マーケティングオートメーション(MA)とは、リードナーチャリング(見込み客の育成)と、リードクオリフィケーション(有望なリードの選別・抽出)の業務を効率化することを主軸においたIT製品のことだ。
下記の調査結果によると、マーケティングオートメーションは、2016年の市場規模は245億円で、2017年には301億円にまで成長しており、導入企業が増えてきている。弊社の顧客でも導入企業は非常に多い。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/1771
このように、様々な企業での導入が進む中で、マーケティングオートメーションの導入・運用には課題や注意点も多い。
そこで今回のコラムでは、マーケティングオートメーションの導入を検討しているマーケティング担当者の方のために、導入・運用のよくある9の課題をBtoBに特化してご紹介する。
マーケティングオートメーションの導入時や導入後にどんな課題があるのか、9の課題を参考にしていただければ幸いである。
マーケティングオートメーションの導入・運用で注意すべき9の課題・ポイント
マーケティングオートメーションの導入・運用で注意すべき課題・ポイントは下記の9つである。それぞれ詳細をご紹介しよう。
(1)自動化の範囲
(2)リードの行動履歴分析ができる条件
(3)個人情報保護方針
(4)スコアリング
(5)全体像を見たKPI
(6)データ連携・共有
(7)コンテンツ作り
(8)ニーズ調査
(9)操作方法の習得
マーケティングオートメーションの注意点1:自動化の範囲
マーケティングオートメーションは、その名前をそのまま読み解くと「マーケティングの自動化」となる。しかし「マーケティング業務を自動化してくれる画期的な製品」「マーケティング素人の自分でも勝手に自動的にマーケティングをやってくれる製品」というわけではない。
マーケティングオートメーションには、自動化できる部分とできない部分がある。
まず、マーケティングオートメーションには、「リード獲得」を支援する機能があるが、自動的にリード獲得するわけではない(そんな都合のいい機能はあるはずもなく)。あくまで「キャンペーンページ」や「問い合わせフォーム」といったリード獲得に必要なページや仕組みを作る機能を持っているだけである。
リードナーチャリングも完全自動化では無い。ステップメールの配信は自動的に行えるが、毎月、定期的に配信するようなメール(俗に言うメルマガ)は、自動配信ではない。
そのため、自動化は一部分にすぎないのである。
「メルマガやステップメール、リードの確度分析を全部人間が実施していた」という企業から見れば、マーケティングオートメーション導入後の「自動化」の恩恵は大きい。間違いなく生産性も向上するし、分析精度も高くなる。逆に、「メルマガのみ実施している」や「リードナーチャリングは属人化している」という企業から見れば、マーケティングオートメーションを導入しても自動化の恩恵は少ない。逆に業務が増えたようにすら見えるだろう。
弊社もマーケティングオートメーションを導入し運用しているが、以前は、ステップメールを手動で送信していた。毎月のコンバージョン件数も少なかったからだ。
しかし、件数が20件、30件、40件とどんどん増えていくにつれ、ステップメール管理が複雑化し、負荷が増大していった。そのため、マーケティングオートメーションを導入して自動化している。その結果、大きく生産性が向上し、人間ではできなかったより細かなフォロー(OneToOne)ができるようになり、商談発生や成約にも繋がるようになっている。
マーケティングオートメーションの注意点2:リードの行動履歴分析ができる条件
様々な企業がマーケティングオートメーションに興味を持ち導入を検討する理由の1つに、リードの行動履歴分析がある。行動履歴分析とは、「マーケティングオートメーションに登録された個人が自社サイトのどのページをいつ見たのか?」が分析できる機能のことだ。例えば、「リードのAさんが、10月1日に製品Aの概要や事例、料金体系、導入の流れを詳しく見ていた」というようなことがわかるのである。
このような仕組みであるため、リードに対して、いつ・どんな内容で提案すれば受注に繋がりやすくなるか?といった判断材料を作ることができる。だからこそ、営業部門や営業責任者から見れば非常に興味深い仕組みとなるのだ。
しかし、ここで注意点がある。この行動履歴分析を実現するには、「条件」があるのだ。この「条件」を正しく理解していないと、マーケティングオートメーションを導入しても行動履歴分析できないと嘆くことになる。
その条件とは、「マーケティングオートメーションに登録されている個人情報」と「その個人が使っているブラウザのクッキー」が「紐づいていること」である。この「紐づいている」という状態が成立つしてはじめて、行動履歴分析が可能となる。
逆に言えば、過去の名刺や展示会で獲得した名刺の個人情報をCSVにして、マーケティングオートメーションに登録しても、それだけでは行動履歴分析は「できない」のだ。
ブラウザのクッキーと個人情報の紐付けについて
どういうことなのか、わかりやすくご説明しよう。例を交えながら説明するとわかりやすいため、ここでは、展示会で獲得した「鈴木さん」というリードの行動履歴分析ができるようになるまでの流れをご紹介する。
(1)展示会で鈴木さんと名刺交換
展示会で株式会社●●の鈴木さんと名刺交換をし、展示会終了後、鈴木さんの個人情報をマーケティングオートメーションに登録する。
