IT企業やSIerでマーケティングに取り組んでいるものの、「リードは増えたが商談につながらない」「技術力や開発力をうまく訴求できない」「営業や技術部門の協力を得にくい」と悩む担当者は多い。
本記事では、IT企業(SIer)のマーケティング担当者に向けて、製品・ソリューションを顧客価値へ変換し、重点顧客の設定から営業連携、具体的な施策までを一貫して設計する方法を解説する。
BtoBマーケティング戦略の方向性が決まらない、計画に落とし込めない企業向けの実践資料です。ターゲット、顧客価値、競争優位を整理し、社内で合意形成しながら戦略を具体化する方法を解説しています。戦略整理Excelシート付き。

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IT企業(SIer)のマーケティング戦略は「顧客価値の変換」から始める
IT企業(SIer)のマーケティングで成果を出すには、「高い技術力や開発力がある」「豊富な機能」「豊富な導入実績がある」「伴走力が高い」と伝えるだけでは不十分だ。
顧客が知りたいのは、技術そのものの優秀さだけではない。その技術やサービスを導入することで、自社の業務や経営課題がどう変わるのかまで判断したいからである。
さらに、IT企業の商談では、顧客ごとに要件や既存環境が異なることが多い。Webでリードを獲得すれば、そのまま同じ営業プロセスで受注まで進められるわけでもない。情報システム部門、ユーザー部門、経営層など複数の関係者が検討に参加し、それぞれ異なる視点から導入の妥当性を確認する。
そのため、IT企業のマーケティングでは、個別の施策を増やす前に次の2点を整理したい。
- 部分最適な施策から全体最適の戦略へ展開する
- スペック偏重や機能偏重を脱却し、導入価値を整理する
誰に、どのような価値を、どのような流れで伝えて受注につなげるのか。この軸を定めてから、Web、展示会、セミナー、ホワイトペーパーなどの施策へ落とし込むことが重要になる。
部分最適な施策から全体最適の戦略へ展開する
IT企業のマーケティング担当者は、「Webサイトでソリューションページを公開した」「ホワイトペーパーを増やした」「SEO記事を増やした」「ウェビナーを始めた」「GEO対策ページを強化した」といった施策を推進する。もちろん、いずれも有効な施策になり得る。しかし、それぞれを個別に改善しているだけでは、成果が伸び悩むケースも少なくない。
例えば、Webサイトでは幅広い企業へ訴求し、展示会では特定業界向けのメッセージを掲げ、セミナーでは別の課題をテーマにしているとしよう。それぞれの施策だけを見れば問題がなくても、獲得する顧客像や伝える価値に一貫性がなければ、マーケティング全体としてはつながらない。
さらに施策を増やすほど担当者の業務量も増える。企画、コンテンツ作成、社内調整、効果測定に追われる一方、「結局、何が受注に効いているのかわからない」という状態にもなりやすい。
この状況を避けるには、施策から考えるのではなく、先にマーケティング戦略を整理する必要がある。具体的には、「どのような企業を重点的に狙うのか」「どのような課題に対して自社の強みが生きるのか」「競合や代替手段と比べてなぜ選ばれるのか」を明確にする。
そのうえで、Webサイト、広告、展示会、セミナー、営業活動などで伝えるメッセージをそろえる。個々の施策を強くするだけでなく、すべてを同じ方向へ動かすことが全体最適につながるというわけだ。
スペック偏重を脱却し導入価値を整理する
IT企業のWebサイトや営業資料では、「高い技術力」「豊富な実績」「柔軟な対応力」「幅広いソリューション」といった表現がよく使われる。
これらは自社の強みを伝えるうえで必要な情報ではあるものの、それだけでは顧客が自社を選ぶ理由になりにくい。なぜなら、競合企業も同じような言葉を使えるからだ。
例えば、「高度なデータ分析基盤を構築できる」という技術的な強みがあったとする。しかし、顧客が知りたいのは、その技術によって自社にどのような変化が起きるのかである。
分析業務の時間を短縮できるのか。部門ごとに分断されたデータを統合できるのか。経営判断を早められるのか。担当者への依存を減らせるのか。技術や機能を、こうした顧客側の成果まで変換して初めて「価値」になる。
導入価値を整理するときは、製品やソリューションの特徴ごとに、「その特徴によって顧客の業務、コスト、売上、リスクがどう変化するのか」を考えるとよい。技術力を隠す必要はない。むしろ、高度な技術を持つ企業ほど、その技術が顧客にどのような意味を持つのかまで説明できれば、競合との差を伝えやすくなる。
