このコラムは、技術系商材を扱う製造業・IT企業のBtoBマーケティング担当者、特に商談数は増えているにもかかわらず、受注率や売上、LTVが伸びないという課題を抱えるマーケティング部門・営業企画部門向けに作成している。
商談数をKPIにすると、マーケティング活動やインサイドセールス活動の成果は見えやすくなる。しかし、商談数の増加がそのまま受注増加につながるとは限らない。むしろ、商談化の基準が曖昧なまま件数だけを追うと、営業工数が増え、受注率が下がり、結果として売上貢献が見えにくくなることがある。本コラムでは、商談数偏重の問題を整理し、受注率やLTVを見据えて案件の質を評価する方法を解説する。
最後まで読むことで、商談数を増やすこと自体が目的化してしまう危険性、受注につながる商談とそうでない商談の違い、ICPやICP率を使って案件の質を見直す考え方、さらにBBM(Balance Based Marketing)によって営業とマーケティングが質と量のバランスを調整するヒントが得られる。
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商談数増加の落とし穴
BtoBマーケティングでは、商談数は非常に重要なKPIだ。リード件数だけでは売上への貢献が見えにくいため、マーケティング部門やインサイドセールス部門が、営業へ渡した商談数やアポイント数を成果指標にすることは自然な流れである。実際、商談数はリード件数よりも売上に近い指標であり、経営や営業にも説明しやすい。
しかし、商談数を増やすことが目的化すると、新たな問題が発生する。例えば、商談数は増えているのに受注数が増えない。受注が取れてもLTVが低い。商談は発生しているが、検討度が低い、予算がない、対象企業ではない。競合比較のための情報収集にすぎない。このような商談が増えると、見た目の活動量は増えても売上にはつながりにくい。
商談数増加の落とし穴は、商談という言葉が持つ曖昧さにある。初回面談、情報交換、課題ヒアリング、製品説明、見積依頼、稟議前の相談など、すべてを商談として数える企業もある。一方で営業から見ると、受注に向けた具体的な検討が始まっていなければ、本当の意味での商談とは言いにくい場合もある。この定義のズレが、商談数は増えているのに受注が増えないという現象を生む。
特に技術系商材を扱う企業では、商談化の前に確認すべき条件が多い。導入環境、技術要件、利用部門、予算、決裁者、既存システムとの連携、導入時期などが揃っていなければ、営業が提案しても前に進みにくい。にもかかわらず、アポイントが取れたことだけを商談として評価すると、営業は受注可能性の低い面談に多くの時間を使うことになる。
また、商談数を増やすことだけを目標にすると、マーケティング部門やインサイドセールス部門は「アポイントを取ること」に意識が向きやすくなる。顧客の課題を深く理解するよりも、営業へ渡せる件数を増やすことが優先されるためである。その結果、営業は初回商談で改めて顧客課題を聞き直すことになり、マーケティング活動で蓄積した情報が十分に活用されない。商談数KPIは有効だが、商談化の基準を曖昧にしたまま運用すると、部門間の分業が逆に非効率を生み出す。
受注率低下の理由
商談数が増えても受注率が下がる理由は、商談化の基準が緩くなっていることにある。商談数をKPIにすると、マーケティングやインサイドセールスは商談を作ることを優先しやすくなる。その結果、相手の課題が明確でない段階、予算が未確定の段階、小口案件の企業でも、営業へ引き渡されることがある。件数としては商談が増えるが、受注に至る確率は下がる。
第二に、営業が追うべき優先順位が曖昧になる。商談数が多くなるほど、営業はどの案件に時間を使うべきか判断しにくくなる。本来であれば、受注確度が高く、自社との相性が良く、受注後のLTVが高い案件を優先すべきである。しかし、商談数を増やすことだけが重視されると、重要度の高い案件と低い案件が同じように扱われる。結果として、営業の時間が分散し、受注確度の高い案件への対応が遅れる。
第三に、商談の入口で顧客課題を十分に確認できていないこともある。顧客が何に困っているのか、自社商材で解決できる課題なのか、競合と比較して勝てる理由があるのかを確認しないまま営業へ渡すと、営業は初回商談で課題の再確認から始めなければならない。これは営業工数を増やすだけでなく、提案精度の低下にもつながる。
第四に、短期成果を求めるあまり、商談の質よりスピードが重視されることである。問い合わせがあればすぐ営業へ渡す、セミナー参加者には全員アポイントを打診する、資料ダウンロード後に一律で架電する。このような運用は一見積極的に見えるが、顧客側の検討段階と合っていなければ、商談化しても受注にはつながりにくい。商談数を増やすほど受注率が下がる背景には、こうした商談化基準の粗さがある。
