているから」「最近注目されているから」といった理由だけで決めてはいけない。戦略立案で定めたターゲットと訴求メッセージを軸に、現在のボトルネックを改善できる施策かどうかで判断すべきだ。
具体的な施策や手法については、以下の記事でも詳しく解説している。
データに基づき施策を実行して定期的に振り返る
施策の実行前には、目標値、評価期間、確認する指標を決めておこう。例えば、ホワイトペーパーを作成するなら、ダウンロード数だけでなく、営業に引き渡した数、商談化した数まで確認したい。
結果を見る際は、最終的な受注数だけで判断しないことも重要だ。製造業において短期間で受注まで到達する商材は少ないため、どの段階の数値が変化したのかを見なければならない。
また、期待した成果が出なかった場合も、「施策が悪かった」とすぐに結論づけるべきではない。ターゲット設定がずれていたのか、メッセージが伝わっていなかったのか、営業フォローが遅かったのかによって改善方法は変わるだろう。
個人の感覚や一時的な反応に依存せず、データを根拠に継続、改善、中止を判断することが、PDCAを機能させるポイントだ。
小さく始めてデジタルの成功体験を積む
最初から全製品、全市場、全部門を対象に、完璧なデジタルマーケティングの仕組みを作ろうとすると、実行までに時間がかかる。さらに関係者が増えるほど意見調整も難しくなり、具体的な成果が出る前にプロジェクトが停滞しかねない。それではマーケティング担当者が疲弊するばかりで、思ったように施策も進まない。
そうならないよう、まずは課題を一つに絞って改善するところから始めていこう。例えば、特定用途向けのソリューションページを作成する、過去の名刺リストへセミナーを案内する、営業からよく聞かれる質問を技術FAQとして公開するといった小規模な施策でもよい。
小さな成果であっても、数値と具体的な事例で共有できれば、経営層や営業、技術部門から理解を得やすくなる。その成功体験を次の製品や市場へ広げることで、無理なく全体最適へ近づける。
関係部門を巻き込み味方を増やす
製造業のデジタルマーケティングは、マーケティング部門だけでは完結しない。顧客の課題や商談の実態は営業部門が把握しており、製品や技術に関する専門知識は技術部門に蓄積されているからだ。
営業が受けた質問、失注理由、顧客から評価された点をコンテンツや施策へ反映すれば、顧客に刺さる情報を作りやすくなる。技術部門が持つ知識を技術記事、FAQ、ホワイトペーパー、セミナーへ展開することも有効だ。
ただし、「記事を書いてほしい」「セミナーに登壇してほしい」と協力だけを求めても、現場は動きにくい。マーケティング施策によって、営業の説明工数を減らせる、問い合わせの質を高められる、繰り返し受ける質問に事前回答できるといったメリットを伝える必要がある。
また、施策の成果も定期的に共有しよう。「Webから問い合わせが増えた」だけでなく、「営業が狙っていた業界から相談が来た」「技術FAQを見た顧客との商談が進んだ」など、各部門との関係が見える形で示すことが大切だ。
担当者が一人で抱え込まず、関係部門にとっても価値のある仕組みを作ることで協力者を少しずつ増やしていけるだろう。
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まとめ
製造業のデジタルマーケティングは、WebサイトやMA、広告などのデジタル施策だけで受注を完結させる取り組みではない。
顧客の情報収集や比較検討をデジタルで支援し、適切なタイミングで営業や技術担当者による要件整理、技術確認、個別提案へつなぐ仕組みを作ることが重要である。
そのためには、最初に受注プロセス上でデジタルが担う範囲を整理し、顧客ニーズ、自社の強み、ターゲット、訴求メッセージを明確にしなければならない。施策を増やすこと自体が目的としないよう注意しよう。
現在のボトルネックを見極め、顧客の購買プロセスを一歩前へ進めることが、製造業のデジタルマーケティングの本質となる。














