このコラムは、技術系商材を扱う製造業・IT企業のBtoBマーケティング担当者、特にリード獲得件数は増えているにもかかわらず、営業から評価されない、受注率が下がっている、営業との関係が悪化していると感じている方に向けて作成している。
リード件数は重要な指標である。しかし件数だけを追うと、営業工数が増大し、受注率が低下し、結果として売上に結び付かなくなることがある。本コラムでは量偏重のマーケティングがなぜ失敗するのかを整理し、ICP率やBBM(バランスベースドマーケティング)を活用してリードの質と量を両立する方法を解説する。
最後まで読むことで、営業が疲弊する本当の理由、リード件数と売上が比例しない理由、そして営業とマーケティングが同じ方向を向くための改善のヒントが得られる。
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件数目標の問題
BtoBマーケティングでは、リード件数が最も分かりやすい成果指標になりやすい。広告経由のCV数、展示会で獲得した名刺数、ウェビナー申込数、ホワイトペーパーのダウンロード数などは数値で把握しやすく、前月比や前年比でも比較しやすい。経営層や営業部門へ報告する際にも、「何件獲得したか」は説明しやすい。そのため、マーケティング部門のKPIとしてリード件数が設定されることは自然である。
しかし、リード件数はあくまで入口の指標である。何件獲得したかは分かっても、そのリードが本当に売上につながるかどうかまでは分からない。特に技術系商材では、業界、企業規模、用途、導入環境、既存システム、技術課題、自社との相性によって、商談化や受注の可能性が大きく変わる。にもかかわらず、件数だけを追うと、ターゲット外の企業や情報収集段階の担当者まで同じ1件として扱われてしまう。
件数目標が強くなると、マーケティング施策は自然と「数を作りやすい施策」に寄っていく。広めのテーマでホワイトペーパーを作る、対象業界を広げて広告を配信する、展示会では名刺獲得数を優先する、ウェビナーでは参加者数を増やしやすいテーマを選ぶ。このような施策は短期的にはリード件数を増やしやすい。しかし、営業が本当に追いたい顧客や、自社にとってLTVが高い顧客が増えているとは限らない。
問題は、件数が増えるほど成果が出ているように見えてしまうことである。リード件数が増えれば、マーケティング部門は目標を達成しているように見える。しかし営業から見ると、追っても商談化しないリード、要件が合わないリード、受注しても小規模で終わるリードが増えているだけのこともある。この状態では、マーケティングの成果と営業の成果がつながらない。
リード獲得件数をKPIにすること自体が悪いわけではない。マーケティング活動には一定の母数が必要であり、リードがなければ商談も受注も生まれない。しかし、件数だけで成果を評価すると、「売上に近いリード」ではなく「数を作れるリード」が集まりやすくなる。ここに、件数目標の大きな落とし穴がある。
加えて、件数目標は施策改善の方向性を誤らせることがある。例えば、CV単価が低い施策を高く評価し、CV単価は高いが営業評価の高い施策を縮小してしまう場合である。短期的には効率化に見えるが、長期的には売上に近い接点を減らすことになる。BtoBマーケティングでは、安く多く獲得できるリードが、必ずしも良いリードとは限らない。
営業疲弊
リード件数を追いすぎるマーケティングが引き起こす最も大きな問題は、営業の疲弊である。マーケティング部門から見れば、リード件数の増加は成果である。しかし営業部門から見れば、フォロー対象の増加でもある。リードが1件増えれば、企業情報の確認、担当者情報の確認、過去接点の確認、メール送付、架電、SFA入力、再接触などの工数が発生する。
リードの質が高ければ、その工数は商談や受注につながる可能性がある。しかし、情報収集目的のリードが多い場合、営業は多くの時間を使っても成果を得にくい。例えば、展示会で大量に名刺を獲得しても、その多くが情報収集目的のリードであれば、営業にとっては優先度が低い。ウェビナー参加者が増えても、課題がまだ不明確な参加者ばかりであれば、すぐに商談化することは難しい。
営業が疲弊するのは、単にリード数が多いからではない。営業工数に対して成果が見合わない状態が続くからである。追ってもつながらない、つながっても課題がない、商談化しても受注しない、受注しても小口で終わる。このような経験が積み重なると、営業はマーケティングリードに対する期待値を下げる。やがて、マーケティングからリードが渡されても、優先順位を下げるようになる。
この状態になると、マーケティング側は「営業がリードを追ってくれない」と感じる。一方で営業側は「追っても成果にならないリードばかり渡される」と感じる。どちらか一方が悪いわけではない。評価している指標が違い、リードの質を判断する共通基準がないことが問題なのである。