受注率低下を避けるには、商談数だけを成果として見るのではなく、商談の中身を評価する必要がある。どの商談が受注に近いのか、どの商談が将来的な価値を持つのか、どの商談が自社の強みと合っているのかを見極めなければならない。
受注率が下がっている場合は、営業力だけを問題にするべきではない。営業が扱っている案件の質、商談化のタイミング、引き渡し時の情報量、顧客との相性を合わせて確認する必要がある。商談数が増えているのに受注が増えない状況では、営業プロセスの後工程だけでなく、商談を作る前工程にも改善余地があると考えるべきである。
質の問題
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商談の質とは、単に今すぐ買う可能性があるかどうかだけではない。BtoBマーケティングにおける質の高い商談とは、受注可能性があり、受注後に一定以上のLTVが見込め、自社の商品・サービスで顧客課題を解決できる商談である。つまり、商談の質は「確度」「LTV」「相性」の3つで考える必要がある。
確度とは、商談が受注にどれだけ近いかである。課題が明確か、導入時期があるか、予算があるか、決裁者や関与部門が見えているか、競合状況が把握できているかなどが判断材料になる。確度が低い商談は、すぐに営業が深追いするよりも、ナーチャリングや情報提供によって育成する方が適している場合がある。
LTVとは、受注後にどれだけの継続的な価値が期待できるかである。初回受注金額が小さくても、保守契約、追加導入、他部署展開、グループ会社展開が見込める企業であれば、長期的な価値は高い。一方で、短期で受注できても単発で終わる案件ばかりでは、売上の安定や事業成長につながりにくい。商談の質を見るには、受注率だけでなく受注後の価値も見る必要がある。
相性とは、顧客課題と自社の強みが合っているかである。技術系商材では、この相性が特に重要である。顧客が求める機能、導入環境、技術要件、運用体制が自社商材と合っていなければ、商談は進みにくい。たとえ商談化しても、提案に時間がかかる、価格競争になる、失注する、受注後にトラブル化する可能性が高い。
商談数を増やしても受注が増えない企業では、この3つの観点で商談を評価できていないことが多い。商談数は増えたが、確度が低い。案件規模が小さい。自社との相性が悪い。このような商談が増えると、営業活動は忙しくなるが成果は伸びない。重要なのは、商談の数を増やすことではなく、営業が追う価値のある商談を増やすことである。
この考え方は、営業とマーケティングの会話を変える。営業が「商談の質が低い」と感じている場合でも、確度が低いのか、LTVが低いのか、相性が悪いのかを分けて話せば、改善策を具体化しやすい。マーケティング側も、単に商談数を増やすのではなく、どの条件を満たす商談を増やすべきかを施策に反映できる。
商談の質を考える上では、「受注したかどうか」だけでなく、「どのような受注だったのか」も重要である。
例えば、同じ1件の受注であっても、自社にとって価値は大きく異なる。
質の高い受注とは、受注後に高いLTV(顧客生涯価値)が期待できる顧客企業から獲得した受注である。継続取引や追加提案、他部署展開、グループ企業展開などの可能性があり、将来的に大きな売上や利益につながる特徴を持つ。一方で、このような顧客は市場全体の中では限られているため、受注件数そのものは多くなりにくい。
反対に、質の低い受注とは、高いLTVが期待できない顧客企業から獲得した受注である。短期的には売上になるものの、単発取引で終わるケースが多く、継続的な収益につながりにくい。ただし、対象企業が多いため受注件数は増やしやすい傾向がある。
もちろん、質の低い受注が悪いという意味ではない。現在の売上や利益を支える重要な案件であることも多い。しかし、営業リソースが限られている中で、どの顧客に時間を使い、どの市場を重点的に攻略するかを考える場合、質の高い受注と質の低い受注を区別して考える必要がある。
そのため、商談数や受注数だけを見るのではなく、「どのような顧客から受注できたのか」という視点を加えることが重要である。ICPやLTVの考え方は、まさにこの受注の質を評価するための基準となる。
ICP視点での改善
商談の質を改善するためには、ICPの視点が必要である。ICP(Ideal Customer Profile)とは、自社の商品やサービスとの相性が良く、受注可能性が高く、さらに受注後に高いLTVが期待できる理想的な顧客像のことである。商談数を評価する際にも、このICPにどれだけ合っているかを確認する必要がある。
