このコラムは、製造業・IT企業など技術系商材を扱うBtoBマーケティング担当者、営業企画担当者、マーケティング責任者向けに作成している。特に、ターゲット企業は決めているつもりだが、営業が追いたい企業とマーケティングが獲得しているリードが合わない、リード件数は増えているのに商談化率や受注率が伸びない、営業とマーケティングで顧客像の認識が合わないという課題を抱える企業を想定している。
本コラムでは、ターゲット企業が曖昧な状態とは何かを具体的に定義し、その状態が引き起こす7つの問題を整理する。その上で、一般ターゲットとICP(Ideal Customer Profile)を分けて考え、ICP率を可視化し、BBM(Balance Based Marketing)によってターゲット企業の質と量のバランスを運用する方法を解説する。
最後まで読むことで、自社のターゲット設定がなぜ営業活動やマーケティング施策に影響するのか、リードや顧客の質をどう定義すべきか、そして営業とマーケティングが同じ顧客像を見ながら施策を改善するための実務上のヒントが得られる。
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ターゲット企業が曖昧とはどういう状態か
ターゲット企業が曖昧とは、単に「ターゲットを決めていない」という状態だけを指すわけではない。むしろ多くの企業では、ターゲットを決めているつもりでありながら、営業とマーケティングが同じ判断をできるほど具体化されていない状態が問題になる。例えば「製造業向け」「大手企業向け」「DX推進部門向け」「情報システム部門向け」といった表現は、方向性としてはターゲットである。しかし、実務でリードを評価し、営業へ渡す条件としては粗すぎる場合が多い。
ターゲット企業が曖昧な状態には複数のパターンがある。第一に、ターゲットの粒度が粗い状態である。業界名や企業規模だけを定めていても、どの課題を持つ企業を狙うのか、どの用途に適しているのか、どの導入環境なら勝ちやすいのかが決まっていなければ、営業とマーケティングの判断は揃わない。技術系商材では、同じ製造業でも、組立加工、装置、部品、素材、食品、化学では課題も導入条件も異なる。
第二に、一般ターゲットとICPが分かれていない状態である。例えば製品Aの一般ターゲットを製造業と定めたとしても、その中で特に重点的に狙うべき企業がどこなのかを決めなければ、すべての製造業リードが同じ価値に見えてしまう。一般ターゲットは「狙える市場」であり、ICPは「特に重点的に狙うべき理想的な顧客像」である。この区別がないと、営業リソース配分が曖昧になる。
第三に、対象外条件が決まっていない状態である。狙う企業を決めることと同じくらい、狙わない企業を決めることも重要である。自社商材との相性が悪い企業、導入後のサポート負荷が高い企業、LTVが低くなりやすい企業、価格競争になりやすい企業を明確にしなければ、マーケティングは反応が取れる企業を広く集め、営業は判断に迷うことになる。
第四に、営業とマーケティングで解釈が違う状態である。マーケティングは「資料をダウンロードした製造業の担当者」をターゲットに近いリードと判断しても、営業は「この企業規模では導入後の広がりがない」「この課題では自社の強みが出にくい」と判断することがある。これは営業の協力不足ではなく、ターゲット企業の判断基準が共有されていないことが原因である。
つまり、ターゲット企業が曖昧な状態とは、営業とマーケティングが同じリードや顧客を見た時に、追うべきか、育成すべきか、対象外とするべきかを同じ基準で判断できない状態である。リード件数、商談数、受注数の前に、まず「どの企業を狙うのか」「どの企業を重点的に狙うのか」「どの企業は優先しないのか」を定義する必要がある。
ターゲット企業が曖昧な企業が陥る7つの問題
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ターゲット企業が曖昧な状態では、マーケティング施策も営業活動も非効率になる。ここでは、特にBtoB企業で起こりやすい7つの問題を整理する。これらは個別の問題に見えるが、根本には「どの企業を狙うべきか」が曖昧であることがある。
問題1:営業とマーケティングで質の高いリードの定義がズレる
ターゲット企業が曖昧な企業では、営業とマーケティングで質の高いリードの定義がズレやすい。営業は、受注に近いリード、課題が明確なリード、導入時期が近いリードを重視する。一方でマーケティングは、反応が取れるリード、資料ダウンロードやウェビナー参加などの行動があるリードを評価しやすい。