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IT企業(SIer)のマーケティングが失敗しやすい理由
IT企業(SIer)のマーケティングが難しい背景には、単に施策の運用ノウハウが不足しているという問題だけではなく、商材や購買プロセスそのものの複雑さがある。
特に起きやすいのが、次の5つだ。
- 購買関与者が多く合意形成が進まない
- 検討から購買までの期間が長期化する
- リード獲得と受注がつながっていない
- 自社の強みと戦略の方向性にズレが生じる
- 施策が増えすぎて優先順位を決められない
これらは互いに独立した問題ではない。
顧客理解が不足すると、自社の価値や重点顧客が曖昧になる。すると施策のターゲットがぼやけ、質の低いリードが増える。営業との認識もずれ、さらに新しい施策を追加する。という具合に、問題が連鎖することもあるだろう。
だからこそ、個別施策の改善だけではなく、どこに構造的な問題があるのかを見極めなければならない。
購買関与者が多く合意形成が進まない
ITシステムやソリューションの導入では、一人の担当者だけで購買判断が完結することは少ない。情報システム部門、実際にシステムを利用するユーザー部門、購買部門、経営層など、複数の関係者が意思決定に参加する。しかも、それぞれが重視する内容は異なる。
情報システム部門であれば、セキュリティ、既存システムとの連携、保守・運用性、移行時の負荷などが重要になる。ユーザー部門は、操作性や業務効率、現場への負担を気にするだろう。経営層であれば、投資対効果や経営課題への貢献、導入リスクなどが判断材料になる。
そのため、最初に接点を持った担当者が自社サービスを高く評価していても、他部門の懸念によって検討が止まることが少なくない。つまり、ここでマーケティングが果たすべき役割は、最初に接点を持った担当者だけを説得することではない。
その担当者が社内で説明するときに使える資料を用意し、情報システム部門、ユーザー部門、経営層など、各関係者が必要とする判断材料を提供することが重要だ。このように、顧客企業の中で合意形成が進む状態を作ることまで、マーケティングの範囲として考える必要がある。
検討から購買までの期間が長期化する
IT企業の商材では、最初の接点から受注まで数か月、場合によっては1年以上かかることもある。
要件整理、予算確保、複数ベンダーの比較、セキュリティ審査、社内稟議など、多くの確認工程が発生するためだ。年度予算や既存システムの更新時期によっては、導入したくてもすぐに動けないケースもあるだろう。
こうした商材で、資料請求や展示会参加の直後だけ営業フォローを行い、反応がなければ終了してしまうのはもったいない。今すぐ商談にならないからといって、ニーズがないとは限らないからだ。
例えば、現在は情報収集段階でも、半年後に予算化を予定しているかもしれない。既存システムの契約更新を機に、具体的な比較検討が始まる可能性もある。したがって、検討期間が長い商材ほど、顧客の段階に合わせた継続的な情報提供が必要になる。
また、マーケティングの成果を短期間の問い合わせ件数だけで評価するのも避けたい。どの施策から商談が生まれ、最終的に受注へつながったのかまで、中長期で確認することが重要だからである。
リード獲得と受注がつながっていない
展示会で多くの名刺を獲得した。Webサイトから資料請求が増えた。セミナーにも多くの人が参加した。それにもかかわらず、商談数や受注額が伸びない企業は少なくない。この場合、問題はリード獲得数ではなく、その後のプロセスにある可能性が高い。
例えば、展示会、Webサイト、セミナー、メールがそれぞれ別々に運用され、獲得した顧客に次に何を提供するか決まっていない。営業へ渡す条件も曖昧で、営業担当者ごとに対応の優先順位が異なる。こうした状態では、せっかく獲得したリードを十分に活かせない。
リード獲得から受注までの流れを可視化し、各段階で「顧客はどのような状態か」「マーケティングは何をするか」「どのような情報を提供するか」「営業へいつ引き継ぐか」を整理する必要がある。
評価指標も同様だ。リード数だけで終わらせず、営業が対応すべき見込み客が何件あったのか、そのうち何件が商談になり、最終的にどの程度受注へつながったのかまで確認したい。
自社の強みと戦略の方向性にズレが生じる