営業疲弊を防ぐには、営業に渡すリードを単純に増やすのではなく、優先順位を付ける必要がある。どのリードをすぐ営業が追うべきか、どのリードはナーチャリングすべきか、どのリードは当面対象外とするべきかを判断する基準が必要である。件数を増やすことよりも、営業が成果につなげやすいリードを増やすことが重要である。
この観点で見ると、営業が疲弊する企業では、営業部門の努力不足ではなく、フォローすべき対象の設計が不十分であることが多い。営業に渡すリードの条件、渡すタイミング、渡す情報、優先順位が整理されていなければ、営業は大量のリードの中から手探りで追うべき相手を探さなければならない。これは営業生産性を大きく下げる。
受注率低下
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リード件数を追いすぎると、営業疲弊だけでなく受注率低下も起こりやすくなる。営業リソースは有限である。営業担当者が対応できるリード数、商談数、提案件数には限界がある。低品質なリードが大量に増えると、本来集中すべき重要案件への対応時間が減る。結果として、受注可能性の高い案件のフォローが遅れ、受注率が下がることがある。
また、リード件数を増やすことが重視されると、商談化の基準も緩くなりやすい。問い合わせがあったから営業へ渡す、資料をダウンロードしたから架電する、セミナーに参加したから商談化する。このような運用では、顧客の課題や検討段階、自社との相性を十分に確認しないまま営業活動が始まる。商談数は増えても、受注に近い商談が増えているとは限らない。
受注率低下の背景には、質の高い受注と質の低い受注を区別できていない問題もある。質の高い受注とは、高いLTVを期待できる顧客企業から獲得できた受注のことである。継続取引、追加提案、他部署展開、グループ企業展開、事例化などが期待でき、将来的な売上や利益につながりやすい。一方で、このような顧客は市場全体の中では限られているため、受注件数そのものは多くなりにくい。
反対に、質の低い受注とは、高いLTVが期待できない顧客企業から獲得できた受注のことである。短期的には売上になるものの、単発取引で終わる、追加提案につながらない、サポート負荷が高い、他部署展開が見込めないといった特徴を持つ。ただし、対象企業が多いため、受注件数は増やしやすい傾向がある。
重要なのは、質の低い受注が悪いという意味ではないことである。どちらも売上にはつながっており、現在の売上や利益を支える重要な案件であることも多い。しかし、営業リソースをどこに使うかという戦略的観点から見ると、質の高い受注と質の低い受注には大きな違いがある。限られた営業工数をLTVの低い案件に使いすぎると、将来的な成長につながる顧客への対応が遅れる可能性がある。
件数目標だけを見る企業は、受注の質を見落としやすい。リード件数、商談数、受注件数が増えていても、LTVが低い受注ばかりであれば、営業生産性や事業成長には限界がある。受注率を改善するには、受注したかどうかだけでなく、どのような顧客から受注できたのかを見る必要がある。
したがって、受注率を改善するには、営業活動の後工程だけでなく、リード獲得の前工程も見直す必要がある。どのコンテンツがLTVの高い顧客を集めているのか、どのイベントが受注率の低い商談を生んでいるのか、どの広告が対象外リードを増やしているのかを確認することで、営業努力だけでは解決できない課題が見えてくる。
ICP率の考え方
リード件数を追いすぎる問題を改善するためには、リードの質を数値化する視点が必要である。そこで重要になるのがICP率である。ICP(Ideal Customer Profile)とは、自社の商品やサービスとの相性が良く、受注可能性が高く、さらに受注後に高いLTVが期待できる理想的な顧客像のことである。
ICP率とは、獲得したリードや商談、顧客のうち、ICPに該当する割合を示す指標である。例えば、100件のリードを獲得し、そのうち10件がICPに該当する場合、ICP率は10%である。一方で、50件のリードしか獲得していなくても、そのうち30件がICPに該当する場合、ICP率は60%である。件数だけを見ると前者の方が成果が大きく見える。しかし営業価値という観点では、後者の方が高い可能性がある。
ICP率を活用すると、マーケティング施策の評価が変わる。展示会、ウェビナー、SEO/GEO、広告、ホワイトペーパーなど、どの施策が多くのリードを獲得しているかだけでなく、どの施策がICPに該当するリードを獲得しているかを確認できる。件数が多くてもICP率が低い施策は、営業疲弊を生みやすい可能性がある。件数が少なくてもICP率が高い施策は、営業との連携を強化する価値がある。