このズレがあると、マーケティングは成果を出しているつもりでも、営業は「追うべきリードが少ない」と感じる。営業は短期の売上責任を持ち、マーケティングは接点創出や母数形成を担っているため、見ている指標が違うのである。問題はどちらが正しいかではなく、ターゲット企業の条件が共通化されていないことである。
問題2:一般ターゲットとICPの違いが曖昧になる
ターゲット企業が曖昧な企業では、一般ターゲットとICPの違いが曖昧になりやすい。例えば、製造業をターゲットと定めている企業でも、その中で特に重点的に狙うべき企業が定義されていなければ、すべての製造業リードが同じ価値に見えてしまう。
一般ターゲットは、製品やサービスが狙える市場である。一方でICPは、その一般ターゲットの中でも、自社との相性が良く、受注可能性があり、受注後に高いLTVが期待できる重点ターゲットである。この違いが曖昧だと、営業はどのリードを優先すべきか判断できず、マーケティングもどの企業に向けて施策を設計すべきか分からなくなる。
問題3:リード件数は増えるがリードの質が安定しない
ターゲット企業が曖昧な状態で広告、SEO、展示会、ウェビナー、ホワイトペーパー施策を実施すると、反応が取れても、質の高いリードの割合が安定しにくい。リード件数は増えても、その所属企業が自社の一般ターゲットなのか、ICPに該当するのか、将来ICP候補なのかが判断できなければ、営業価値は見えない。
特に技術系商材では、企業属性だけでなく、用途、導入環境、既存設備、技術課題まで合っていなければ案件化しにくい。ターゲットが曖昧なまま件数を増やすと、営業が追う価値のあるリードと、情報収集段階のリード、対象外リードが混在する。結果として、リード件数は増えてもリードの質は安定しない。
問題4:商談化率と受注率が下がる
ターゲット企業が曖昧だと、商談化の基準も曖昧になる。資料請求やセミナー参加をきっかけに営業へ渡しても、所属企業の課題、予算、導入時期、自社との相性が合っていなければ、営業活動は前に進みにくい。商談数は増えても、受注につながる商談が増えているとは限らない。
この場合、受注率低下を営業力だけで説明するのは危険である。前工程であるターゲット定義が曖昧なため、営業が勝ちにくいリードや案件が増えている可能性がある。ターゲット企業が明確でなければ、営業は受注可能性の低い案件に時間を使い、本来集中すべき案件への対応が遅れる。
問題5:営業リソースが浪費される
ターゲット企業が曖昧な企業では、営業リソースが浪費されやすい。営業はすべてのリードを等しく追うことはできない。人手不足の時代において、営業が対応できる企業数や商談数には限界がある。にもかかわらず、どのリードを優先すべきかが決まっていなければ、営業は大量のリードの中から手探りで追うべき相手を探さなければならない。
特に重要なのは、ICP該当、将来ICP候補、一般顧客を分けることである。将来ICP候補とは、現時点ではICP非該当でも、将来ICPになる可能性がある企業である。例えば、大手企業だが今回の取引が小口である場合や、小口の取引でも成果創出を実現できれば今後大きな取引が期待できる新規用途案件の場合が該当する。こうした企業は長期的に育成する価値がある。一方、将来的にもICPになりにくい企業を手厚く追い続けると、営業リソースは不足する。
問題6:マーケティング施策の評価と改善ができなくなる
ターゲット企業が曖昧だと、マーケティング施策の評価も曖昧になる。展示会で名刺が多く集まった、広告でCVが増えた、GEO対策でCVが増えたとしても、それがICP該当リードなのか、一般ターゲットなのか、将来ICP候補なのかが分からなければ、施策の良し悪しを判断できない。
この状態では、施策改善が「件数が多かったかどうか」だけになりやすい。件数を増やした施策が評価され、件数は少ないがICP率の高い施策が軽視される可能性がある。結果として、マーケティングは量を作りやすい施策に偏り、営業が求める質に近づかない。ターゲット企業が曖昧なままでは、質の改善ができないのである。
問題7:事業利益が最大化しない
ターゲット企業が曖昧な状態の最も大きな問題は、事業利益が最大化しないことである。BtoB企業では、大口案件で利益を得ながら、小口案件で売上を安定させることが重要になる。しかし、どの企業が大口化しやすいのか、どの企業が小口で終わりやすいのか、どの企業が将来ICP候補なのかが見えていなければ、顧客構成を最適化できない。