マーケティング戦略を考えるとき、自社の強みを社内だけで決めてしまう企業がある。しかし、社内で評価している技術と、顧客が実際に価値を感じているポイントが一致するとは限らない。
例えば、開発部門は高度な技術や独自機能を強みだと考えていても、顧客は「既存システムを大きく変更せず導入できたこと」や「業界固有の業務を理解した提案」を評価しているかもしれない。
営業担当者が把握している受注理由や失注理由がマーケティングへ共有されていなければ、こうした違いには気づきにくい。そのまま戦略を立てると、自社が伝えたい強みと顧客が求めている価値にズレが生まれる。
さらに、対応できる業種やサービスを広く見せようとするほど、「何に強い会社なのか」が伝わりにくくなる場合もある。自社の強みを整理するときは、技術やサービスの棚卸しだけでなく、過去の受注実績、顧客から評価されたポイント、失注理由なども確認することが重要だ。
「自社が強いと思っているもの」ではなく、「特定の顧客から選ばれている理由」を戦略の軸にしよう。
施策が増えすぎて優先順位を決められない
Webサイト、SEO、広告、ホワイトペーパー、展示会、ウェビナー、メール、スコアリング。マーケティングで活用できる手法は多く、情報を集めるほど「どれも必要」に見えてくる。しかし、限られた人員や予算ですべてを高い品質で実行するのは難しい。
他社の成功事例を見て新しい施策を追加したものの、既存施策の改善まで手が回らない。コンテンツの更新が滞り、効果測定も十分にできない。このような状態になると、担当者の努力量は増えているのに成果は伸びにくいというジレンマに悩まされる。
こうした事態に陥らないためには、優先順位を決める際に「その施策が受注プロセスのどの問題を改善するのか」を明確にする必要がある。
リードが不足しているなら獲得施策を検討する。リードはあるが商談化しないなら、育成や営業への引き渡し条件を見直す。そもそも重点顧客や自社の価値が曖昧なら、SEOや広告を増やすより先に戦略を構築すべきだろう。
さらに短期間で改善できる課題と、中長期で取り組むべき課題を分けることも大切だ。「新しく何を始めるか」だけでなく、「今は何をやらないか」まで決める。それが、限られたリソースを有効活用するうえで欠かせない。
IT企業(SIer)のマーケティング戦略を立てるステップ
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IT企業(SIer)のマーケティング戦略は、施策の選定から始めるものではない。
具体的には、次の5つのステップで進める。
- 顧客と市場に関する情報を整理する
- 業種や用途別の重点顧客を明確にする
- 製品・ソリューションを顧客価値に翻訳する
- 競合と比較した選ばれる理由を整理する
- 購買関与者ごとのシナリオを設計する
顧客理解が曖昧なまま自社の価値を決めても、独りよがりな訴求になりやすい。重点顧客を決めずにコンテンツを作れば、誰に向けた情報なのかわからなくなる。
上記の手順を上流から順に整理することで、あらゆる施策にも一貫性を持たせやすくなる。
①顧客と市場に関する情報を整理する
戦略を立てる前に、まず顧客と市場について「わかっていること」と「わかっていないこと」を整理する。特に重要なのは、顧客が何をきっかけに検討を始め、なぜ自社を選んだのか、あるいはなぜ選ばなかったのかという事実だ。
営業担当者へのヒアリングや商談記録からは、顧客が抱えていた課題、問い合わせのきっかけ、比較された競合、受注・失注理由などを収集できる。
既存顧客へのインタビューも有効だ。「導入前に何に困っていたのか」「なぜこのタイミングで検討したのか」「他社と比較したとき何を評価したのか」「導入後に何が変わったのか」まで確認すれば、Webのアクセス数だけでは得られない情報が見えてくる。
このとき、事実と推測を分けておきたい。例えば、「この業界はセキュリティを重視するはず」という担当者の認識は仮説である。一方、「直近10件の商談のうち7件でセキュリティ要件について質問された」は事実だ。両者を混ぜずに整理すれば、追加で何を調べるべきかも明確になる。
②業種や用途別の重点顧客を明確にする
顧客情報を整理したら、次に重点的に狙う顧客を決める。IT企業やSIerでは、対応可能な業種や課題が複数あるケースも多い。しかし、すべてを同じ優先度で狙うと、マーケティング資源が分散する。