また、ICP率は営業とマーケティングの共通言語になる。営業が「質が低い」と言い、マーケティングが「件数は出している」と言うだけでは議論は進まない。しかしICP率を使えば、質の問題を数値で確認できる。どの施策でICP率が低いのか、どのターゲットで受注率が高いのか、どのコンテンツがLTVの高い顧客を生み出しているのかを分析できる。
ただし、ICP率だけを高めればよいわけでもない。ICP率が高くてもリード件数が少なすぎれば、案件数不足になる。逆にリード件数が多くてもICP率が低ければ、営業が疲弊する。重要なのは、件数とICP率を両方見ながら、自社にとって適切なバランスを見つけることである。
ICP率は、営業とマーケティングの会議でも有効である。営業が感覚的に質が低いと指摘するのではなく、どの施策でICP率が低いのか、どのセグメントでは受注率が高いのかを確認できる。マーケティング側も、件数だけで成果を主張するのではなく、ICP率を根拠に施策の価値を説明できるようになる。
BBMによる改善
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リード件数を追いすぎることで営業が疲弊する問題を解決するには、量だけを追うマーケティングから、質と量のバランスを調整するマーケティングへ移行する必要がある。この考え方がBBM(Balance Based Marketing)である。BBMとは、営業とマーケティングが共通のICPを定義し、顧客やリードの質と量のバランスを見ながら施策の方向性を調整するBtoBマーケティング手法である。
BBMでは、リード件数を否定しない。一定のリード量がなければ商談も受注も生まれない。しかし、量だけを追えば営業は疲弊する。逆に質だけを追いすぎれば、案件数が不足し、売上目標に届かなくなる可能性がある。したがって、重要なのは質か量かを選ぶことではなく、自社の営業リソース、売上目標、市場環境に応じて最適なバランスを見極めることである。
具体的には、リード件数、ICP率、商談化率、受注率、受注単価、LTVを組み合わせて評価する。リード件数は多いがICP率が低い場合は、ターゲティングやコンテンツテーマを見直す必要がある。ICP率は高いが件数が少ない場合は、周辺市場や新たなチャネルを検討する必要がある。商談化率は高いが受注後のLTVが低い場合は、受注の質を再評価する必要がある。
BBMの特徴は、営業とマーケティングが同じ指標を見ながら議論できる点にある。営業が「もっと質の高いリードが欲しい」と言う場合、どの条件が不足しているのかを確認できる。マーケティングが「件数も必要だ」と考える場合も、必要な量と許容できるICP率の水準を営業と合意できる。感覚論ではなく、質と量の両面から施策を調整できるのである。
また、BBMは営業疲弊の防止にも役立つ。すべてのリードを営業へ渡すのではなく、ICP該当度や検討度に応じて、即時フォロー、ナーチャリング、対象外、長期育成に分ける。これにより、営業は追うべきリードに集中でき、マーケティングは単に件数を増やすのではなく、営業が成果を出しやすい状態を作れる。
まとめると、リード件数を追うこと自体は間違いではない。しかし件数だけを追うと、営業工数の増大、受注率の低下、営業とマーケティングの対立を招く可能性がある。重要なのは、何件獲得したかではなく、どの顧客を獲得したかである。ICP率を活用してリードの質を可視化し、BBMによって質と量のバランスを最適化することが、営業が疲弊しないマーケティング運営につながる。
リード件数を増やすことは、事業成長にとって重要である。しかし、件数の増加が営業の負担増だけで終わってしまえば、マーケティングの価値は社内で評価されにくくなる。BBMの目的は、営業に渡すリードを減らすことではなく、営業が追うべきリードを明確にし、必要な量も確保することである。質と量を同時に管理することが、営業とマーケティングの連携を強くする。
営業が疲弊する本当の原因を「営業対立4象限」で整理する
リード件数を増やしても成果につながらない企業では、営業がリードを追わない、マーケティングが営業に不満を持つといった対立が発生しやすい。
しかし、その原因は必ずしもリード件数の問題だけではない。営業の行動や意識に原因がある場合もあれば、KPI設計や部門間の連携ルールなど、組織的な問題が背景にある場合もある。
そこで活用したいのが「営業対立4象限」である。この4象限は、営業とマーケティングの連携課題が、戦略と実行のどちらで発生しているのか、また人と組織のどちらに原因があるのかを整理するための分析フレームである。

営業とマーケが連携できない要因を分析する「営業対立4象限」
営業が疲弊している原因や、リード件数を増やしても成果につながらない原因を構造的に整理し、改善の優先順位を検討する際に活用してほしい。
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