(2)鈴木さんにお礼メールを送信
次に鈴木さんに展示会にお越しいただいたお礼メールをマーケティングオートメーションから送信する。このとき、お礼メールに「展示会で展示していた製品の詳細はこちらのWEBサイトに詳しく記載しています」という感じで、製品ページのWEBサイトのURLを案内する。
(3)鈴木さんがメールを開封し製品ページを閲覧
メールを受け取った鈴木さんがメールに記載されているURLをクリックし、製品のWEBサイトにアクセスする。そして製品の詳細を確認する。
この(1)から(3)の流れをクリアすることで、行動履歴分析が可能となる。特に重要なのが(3)である。(1)、(2)の段階では鈴木さんの個人情報をマーケティングオートメーションに登録しメールを配信しただけである。これでは個人情報とクッキーは紐づかない。
しかし、(3)は鈴木さんがメールを開封しメール内のURLをクリックしている。このときに「個人情報とクッキーが紐づく」のである。
マーケティングオートメーションはメールを配信する際に、メール内に記載されているURLを、配信するリード別に異なるURLに自動変換する機能を持っている。そのため、URLをクリックした時点で、「鈴木さんがクリックした」ということをマーケティングオートメーションが確認できる仕組みになっているのだ。
鈴木さんがクリックしたことを確認できるURLを、鈴木さんがクリックし、鈴木さんがいつも使っているブラウザでWEBサイトにアクセスするため、鈴木さんのブラウザのクッキー情報と鈴木さんの個人情報が紐づくのである。
なお、個人情報とクッキーを紐づける方法は、マーケティングオートメーションからメールを配信し、URLをクリックしてもらう以外に、マーケティングオートメーションで作成した問い合わせフォームから問い合わせしてもらうといった方法もある。
このため、マーケティングオートメーションに個人情報を登録しただけでは、行動履歴分析はできない。URLをクリックしてもらう、フォームから問い合わせをもらうといった条件をクリアし、個人情報とクッキーを紐付けしないといけないのである。
これはマーケティングオートメーションを運用する上で非常に重要な事前知識であり、これを勘違いしたまま導入すると、話が違うとトラブルにつながりかねない。
マーケティングオートメーションの注意点3:個人情報保護方針
上述した「クッキーと個人情報を紐づける」という行為は、個人情報の利用に関連する可能性があるため、念のため、法務部門や弁護士と相談するとよいだろう。
弊社もマーケティングオートメーションを導入する際、弁護士に相談したが、弁護士の見解としては、「クッキーを個人情報と紐づけて活用する」という行為がある以上、クッキーの利用目的を個人情報保護方針にも記載すべきというアドバイスをいただいた。
そのため、弊社のプライバシーポリシーは、下記のような項目を記載している。
(2)Cookieの活用について
弊社では、お客様へのより良い情報提供やサービス提供のために、Cookie(クッキー)を活用しております。 お客様がブラウザにて、Cookieの送信を許可されている場合、当社はお客様のCookieを取得し、お客様の情報とCookieを関連付けます。 これにより、弊社は、お客様の弊社WEBサイトの閲覧履歴を取得することができます。 閲覧履歴は弊社のWEBサイト(aluha.co.jpとaluha.netドメインのWEBサイト)のみで取得でき、それ以外のWEBサイトの閲覧履歴は一切取得できません。 お客様の閲覧履歴は、最適な情報やサービスの提供に活用させていただき、それ以外の目的では一切利用いたしません。
http://www.aluha.co.jp/company/privacy/にて個人情報保護方針の全文を公開しているので、気になる方は全文をご確認いただければと思う。
上記では、「収集した個人情報とクッキーを関連づけて、情報やサービス提供に活用させていただく」と記載し、利用目的を明確にしている。
御社でもこのような記載が必要かどうか、十分検討されると良いだろう。
マーケティングオートメーションの注意点4:スコアリング
様々な企業がマーケティングオートメーションに興味を持ち導入を検討する理由の1つに、スコアリングがある。スコアリングとは、リードの過去の行動履歴(どのページを見たか)やリードの会社情報から、リードに対してスコア(点数)をつける機能のことだ。
自社サイトの様々なページをたくさん見ているリードと、全く見ていないリードでは、見ているリードの方が購入の確度が高い可能性がある。それをスコアリングして、定量的に判断できるようにする機能である。
しかし、スコアリング機能には注意点がある。それは、BtoBの場合、スコアが高いからといってホットリード(確度が高い)というわけではないのだ。なぜなら、BtoBの場合、個人が買うのではなく、法人(企業)が買うからだ。
スコアリングは個人に対するスコアリングであるため、その個人が興味本位でWEBサイトを閲覧していると、購入予定もないのにスコアが上がることになる。こういったことがBtoBでは発生するため、スコアだけで判断するのは危険なのである。
弊社ではスコアリングのデータ以外に、「アンケートの回答結果」などを判断材料とし、ホットリードかどうかを判断している。
「アンケートの回答結果」を判断材料にする方法ついては下記の無料資料が役に立つのでご興味あればお申込みいただければ幸いである。