まず、業種、企業規模、用途、課題などの軸で市場を細分化しよう。そのうえで、過去の受注実績、利益率、商談期間、自社の技術的な優位性などを基に、それぞれの市場を評価する。
例えば、同じ業務システムであっても、「大企業向け」と「中堅企業向け」では必要な機能や提案方法が異なるかもしれない。同じ製造業向けでも、生産管理と品質管理では、課題も購買関与者も変わる。
対象市場を細かく見ることで、自社が成果を出しやすい顧客層が見えてくる。さらに、その顧客が現在利用しているシステム、既存ベンダー、内製などの代替手段も確認しておく。最終的には、「どのような顧客の、どのような課題に強い会社なのか」を簡潔に説明できる状態を目指したい。
重点顧客を決めることは、その他の顧客を完全に断ることではない。限られたマーケティング資源を、成果が出る可能性の高い領域へ優先的に投入するための判断である。
重点顧客を決める時は、「ターゲティング4象限」を活用してほしい。
③製品・ソリューションを顧客価値に翻訳する
重点顧客を決めたら、自社の製品やソリューションを顧客が得られる価値へ変換する。ここで、「機能」と「価値」を混同しないことが重要だ。
例えば、「クラウド環境に対応している」「API連携が可能」「AIを活用している」といった内容は機能や特徴である。顧客が知りたいのは、それによって何が改善されるのかだ。
API連携によって二重入力がなくなるのであれば、入力工数やミスの削減が価値になる。AIによって問い合わせ内容を自動分類できるのであれば、担当者の処理時間短縮や対応品質の安定化が価値になるだろう。
顧客価値を考える際は、「価値定義4象限」を活用すると良い。
④競合と比較した選ばれる理由を整理する
自社の価値を整理したら、次は「なぜ他社ではなく自社なのか」を明確にする。ここで比較対象になるのは、直接の競合企業だけではない。既存ベンダーとの契約を継続する、内製化する、現行システムをそのまま使い続ける、導入自体を延期する、といった選択肢も競合になる。
顧客が実際に何と比較しているのかを整理し、その際の評価軸を洗い出そう。
例えば、次のような観点が考えられる。
- 機能
- 価格
- 導入実績
- 専門性
- 業界理解
- カスタマイズへの対応力
- 導入後のサポート
- 既存システムとの連携
- 導入までの期間
重要なのは、すべての評価軸で競合を上回ろうとしないことだ。
価格では負けるが、特定業界への知見や既存環境への対応力では強い。標準機能の多さでは劣るものの、顧客固有の業務に合わせた設計ができる。このような「特定の条件で選ばれる理由」を明確にする。すべての企業から選ばれる会社を目指すのではなく、自社の強みが最も有効に働く市場を選ぶことがポジショニングである。
「誰に・何を・どう勝つか」を体系的に整理するときは、BtoBマーケティングの戦略設計を整理する4象限フレームなどを活用するのがおすすめだ。
⑤購買関与者ごとのシナリオを設計する
重点顧客と提供価値、競合との差が明確になったら、購買関与者ごとの情報提供シナリオを設計する。
IT企業の商材では、情報システム部門、ユーザー部門、経営層など、複数の関係者が購買に関与する。しかも、それぞれが重視するポイントは異なる。代表的な判断基準を整理すると、以下のようになる。
| 購買関与者 | 主な関心・判断基準 |
|---|---|
| 情報システム部門 | セキュリティ、既存システムとの連携、運用・保守性、導入時の負荷 |
| ユーザー部門 | 操作性、業務効率化、現場の負担、既存業務との適合性 |
| 経営層 | 投資対効果、売上・利益への貢献、経営課題の解決、導入リスク |
このように、同じ製品・ソリューションを検討していても、関与する部門によって知りたい情報は異なる。そのため、一つの製品資料ですべての関係者を説得しようとするのではなく、それぞれの疑問や判断基準に合わせて情報を用意する必要がある。
例えば、課題認識の段階では、ユーザー部門向けに業務課題や改善方法を解説する。比較検討では、情報システム部門向けにセキュリティや連携方法を詳しく説明する。社内稟議では、経営層向けに費用対効果や導入リスクを整理した資料を提供する。
こうした情報があれば、最初に接点を持った担当者も、社内の別部門へ説明しやすくなる。
IT企業(SIer)のマーケティングを推進するためのポイント
BtoBマーケティング戦略の方向性が決まらない、計画に落とし込めない企業向けの実践資料です。ターゲット、顧客価値、競争優位を整理し、社内で合意形成しながら戦略を具体化する方法を解説しています。戦略整理Excelシート付き。