ICP率を高めすぎればABMに近づき、案件不足になりやすい。逆にICP率が低すぎればLBMに近づき、営業が疲弊しやすい。ターゲット企業が曖昧な企業は、利益が最大化するICP率と件数のバランスを見つけにくい。ターゲット定義の曖昧さは、単なるマーケティング課題ではなく、利益構造に影響する課題である。
ICPを定義する方法
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ICPを定義する際は、まず過去の優良顧客を分析する。受注金額が大きい顧客だけでなく、継続取引がある顧客、追加提案につながった顧客、他部署展開やグループ企業展開ができた顧客を確認する。短期売上だけでなく、LTVの観点で優良顧客を見直す必要がある。
次に、失注顧客や低LTV顧客も分析する。受注したが継続しなかった顧客、要件が合わずトラブル化した顧客、価格競争になりやすかった顧客、営業工数が大きい割に利益が小さかった顧客を確認する。狙うべき企業だけでなく、狙わない企業を明確にすることがICP定義では重要である。
その上で、確度条件、相性条件、LTV条件を整理する。確度条件は受注にどれだけ近いか、相性条件は顧客課題と自社の強みがどれだけ合っているか、LTV条件は受注後のLTVポテンシャルがあるかである。この3条件を営業とマーケティングで合意し、一般ターゲット、ICP該当、将来ICP候補、一般顧客に分類できる状態を作る。
ICP率でターゲット精度を可視化する
ICPを定義したら、次にICP率を測定する。ICP率とは、獲得したリード、案件、顧客のうち、ICPに該当する割合を示す指標である。リード獲得・育成段階ではリードICP率(獲得したリードのうちICPに該当するリードの割合)、案件・商談化段階では案件ICP率(獲得した案件のうちICPに該当する案件の割合)、受注後は顧客ICP率(獲得した受注のうちICPに該当する顧客の割合)を測定する。
リード件数だけでは、ターゲット精度は見えない。100件のリードがあってもICP該当が10件ならリードICP率は10%である。一方、50件のリードでもICP該当が30件ならリードICP率は60%である。件数だけでなくICP率を見ることで、どの施策がターゲットに合うリードを獲得できているのかを判断できる。
BBMでターゲット企業の質と量のバランスを可視化する
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ターゲット企業が曖昧な問題を解消する選択肢の一つがBBMである。BBM(Balance Based Marketing)とは、顧客やリードの質と量のバランスを重視するBtoBマーケティング手法である。ABMとLBMの中間に位置し、件数とICP率を重要KPIとして、リード・案件・顧客の質と量を管理する。
BBMでいう質とはICP該当であり、量とはICP非該当である。ただし、ICP非該当は悪いという意味ではない。ICP非該当の中には、将来ICPになる可能性がある企業もある。BBMでは、ICP該当、将来ICP候補、一般顧客を見分けながら、営業リソースとマーケティング施策の配分を調整する。
BBMはICP率を最大化する手法ではない。ICP率が100%に近づけばABMに近づき、案件不足になりやすい。逆にICP率が低すぎればLBMに近づき、営業が疲弊しやすい。BBMの狙いは、利益が最大化するICP率と件数のバランスを探すことである。ターゲット企業を明確にし、ICP率を可視化し、質と量のバランスを運用することで、営業とマーケティングは同じ顧客像に向かって活動できるようになる。
重要なのは、一般ターゲットとICPを分け、営業とマーケティングで合意し、ICP率を継続的に管理することである。BBMは、ターゲット企業の質と量のバランスを運用し、利益最大化を目指すための有効なBtoBマーケティング手法の一つである。
まとめ
ターゲット企業が曖昧な状態では、リード獲得、商談創出、営業活動、施策改善、事業利益のすべてに悪影響が出る。単に「製造業向け」「大手企業向け」といった粗いターゲット設定では、営業とマーケティングが同じ基準でリードや顧客を判断することは難しい。
重要なのは、一般ターゲットとICPを分け、営業とマーケティングで合意し、ICP率を継続的に管理することである。ぜひ御社でもICPを定義し、ICP率の可視化にチャレンジして質と量のバランスを管理してみてほしい。
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