このコラムは、製造業・IT企業など技術系商材を扱うBtoBマーケティング担当者、特にMQLを運用しているにもかかわらず営業がフォローしてくれない、MQLから商談や受注につながらないという課題を抱える方に向けて作成している。
多くの企業はMAやスコアリングを導入しMQLを整備している。しかし営業が動かない原因はスコア設定だけではない。本コラムではMQLが機能しない構造的な原因を整理し、営業とマーケティングの認識差、ICPの重要性、BBM(Balance Based Marketing)による改善方法を解説する。
最後まで読むことで、なぜMQLが形骸化するのか、どのように営業との共通認識を作るのか、そしてMQLを売上につながる仕組みに変えるためのヒントを得られる。
MQLとは
MQL(Marketing Qualified Lead)とは、マーケティング活動によって獲得したリードのうち、営業へ引き渡す価値があると判断された見込み顧客である。一般的には資料ダウンロード、ウェビナー参加、サイト閲覧、問い合わせなどの行動に点数を付け、一定スコアを超えたリードをMQLとする。
しかし本来の目的はスコアを作ることではなく、営業が優先的にフォローすべき顧客を明確にすることである。多くの企業ではMQL導入後に件数は管理できるようになるが、商談化率や受注率が改善しない。これはMQLが制度として存在していても、営業が価値を認めていないためである。MQLは営業とマーケティングをつなぐ仕組みであり、両者の合意がなければ機能しない。
MQLが機能しない理由
MQLを導入したにもかかわらず営業が動かない企業は少なくない。その場合、多くの企業はスコアリング設定やMAツールの運用を疑う。しかし実際には、MQLが機能しない原因はツールではなく、MQLの考え方や運用方法にあるケースが多い。
最も大きな理由は、行動スコアと顧客価値が一致していないことである。
例えば、ある企業がホワイトペーパーを複数回ダウンロードし、製品ページを何度も閲覧していたとする。スコアリング上は高得点となり、MQLとして営業へ引き渡される可能性が高い。しかし、その企業が営業が重視するターゲット業界ではない場合や、受注後の取引規模が小さい場合、営業からすると優先的に追う価値は高くない。
一方で、閲覧回数や資料ダウンロード回数は少なくても、自社が重点的に獲得したい業界や企業規模に該当する企業であれば、営業にとっては価値の高いリードであることもある。
つまり、行動量だけを基準にMQLを判定すると、営業が本当に追いたいリードと、マーケティングが営業へ渡したいリードの間にズレが生まれてしまうのである。結果として、営業はMQLを“追うべき見込み顧客”ではなく、“マーケティングが作った数値上のリード”として認識するようになる。そして、MQLの優先順位は低下し、営業からフォローされなくなる。
第二に、マーケティング部門と営業部門で評価基準が異なることが挙げられる。
マーケティング部門はMQL件数やリード獲得件数を成果として評価されることが多い。そのため、できるだけ多くのMQLを創出しようと考える。一方で営業部門は、売上や受注が評価指標である。そのため、営業が知りたいのは「何件のMQLがあるか」ではなく、「どのリードが受注に近いか」である。
この評価軸の違いが大きくなるほど、マーケティングは「良いMQLを渡している」と考え、営業は「追う価値のあるリードが少ない」と感じるようになる。
第三に、MQLの定義が長期間見直されていないケースも多い。
MQLは一度決めたら終わりではない。市場環境や顧客ニーズ、自社の重点ターゲットは時間とともに変化する。しかし実際には、MA導入時に設定したスコアリングルールが何年もそのまま使われている企業も少なくない。
その結果、現在の営業戦略やターゲット市場と合わないMQLが大量に生成され、営業との認識差が徐々に大きくなっていく。
このように、MQLが機能しない原因はMAツールやスコアリング機能そのものではない。営業とマーケティングで「どのような顧客を追うべきか」が合意できていないこと、そしてMQLの定義や運用が実態に合わなくなっていることこそが、本当の原因なのである。
営業とマーケの認識差
営業は売上責任を負うため、受注確度や案件規模、LTVを重視する。一方マーケティングはリード獲得やMQL件数などを目標に持つことが多い。そのためマーケティングはスコアが高いリードを良いリードと考え、営業は受注しやすい企業を良いリードと考える。
このギャップがMQLを形骸化させる。営業とマーケで「質が悪い」「件数は出している」という議論が繰り返される企業は少なくない。本質的な問題はどちらかが間違っていることではなく、良い顧客の定義が共有されていないことである。共通基準がなければMQLの議論は感覚論になる。
ICPによる改善
改善の出発点はICPの定義である。ICP(Ideal Customer Profile)とは、自社との相性が良く、受注可能性が高く、受注後も高いLTVが期待できる理想顧客像である。MQLの前にICPが定義されていなければ、営業とマーケティングは別の方向を見続けることになる。まず営業とマーケティングで理想顧客を合意し、そのうえでMQL基準を設計するべきである。例えば同じ資料ダウンロードでも、ICP該当企業なら高く評価し、非該当なら評価を下げる。このように行動スコアに顧客適合度を加えることで営業の納得感が高まる。また失注分析や受注分析を定期的に行い、ICPやMQL定義を更新することも重要である。
BBMとの関係
BBM(Balance Based Marketing)とは、ICPを定義して部門間で合意し、リードや顧客の質と量のバランスを見ながら施策の方向性を調整する考え方である。MQLが機能しない企業の多くは、件数という量を重視しすぎる傾向がある。BBMではICPを基準にしながら、獲得したリードのうちICPに該当する割合であるICP率を確認する。MQL件数だけでなくICP率も見ることで、営業が追う価値のあるリードがどれだけ存在するかを把握できる。営業とマーケティングが同じ指標を見ながら議論できるため、MQLは単なる引き渡し制度ではなく売上に向けた共通言語になる。
まとめると、MQLが機能しない原因はスコアリング不足ではなく、ICP不在と部門間の認識差である。ICPを定義し、ICP率を活用し、BBMで質と量のバランスを管理することがMQLを成果につなげる鍵となる。
多くの企業ではMQLの運用ルールそのものに注目しがちである。しかし本質的には、営業とマーケティングが同じ顧客像を見ているかどうかが重要である。スコアリングを細かくするだけでは成果は改善しない。理想顧客への適合度と購買意欲の両方を評価し、継続的に見直す必要がある。