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戦略を作っても、マーケティング部門だけで実行しようとすると行き詰まりやすい。顧客の課題や商談の実態は営業が持っており、技術的な専門知識はエンジニアや技術部門に蓄積されているからだ。
そのため、IT企業のマーケティングを組織として推進するには次の5点を意識したい。
- マーケティングと営業の役割分担を明確にする
- 共通言語と共通KPIを設定する
- 小さく営業を巻き込み成功体験を共有する
- 営業情報をマーケティング施策へ還元する
- 社内技術者の知見を活用するため事前に協力体制を作る
重要なのは、営業や技術部門へ「協力してほしい」と依頼するだけではなく、各部門にとってもメリットのある仕組みにすることだ。
マーケティングと営業の役割分担を明確にする
IT企業では、顧客ごとに要件や課題が異なるため、マーケティングと営業の境界が曖昧になりやすい。マーケティングがどこまで顧客とコミュニケーションを取り、どの段階から営業が個別対応するのかを決めておかなければ、リードの放置や早すぎる営業接触が起きるだろう。
例えば、一般的な課題解説、導入事例、製品選定のポイントなどは、Webサイトやメールを通じてマーケティングが提供しやすい。
一方、顧客固有の業務要件、既存システムとの連携、具体的な費用、導入スケジュールなどは、営業や技術担当者による個別確認が必要になる。
そのため、「どのような状態になれば営業へ引き渡すのか」を両部門で合意しておこう。判断条件としては、例えば次のような項目が考えられる。
- 自社が重点的に狙う業種・企業規模に当てはまる
- 解決したい課題がある程度わかっている
- 自社のソリューションで対応できる可能性がある
- 導入時期や検討背景が見えている
- 個別相談、見積もり、技術確認などを求めている
- 導入の意思決定権者との接点が作れている
すべてを満たす必要はない。重要なのは、マーケティングと営業が同じ基準で顧客の状態を判断できることである。加えて、営業へ引き渡した後の対応期限や、商談にならなかった顧客を誰がどのようにフォローするかも決めておく。
共通言語と共通KPIを設定する
役割分担と合わせて、マーケティングと営業が使う言葉や判断基準も統一しておきたい。例えば、「リード」「有望な見込み客」「商談」「案件」といった言葉は、一見すると共通しているようで、部門ごとに認識が異なることがある。
マーケティング担当者が「有望」と判断していても、営業から見るとまだ情報収集段階かもしれない。反対に、Web上の行動は少なくても、営業が把握している情報では具体的な案件が動いている場合もある。
そこで、顧客の状態を具体的に定義する。「課題が確認できている」「導入時期が決まっている」「予算化を進めている」「個別提案が必要な状態」といった具合に、誰が見ても判断できる条件へ落とし込むことが大切だ。
KPIも、部門ごとに完全に分断しないようにしたい。マーケティングはリード数だけ、営業は受注額だけを追っていると、両者の中間にある問題が見えなくなる。リード獲得数、営業への引き渡し数、営業対応率、商談化率、案件化率、受注率など、受注までの流れをつなげて確認する。
そうすれば、「そもそも対象顧客が少ないのか」「営業への引き渡し条件に問題があるのか」「商談後に失注しているのか」を切り分けやすくなる。
小さく営業を巻き込み成功体験を共有する
マーケティングと営業の連携を強化したいからといって、最初から営業部門全体を巻き込もうとする必要はない。むしろ、協力的な営業担当者や特定の営業チームと、小規模に始めたほうが進みやすい。
例えば、一つの業界、一つのソリューションに対象を絞り、営業が実際に商談で聞かれる質問を基にコンテンツを作る。そのコンテンツを既存リードへ提供し、反応があった顧客を営業がフォローする。この程度の規模であれば、短期間で結果を確認しやすい。
成果を共有するときも、リード数だけを見せるのではなく、「○件が商談につながった」「営業が狙っていた業界から問い合わせがあった」「既存案件の提案にコンテンツを利用できた」など、営業にとって意味のある成果を示したい。
うまくいった場合は、営業とマーケティングで成功要因を振り返る。何が顧客に刺さったのか。どの情報が商談を進めるうえで役立ったのか。改善すべき点は何か。こうした成功体験を積み上げることで、「マーケティングはリードを渡してくる部門」ではなく、「営業成果を一緒に作る部門」として理解されやすくなる。