「セールス連携するときの送客ルール設計書のサンプル付き」
https://btobmarketing.aluha.net/contact/white-paper/#r35
マーケティングオートメーションの注意点5:全体像をみたKPI
マーケティングオートメーションは、マーケティング製品がゆえに、導入後には「効果はどうか?」と責任者に問われる。
そこで、導入時にKGIやKPIを細かく定めて計測するが、これも注意が必要だ。
マーケティングオートメーションはメールを主体にした製品であるため、メールの開封率やクリック率をKPIに設定することがある。しかしこれだけでは不十分で、リードナーチャリングの全体シナリオからメールの役割・目的を明確にした上で、KPIを的確に設計することが必要となる。「メールを配信し、開封率・クリック率が向上しました」だけでは、KPIとしては弱いのである。
さらに、マーケティングオートメーションの効果を経営陣に説明する際、「売上貢献度」についても検討しておく必要がある。マーケティングオートメーションは、あくまでマーケティングを支援する製品で、かつBtoBの場合はメールだけで契約が取れるわけではないため、売上直結というような効果は期待できない。売上という数字はだせないにしても、「売上貢献度」という形で数値化できるようにしておけば、非常に導入効果を説明しやすくなる。
こういった全体像から見たKPIをしっかり設計していなければ、「マーケティングオートメーション導入したけど、結局なにやってんの?」という話になりかねない。
マーケティングオートメーションの注意点6:データ連携・共有
マーケティングオートメーションを運用している企業の多くは、データの連携や共有で悩むことが多い。例えば下記のような内容だ。
顧客の名刺があらゆる場所に保管されており一元管理できていない
顧客の個人情報のフォーマットがバラバラで管理できない
ホットリードを営業やインサイドセールスに送客後どうなったのかわからない
営業部門のフォロー率が悪い
マーケティングオートメーションに登録した顧客企業のリッチな情報(業界や業種だけでなく課題などの情報)を管理できない
マーケティングオートメーションと連携できる名刺管理ツールやSFAやCRMなど、様々なツールを活用すれば、解決することもできるが、その分コストも増大することになるため、データの連携・共有については事前にしっかり考えておくべきである。
マーケティングオートメーションの注意点7:コンテンツ作り
コンテンツ作りは、マーケティングオートメーションを活用する上で必須の業務であるが、最大の課題といっても良いくらい、悩んでいる企業は多い。
マーケティングオートメーションを導入すると、定期的にメールを配信するが、そのメールコンテンツを作り続ける必要がある。これがかなり大変である。
例えば、セミナーの案内メールを毎月送付するとしよう。この時、毎回同じテーマ・同じ内容だとどうだろうか?だんだん申し込み件数も減り、リードナーチャリングできなくなる。そのため、定期的にセミナーの内容を変更するといった工夫も必要になる。しかし、セミナーの内容を変更するというのは、部門を超えた調整が必要になるケースが多く、社内調整に時間がかかる。
このように、定期的にメールを配信するための「ネタの継続性と新鮮さ」が重要で、これがコンテンツ作りの難易度を押し上げている。
そのためマーケティングオートメーションを導入する前に、毎月どのようなメールを送るのか?といった年間計画をしっかり策定し、その上で、他部門への協力確認を行っておくべきである。
マーケティングオートメーションの注意点8:ニーズ調査
リードナーチャリングでは、リードのニーズを定期的に調査し、ニーズにあった提案・コンテンツを提供することが重要である。そのため、ニーズ調査をしっかり行わなければならない。
マーケティングオートメーションでは、フォームを自由に作成できる機能をもつため、ニーズ調査用のフォームを作成することも可能だ。しかしながら、マーケティングオートメーションによっては、フォーム作成の仕様がガチガチに固まっており、アンケートによるニーズ調査がしにくいマーケティングオートメーションもあるようだ。
そのため、導入時には、ニーズ調査(アンケートフォームの作成)の柔軟性についてもしっかり検討しておこう。場合によっては、別ツールを使うことも考えよう(その場合は上述したデータ連携も考えなければならない)
マーケティングオートメーションの注意点9:操作方法の習得
最後の注意点が、操作方法だ。これについては、マーケティングオートメーションの製品のシンプルさに関連するが、弊社の顧客では操作方法で悩んでいる企業が多い。
そのため、外注している顧客もあるが、そうすると施策を打つまでに時間がかかり(メールを配信するのに4日かかるなど)、機会損失が発生する。また効果分析もすぐに数値が取得できず、PDCAを回すスピードも遅くなる。
操作研修をしてくれるメーカー企業も多いが、事前に自分にとって、自社にとって使いこなせそうか?を操作性の面からも判断すると良いだろう。
まとめ
以上、マーケティングオートメーションの注意すべき9つの課題・ポイントをご紹介した。
(1)自動化の範囲
(2)リードの行動履歴分析ができる条件
(3)個人情報保護方針
(4)スコアリング
(5)全体像を見たKPI
(6)データ連携・共有
(7)コンテンツ作り
(8)ニーズ調査
(9)操作方法の習得
今後導入を検討される場合は、上記9つを参考にご検討いただければと思う。