例えば、同じ商談1件でも、ICPに該当する企業との商談と、対象外企業との商談では価値が異なる。ICPに該当する企業であれば、今すぐ受注しなくても中長期的に重要な商談になる可能性がある。一方で、ICPに該当しない企業との商談は、受注しても単価が低い、継続しない、サポート負荷が高いなどの問題が発生することがある。商談数だけを見ていると、この違いが見えない。
ICP視点で改善するには、まず営業とマーケティングで理想顧客像を合意する必要がある。どの業界を重視するのか、どの企業規模を狙うのか、どの課題を持つ企業と相性が良いのか、どのような案件は追わないのかを明確にする。そのうえで、商談化の条件にICP適合度を加える。
次に、商談化前のリード評価を見直す。資料ダウンロードやセミナー参加だけで商談化するのではなく、企業属性、課題、検討段階、導入可能性、LTV見込みを確認する。インサイドセールスがいる場合は、初回ヒアリングの結果とICPに該当するかどうかの条件を突合し、営業へ渡すべき商談と育成すべきリードを分ける。これにより、営業が追うべき商談に集中しやすくなる。
ICP視点を導入すると、商談化しない方がよいリードも明確になる。すべてのリードを営業へ渡すのではなく、現時点ではナーチャリングすべきリード、情報提供にとどめるべきリード、対象外として扱うべきリードを分けられる。結果として営業工数の浪費を防ぎ、受注可能性の高い商談に集中できる。
さらに、施策別にICP商談の割合を確認することも重要である。展示会、ウェビナー、広告、SEO/GEO、ホワイトペーパーなど、どの施策がICPに合う商談を生み出しているのかを比較する。商談数が多くてもICPに合う商談が少ない施策は、テーマや訴求、ターゲティングを見直すべきである。逆に件数は少なくてもICP商談の割合が高い施策は、営業連携を強化する価値がある。
BBMによる解決
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商談数を増やしても受注が増えない課題を解決するには、商談数という量だけでなく、商談の質も見ながら営業・マーケティング施策を調整する必要がある。この考え方がBBM(Balance Based Marketing)である。BBMとは、営業とマーケティングが共通のICPを定義し、顧客やリード、商談の質と量のバランスを見ながら施策の方向性を調整するBtoBマーケティング手法である。
BBMでは、商談数を否定しない。一定の商談数は売上を作るために必要である。しかし、商談数だけを追うと質が下がる可能性がある。逆に、質だけを追いすぎると商談数が不足し、売上目標に届かなくなる可能性がある。したがって、重要なのは質か量かを選ぶことではなく、現在の営業リソース、売上目標、市場環境に応じて最適なバランスを見極めることである。
実務では、まず商談をICP該当と非該当に分類する。次に、商談数、ICP商談数、ICP率、受注率、受注単価、LTVを組み合わせて確認する。例えば、商談数は多いがICP率が低い場合は、商談化基準が緩すぎる可能性がある。商談数は少ないがICP率と受注率が高い場合は、質は高いが量が不足している可能性がある。このように、BBMでは数値を組み合わせて施策の偏りを把握する。
例えば、商談件数が急増しているのに受注率が低下している場合、量に偏っている可能性が高い。一方で、受注率は高いが商談数が不足している場合は、質に偏りすぎている可能性がある。BBMでは、どちらか一方を正解とするのではなく、事業目標や営業リソースに合わせて、どのバランスが最も売上最大化につながるかを判断する。
また、BBMでは営業とマーケティングが同じ指標を見ながら議論する。営業が「商談の質が低い」と言う場合、どの条件が不足しているのかを確認する。確度が低いのか、LTVが低いのか、相性が悪いのかによって改善策は異なる。マーケティングは商談数を増やすだけでなく、どの商談を増やすべきかを明確にできる。
BBMによる解決のポイントは、商談を営業に渡した時点で終わりにしないことである。商談化後の受注率、失注理由、受注後のLTVをマーケティングに戻し、施策改善に反映する。どのコンテンツが質の高い商談につながったのか、どのチャネルが受注率の低い商談を生んでいるのかを分析することで、商談数と受注成果のズレを縮小できる。
まとめると、商談数を増やしても受注が増えない原因は、商談数そのものではなく、商談の質を評価できていないことにある。商談数をKPIにすることは重要だが、受注率やLTVを見ずに件数だけを追うと、営業工数が増えるだけで売上につながらない。ICPを定義し、ICP率を活用し、BBMで商談の質と量のバランスを調整することが、BtoBマーケティングを売上につなげるための重要な考え方である。
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