営業情報をマーケティング施策へ還元する
IT企業のマーケティングにおいて、営業が日々の商談で得ている情報は非常に価値が高い。顧客が何に困っているのか、どの競合と比較しているのか、どの点を不安に感じているのか、なぜ失注したのか。これらは、Webアクセスのデータだけでは把握できない。
得られた情報は、ターゲットや訴求の見直しだけでなく、コンテンツ企画にも使える。例えば、営業が毎回「既存システムとの連携方法」を説明しているなら、その内容をWebページやホワイトペーパーにする。顧客からセキュリティについて同じ質問を何度も受けているのであれば、FAQや技術資料として整理するといった具合だ。
営業が繰り返し説明している内容をマーケティングがコンテンツ化すれば、顧客は商談前に疑問を解消できるようになり、営業の説明負担も軽減できるだろう。
営業情報を施策へ還元し、その施策から得た反応を再び営業へ戻す。この循環を作ることで、顧客理解の精度も高まっていく。
社内技術者の知見を活用するため事前に協力体制を作る
IT企業が専門性の高いマーケティングコンテンツを作るには、エンジニアや技術者の協力が欠かせない。マーケティング担当者だけでは、設計上の工夫、技術的な課題、導入時の注意点、セキュリティや連携上の論点などを十分に掘り下げられないからだ。技術者の知見を活用できれば、一般論ではなく、自社が実際の案件を通じて蓄積してきたノウハウを発信できる。
ただし、施策のたびに「記事を書いてください」「資料を確認してください」と依頼していると、技術部門の負担が大きくなり、協力を得にくくなる。そこで、あらかじめ役割分担を決めておきたい。
例えば、マーケティング担当者が30分程度ヒアリングし、その内容を記事や資料として編集する。技術者には、最終的な内容確認だけをお願いする。この方法なら、技術者自身が原稿を書く必要はない。
月1回の情報共有会を設け、最近の案件で多かった質問や、顧客が困っていた技術課題を聞く方法もある。重要なのは、技術者の時間をできるだけ奪わず、その知見を継続的に活用できる仕組みにすることだ。
IT企業(SIer)が実践すべき具体的なマーケティング施策
BtoBマーケティング戦略の方向性が決まらない、計画に落とし込めない企業向けの実践資料です。ターゲット、顧客価値、競争優位を整理し、社内で合意形成しながら戦略を具体化する方法を解説しています。戦略整理Excelシート付き。

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IT企業(SIer)のマーケティング施策では、単に多くのリードを獲得するだけでなく、顧客企業内の比較検討や合意形成を進めることが重要になる。 特に活用しやすいのは、次のような施策だ。
- 技術的課題と解決方法を示す導入事例
- 関与者の疑問を先回りするホワイトペーパー
- 顧客の購買意思決定を支援するコンテンツ
- 質と量のバランスを意識したリード獲得
技術的課題と解決方法を示す導入事例
IT企業の導入事例では、「お客様に喜んでいただきました」という感想だけで終わらせず、導入前にどのような技術的課題があり、それをどう解決したのかまで伝えたい。
顧客が導入事例を見る目的は、自社と似た状況でも導入できるのかを判断するためだからだ。
例えば、次のような内容を盛り込む。
- 既存システムにどのような制約があったのか
- 性能や運用面で何が問題になっていたのか
- どのようなセキュリティ要件があったのか
- なぜその技術や構成を採用したのか
- 開発や移行時にどのような工夫をしたのか
- 導入後にどのような変化が生まれたのか
もちろん、顧客情報や技術情報をすべて公開できるわけではない。公開可能な範囲で構わないので、「何が難しかったのか」と「どう乗り越えたのか」を具体的にする。
単なる実績紹介ではなく、自社の問題解決力を伝えるコンテンツにすることがポイントだ。
関与者の疑問を先回りするホワイトペーパー
ホワイトペーパーは、単にリードを獲得するためのダウンロード資料ではない。IT企業では、顧客の検討段階や購買関与者に合わせてテーマを設計することで、比較検討や社内合意形成を支援できる。
例えば、情報システム部門向けには、次のようなテーマが考えられる。
- セキュリティ要件の整理方法
- 既存システムとの連携時に確認すべき項目
- クラウド移行時の注意点
- 運用・保守体制を検討するチェックリスト
一方、ユーザー部門であれば、業務改善事例や操作性、導入後の業務フローなどが関心事項になる。経営層には、費用対効果、導入による経営課題への影響、リスクなどを簡潔に整理した資料のほうが役立つだろう。
一つのホワイトペーパーですべてを説明しようとせず、「誰が、どの段階で、何を判断するための資料なのか」を先に決める。そうすれば、ダウンロード件数を増やすだけでなく、その後の商談や意思決定にも活用できる資料になる。
顧客の購買意思決定を支援するコンテンツ
マーケティングコンテンツというと、自社製品やサービスを説明する記事や資料を思い浮かべるかもしれない。しかし、IT企業では「顧客が自分で判断するためのコンテンツ」も重要である。
顧客はサービスに興味を持った後も、社内でさまざまな作業を進めなければならない。費用対効果を確認する。自社の課題を整理する。導入前に必要な作業を洗い出す。関係部署へ説明し、社内承認を得る。こうした作業を支援できれば、営業が接触していない時間でも顧客自身が検討を前へ進められる。
例えば、次のようなコンテンツが考えられる。
- 費用対効果試算シート
導入費用と現在の作業工数などを入力し、費用対効果を試算できるシート。投資判断の材料を整理できるようにする。
- 課題整理シート
現在抱えている業務・システム上の問題を書き出し、優先順位や導入目的を整理できるようにする。
- 導入前タスクチェックリスト
要件整理、社内調整、データ準備、既存システムとの連携、運用体制など、導入前に確認すべき作業を一覧化する。
これらは、自社製品を一方的に売り込むコンテンツではない。その代わり、顧客が情報収集から比較検討、社内稟議、導入準備までを進める際に役立つ。
検討を前に進めるための「道具」を提供することも、IT企業のマーケティングにおける重要な役割である。
質と量のバランスを意識したリード獲得
リード獲得を強化するとき、「できるだけ多く集めること」が目的になっていないだろうか。IT企業では、リード数だけを増やしても、自社のサービスと適合しない見込み客が増えれば、営業の対応工数を圧迫する。
一方で、質だけを追求しすぎて対象を極端に狭めれば、将来の商談候補が不足する可能性もある。
ALUHAでは、リードや顧客の「質」と「量」の最適なバランスを考える考え方として、BBM(バランスベースドマーケティング)を提唱している。BBMでは、質と量のどちらか一方を最大化するのではなく、自社の利益を最大化するために両者のバランスを考える概念だ。
例えば、営業人数が少なく、一件ごとの商談に多くの工数がかかる企業であれば、リードの質を重視したほうがよいかもしれない。反対に、標準化された提案が可能で営業の対応力にも余裕があるなら、一定の質を保ちながら量を増やす戦略が有効な場合もある。
重要なのは、「質の高いリードを増やす」という抽象的な目標を掲げることではない。営業方針、社内リソース、市場規模、商談化率などを踏まえて、自社にとって適切な質と量の配分を決めることである。
BBMの考え方については、以下のページで詳しく解説している。
まとめ
BtoBマーケティング戦略の方向性が決まらない、計画に落とし込めない企業向けの実践資料です。ターゲット、顧客価値、競争優位を整理し、社内で合意形成しながら戦略を具体化する方法を解説しています。戦略整理Excelシート付き。

戦略整理Excelシート
IT企業(SIer)のマーケティングでは、Webサイト、広告、展示会、ホワイトペーパーといった施策を増やすだけでは、安定した成果につながりにくい。
まず、顧客や市場を理解し、重点的に狙う企業を定める。そのうえで、自社の技術やサービスを顧客価値へ変換し、競合や代替手段と比べて選ばれる理由を整理することが重要だ。
さらに、情報システム部門、ユーザー部門、経営層など、複数の購買関与者が必要とする情報を検討段階に合わせて提供し、顧客企業内の合意形成を支援する必要がある。
こうした戦略を実行するには、マーケティング部門だけで完結させないことも欠かせない。営業が持つ顧客情報や、技術者が持つ専門知識を施策へ還元し、リード獲得から商談、受注までを共通のプロセスとして改善していきたい。
技術力そのものではなく、「その技術によって顧客にどのような変化を生み出せるのか」を伝えること。そして、その価値を適切な顧客、適切な関係者へ届ける仕組みを作ることが、IT企業(SIer)のマーケティング戦略の土台になる。

















